伸ばせばほら、すぐに届く距離なのに。
たった一言、告げるだけなのに。
「す」の次が言えない…。
「? 何、やってんのこんなところで」
「翼! すっごい偶然!」
は助手席に座った。……当たり前のように。
偶々見かけたから、偶然出会ったから送ってあげるだけ。
それだけだ。
「翼の車って、ホントカッコイイよねv いいな〜」
「……柾輝も持ってるだろ? 乗せてもらってるじゃん」
「うーん。でも、翼の方が似合ってるんだもん」
「……」
仲のいい友達だと、必死に自分に言い聞かせてる。
はマネージャーで、後輩で……友達。
それ以上でもそれ以下でもない。
カーブを切るたびに揺れる、の長い髪。
手を伸ばせば、すぐに届くほど近い距離。
「翼、ありがと」
そう言って微笑む。
手の届きそうな距離。
……このまま連れ去りたい。
ラジオから流れてくる、やけに切ないメロディーが……カーブを切るたびに揺れてた気持ちを掻き消してく。
友達の……柾輝の彼女だという事実が頭を掠めた。
僕のものにならない事も……事実。
「でねっ、柾輝ってば、この間ね……」
「うん……そっか……」
が楽しそうに微笑んでアイツの話をすれば、僕も笑顔になる。
……心とは裏腹に。
この秘密を打ち明ける日は、きっと来ないだろう。
泣きたくなるけど、泣けない。泣かない。
たとえ心が張り裂けそうでも。
そう、こんな気持ちは溶かしてしまえばいい。
窓の外を流れてく景色に。
泣きそうな色の、あの空に。
ありふれた、他愛もない話をしていたら、いつしか時は過ぎてた。
が、足元に置いてた鞄を膝に乗せる。
もうすぐ、の家。
身持ちの固い二人だから、僕がつけ込む余地は無い。
小細工も何も効かない。
だから……カーブを切るたびに揺れてた気持ちは、今はもう無い……。
「翼って、本当に優しいね。翼の彼女になれる人って、どんな素敵な人なんだろう」
「っ……」
友達を無くしたくない。
でも……痛いくらいが好きなのも事実。
友達でいられなくなっても、が僕のモノになったなら……
でもすぐに、その思いは掻き消される。
柾輝の顔が浮かぶ。
友達の彼女、それが事実。
僕のものにはならない。
それが事実……。
「ほら……着いたよ」
軽やかな仕草で助手席から降りて、満面の笑みを浮かべる。
「翼、ありがとう! 大好きだよ」
僕も好きだよ。
本当に……好きなんだ。
「……そういう言葉は、柾輝に言ってやれよ」
「ふふっ、じゃあ、またね」
「ああ、また」
小さくなってくの背を、そっと見送る。
……大丈夫。
この秘密が気付かれる事はない。
たとえ心が潰れそうに痛んでも、僕は微笑んでみせる。
この言葉を告げる日が、永遠に来ないとしても……。
「……好きだよ…………」
そして僕は、一人車を走らせる。
助手席に残された、君の面影をのせて……。
Fin.
▲
……うぅっ、姫が可哀相過ぎる!!何て酷い悲恋なのかしら!!書いたのは何処のどいつよ!?(お前だよ)……そうです私です。ごめんなさい。実はこのお話、『E JUNK』という歌の歌詞を使わせていただいております。たまたま見た動画で、この曲が使われて一聴き惚れしました(笑)なんて切ないんだろう!でも、アップテンポの曲調でヒップホップ系な感じなので、重くないんです。すごい軽やかなんだけど、すごい切ない……そこに惚れました。友達の彼女に恋しちゃった……結構ありそうです。姫様は悲恋が似合いすぎる……。柾輝×ヒロイン←翼、この図式に萌える!(おい)ヒロインはあえて鈍感にしました。翼の気持ちなんて、微塵も気付いて無い……のかな?
友達を失くしたくない、でも彼女が好き……こんな葛藤に悩む姫が書きたかったです。姫はいっつもヒロインとラブラブさせていたので、この辺りで少し悲恋に行ってもらいました(酷)いやいや、似合うんだからまあ許して(誰に許しを乞うのか)特に気に入ってるのは「友達の彼女だという事実。僕のモノにならないことも事実」っていう部分。そのまんまですが、すごい気持ちが伝わってきます。まさに葛藤。これぞ短編。って感じの長さになりました。切なく悶えていただけたら幸いです。
2007/10/7 柚