放課後。
ボクは、驚くべき光景を目の当たりにしていた。
ボクは飛葉中に通っているんだけど、サッカー部の練習風景をこうしてよく眺めてる。
それは好きな彼が、サッカー部だからなんだけどね。
黒川柾輝クン。ボクの大好きな人。
不良だなんて言われてるけど、それは勝手な思い込み。
確かに悪いことしてるかもだけど、彼は故意に人を傷付けたりしないもん。
ボクは知ってるんだ、彼がスゴイ優しくて、素敵な人だって。
あれは、入学式だった。
ボクはたまたま、裏庭に猫が入っていくのを発見! すっごく可愛くて、後をついていったんだ。
そしたら、木の影に猫の赤ちゃんが沢山いた。
お母さん猫だったのかな、その子。
でも、餌が無いみたいだった。
ボクは可哀相になって、近くで餌を買ってきたんだ。そしたら、猫は嬉しそうにそれを食べた。
それからは毎日、内緒で餌をあげるようになってた。
でも……ボク、ちょっと体調崩しちゃって。一週間くらい、寝込んじゃったんだ。その間も、その猫たちのことが気になって仕方なくて……治った途端、様子を見に行ったんだ。
そうしたらね……黒川クンがいた。
「ん? これ、アンタの猫?」
「ううん……違うんだけど……」
「餌やってたの、アンタだろ?」
「知ってたの? ボクがあげてたって」
びっくりしたボクに、黒川クンは笑った。
「同じクラスだろ? いつもどこかに走ってくから、ちょっと気になってな」
「そうなんだ……」
「餌はちゃんとやってたから安心しろよ」
彼が、猫の面倒を見てくれてたんだ。
そう思ったら、何だかとっても嬉しくなった。
これをきっかけに、ボクたちはよく話すようになった。
黒川クンは、タバコを吸ったり、ちょっと怖い感じの先輩たちと一緒にいたりして、皆からは少し怖がられてたけど……ボクは全然怖くなかった。
ボクこれでも、実は結構頭良いんだよね。
それで、学校でも優等生の部類には入ってたりして☆アハハ、見えないって声が聞こえてきそーだなー。でもホントなんだよ。
それでね、黒川クンがボクに勉強のことを頼ってきてくれるようになったんだ。ボクはそれが嬉しくて、ますます勉強頑張った。
黒川クンと一緒にいることの多い先輩たちも、実は気さくでいい人たちで。ボクは、表面上の肩書きなんて、全然あてにならないんだってことを改めて実感したんだ。
途中で、一個上に椎名先輩が転入してきて、黒川クンはサッカー部に入った。椎名先輩は、一種のカリスマ性を持ってて、扱いにくい先輩たちをもすっかり手懐けてて、ボクは思わず笑っちゃた。
ボクも、サッカー部のマネージャーに誘われたんだ。
でも、断っちゃった。
黒川クンが、椎名先輩をすっごく信頼して、慕ってたから。
勉強も、椎名先輩はすっごく出来て。黒川クンは椎名先輩といつも一緒だから、ボクはちょっとだけ、先輩が羨ましくなっちゃって……そう思ったら、マネージャーなんて出来なかったんだ。
ボクが断ったら、黒川クンも、椎名先輩も残念がってくれて、ちょっと後悔した。
でも、応援に行けばいいかなって思い直した。
でも……それが間違いだった。
椎名先輩がとってもモテるのは分かってたけど、まさか黒川クンまであんなに人気があったなんて、ボク全然気付かなかった。
普段、あんまり目立ったことをしない彼は、椎名先輩の光を受けて輝いていた。ボクの隣で応援してる子は、黒川クン狙いだってすぐに分かった。
ボクは……この時初めて「黒川クンが好きなんだ……」と自覚した。
マネージャーだったら、もっと近くにいられたかもしれないのに。
変なヤキモチを妬いたせいで、ボクは黒川クンと離れてしまう。
でも、再度お願いするのは失礼な気がして、言えなかった。
相変わらず、黒川クンたちはボクと仲良くしてくれる。
でも、サッカーの話になるとボクは入っていけない。
明らかに、ボクらの間には境界線が引かれてしまっている。
自分のせいだと分かっていても、それを悲しまずにはいられなかった。
それから一年と半年。
今日もボクは、ほぼ日課となっている「サッカー部観戦」をしていた。
そして、今に至るのだ。
「あれって……椎名先輩と……」
フェンス越しに抱き合う二人。
椎名先輩と……ボクの親友の一人。
朝、出陣の儀を交わした子だ。
二人はそのまま、見つめ合って…………ってうわわっ! 覗き見なんて、しちゃ駄目だよっ……/////
一人赤くなって、ボクは目を逸らした。
でも……そっか。
上手くいったんだね、二人とも。
数時間前には、もう一人の親友から「りんご王子は私モノ!」っていう、ちょっと危ないメールが届いた。そして今まさに、もう一人の恋が見事成就した瞬間を目撃した。ボクは親友たちの勇気と、それに応えてくれたそれぞれの相手に、心の中で拍手を送った。
でも、椎名先輩とあの子をくっつけたのは、黒川クンの暗躍があったからなんだ。
ボクは知ってる。黒川クンが、あの子が校門に現れたのに気付いて、椎名先輩と二人っきりにさせてあげようと、一人動いてくれてたのを。
野暮なことは嫌いなのに、大切な相手のことになると、ちょっとだけおせっかいになる黒川クンが、ボクは好き……。
ふと気付くと、夕焼けはすっかり沈んで、夜空が広がっていた。
こんな澄んだ夜空を見ると、心まで澄み切っていくような気がする。
黒川クンに会わないと。
そして、伝えるんだ。ボクの気持ちを……
部室前に顔を出すと、そこには帰り支度をする黒川クンの姿があった。
ボクに気付いたのか、こっちを向いて微笑む彼。
うぅ……やっぱり、カッコイイよ。
「どうしたんだよ。部活はもう、終わっちまったぜ」
「う、うん……あ、椎名先輩たちは?」
黒川クンは少し笑うと、悪戯っぽく言った。
「大将は、部活の途中で女と逃避行しやがった。他の奴らは、淋しさを紛らわすためカラオケに行くんだとよ」
「あはは……皆、すごいなあ」
「おかげで、片付けはほぼ俺が一人でやるはめになったけどな」
そう言って、部室に鍵を掛ける彼。
私は、その後姿にこんな言葉をかけていた。
「ねえ黒川クン。猫たちの家、見に行かない?」
樹の影から、猫が顔を出す。
私たちはその場に屈んで、猫を撫でた。
「お前、大きくなったねー☆あんなにちっちゃっかったのに」
「……そうだな。母猫も……クッ、すっかりデブになっちまった」
「デブなんて言ったら怒るよー?」
「ホントのことだろーが……って、いてっ、こら、噛むなっ…!」
「あはは! 猫も怒るんだよー」
こんなやり取りが、ボクは幸せだ。
久々に、黒川クンと笑いあった気がする。
今なら言える。
きっと自然に「キミが好き」って。
ボクは鞄からチョコを取り出すと、黒川クンに向き直った。
「黒川クン、あのね」
「?」
「ボク……キミのこと、好きなんだ」
「…………」
「ボク、こんな気持ちになったこと今まで無くて……恋とかよくわかんなかったけど。でも、キミに出会って、ボク初めて人を好きになった。好きって気持ち、分かったんだ」
黒川クンが、目を瞬かせる。
ボクはそのまま続けた。
「ねえ黒川クン。もし良かったら……ボクを……キミだけの専属マネージャーにしてもらえないかな…? サッカー部のじゃなくて、キミだけのマネージャーに、ボクはなりたいんだ……」
チョコを差し出したボクを、呆けたように見つめる黒川クン。
言いたいことを言ったボクは、自分でも驚くほど清清しい気分だった。
もし振られても、後悔は無い。
しばらくして、黒川クンは笑いだした。
これにはボクも、びっくりした。
「ちょ、ちょっと黒川クン! 何で笑うのさ!?」
「い、いや……悪い……でも、お前……その台詞、マジで恥ずかしいぜ? クククッ……」
「ひ、酷いよー! ボク、必死だったのにぃ……」
「クククッ……今時、そんなこっ恥ずかしい台詞言ってくれる奴がいたなんてな……」
彼は目じりに浮かぶ涙を拭うと、その大きな手でボクの頭を撫でた。
大きくて、温かいその手は、ボクの頭をすっぽりと隠しちゃうくらいに感じられた。
「でも……ありがとな」
「え……」
「マジで、お前に……そこまで言ってもらえるなんて、夢にも思ってなかった」
「黒川……クン……」
「……マネージャー、なってくれよ。俺だけの、な……」
いつもの飄々とした顔からは想像出来ないくらい、キミは顔が赤くて……ボクは思わず、キミに手を伸ばす。
「うん……!! 黒川クン、ボク、やっぱりキミのこと、大好きっ……」
「うおっ!?」
ボクはそのまま黒川クンに抱きついた。
その反動で、ボクらは二人芝生に倒れこむ。
でも、嬉しくて、その気持ちを表したかったんだ。
黒川クンの胸に、頬を摺り寄せる。
黒川クンが苦笑しながら、ボクの頭を撫でた。
「……猫みてえな奴だな、お前は」
「猫じゃないよ。ボクはキミの、マネージャーだよ……」
「……ククッ……そう…だな………」
「そうだよ……ボクはキミだけのマネージャー……」
「……こりゃあ、アイツらに取られないようにしねえとな……」
「……?」
黒川クンの呟きは、よく分からなかったけど。
ボクは今、とっても幸せな気分だからどうでも良かった。
神様……ありがとう。
ボクたちの恋を叶えてくれて、本当にありがとう。
あとはボクたちの力で、この先を歩いてくよ。
頑張って、この恋を育ててみせる。
黒川クン。
チョコもハートも、全部あげるから、ボクのことも猫みたいに可愛がってね。
そして来年のバレンタインも、隣にキミがいることを願ってる――――。
Mission3:Complete......!!
All Missions are completed!
OK, next――You.
The person who was no good this year and the successful person...I pray
to become next year the happier day...
……というわけで、何と一位は、今まで一人称を使ったことが無いくらい、私にとっては目の覚めるようなキャラである、黒川柾輝氏でした!! 投票は48票。マジびっくりしました。でも、一位。うわわ、とんだダークホースがいたもんだよ;-ロ-)!!
柾輝には、熱烈なファンがいたみたいで、その方たちの愛の結果ですね、これは。投票して下さった方、貴女の愛は本物です(笑)このssを堪能していただけたら、嬉しいです(llllll´▽`llllll)
自分のことを「ボク」と言う女の子、すっごい可愛いと思います。髪はショートで、小さいイメージ。天然で天真爛漫で、純粋無垢で可愛い子が「ボク」と使うと最高だと思うのです◎柾輝には、めちゃ年上のお姉さまか、妹タイプの小さい子がお似合いだと思うのだよ。あと柾輝は、弱いものに優しいイメージです。捨て猫とか、ほっとけなさそう!!(希望)
柾輝は、実際にいたら絶対友達になりたいキャラです。結人や誠二と馬鹿騒ぎするよりも、私は柾輝やたつぼんと、落ち着いて人生について語り合う方が肌に合ってると思うので(苦笑)あと、英士や竹巳とも話合いそうだな、私……(つまり、冷めている)
何はともあれ、ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございました! そして柾輝、おめでとーーーーvvvv