学校に着くなり、教室を見渡す。
ふう……まだ来てないみたい。
空いた隣の机を、ぼおっと眺める。
私の想い人は、サッカー馬鹿。
何よりも、誰よりも、サッカーとその友人を優先する。
分かってる。
アイツには、学校よりもサッカーをする場所と仲間の方が大事なんだってことは。
伊達にずっと、腐れ縁してきたわけじゃあない。
アイツ……真田一馬とは、幼稚園から今までずっと一緒だった。
しかも、クラスもずっと一緒。家もご近所。
ここまで来ると、嫌でも運命ってものを感じちゃう。
そんなアイツを好きになったのは、いつだっただろう。
小学生の時だった。
ふざけて一馬のサッカーボールを蹴ってたら、自分でも思わないほどのいい当たり。
気付いた時は、目の前のガラスに綺麗にヒビが入っていた。
私は怖くなって、そのまま逃げ出した。
翌日、先生が呼び出したのは私ではなく一馬だった。
転がっていたボールが一馬ので、一馬がよく教室でサッカーボールを蹴っていたから。
一馬は黙って、先生に怒られていた。否定も肯定も一切せず、ただ黙って。
私はそれを、職員室の前でずっと聞いていた。
たっぷり小一時間経って、一馬が出てくる。
私は黙って、一馬に向き合った。
「ねえかずま……どうして、自分じゃないって言わないの?」
「……」
一馬はただ、黙って俯いていた。
私はそんな一馬が歯がゆくて、逃げた自分が嫌で。一馬に言った。
「ガラスを割ったのは……わたしなのに」
一馬は俯いたままだったけど、私は続けた。
「かずまのボール、勝手に蹴って……ガラスに当てちゃって。割れちゃった……。怖くて逃げちゃったんだよ」
「……」
「かずまがやったんじゃないのに、どうして先生に言わないの!?」
本当は私だって、怒られたくない。だから逃げたのだ。
でも、一馬が怒られるのは申し訳なくて、それなのに何も言わない一馬が何だか腹立たしくて。私はわけもわからず、怒ってしまった。
そしたら一馬は……何故か私に微笑んだ。そして、頭を撫でたのだ。
「……、泣くなよ」
「な、泣いてないっ……泣いてないもん!!」
いつの間にか泣いていたらしい私。一馬は笑いながら、頭を撫で続ける。
「がやったって知ってたから、言わなかった」
「知ってたの……?」
「お前しか、俺のボールに勝手に触らないもん」
じゃあなおさら、どうして言わなかったのだろう。そう思って問うと、一馬は真っ赤になって、ぶっきらぼうに言った。
「……お前が先生に怒られるの、嫌だったからだよっ」
そのまま駆け出した一馬に……私は完全ノックアウトされた。
好きになってしまったのだ。
腐れ縁で、友達だった一馬を、男の子として好きになった。
それから数年経った今。私たちの関係は、変わっていない。ただ変わったことといえば、最近一馬の付き合いが悪くなったということくらい。
理由は簡単。サッカーや、友達の方が、私より大事だから。
そりゃあそうだ。私はただの「腐れ縁」。サッカーや友達は「一馬の大事なもの」なんだから。でも、ぶっちゃけ……そいつらが憎い(微笑)もう、殺しちゃいたいくらいむかついてるv 名前は何だっけかな……確か……韓国っぽいのと、惣菜屋みたいな感じだった気がする。
だからこそ、今言わないと駄目だと思ったのだ。
気持ちを伝えないと、私たちは確実に離れてく(そして私はそいつらを……殺る)そうしたらもう、前のようにはなれないもん。
「バカじゅま……学校じゃあ、私くらいしか友達いないくせにさ」
不器用で、変にプライドが高いアイツ。だから、学校とサッカーを両立することが出来ない。それくらい、人生の機微だと思ってこなせよ! と何度も思ったが、私はあえて口にしなかった。
だって……一馬は私を頼ってくれるから。
そうすれば少しは、一馬と繋がっていられるから。
自分でも思うけど……何て真っ黒なのかしら、私!(にこっ)
一馬は純情で、純粋な奴。
それに比べて私は、結構(大分)性格悪いし、狡賢いと思う。
でも、一馬が腑抜けてる分、私みたいな相手の方が丁度いいとさえ思ってる。頼りない、へタレ一馬には、私くらい狡猾な女じゃないと危ないの!
いつ、どこで、汚らわしい魔の手が迫ってくるか……考えただけでも、腸が煮えくり返るわ! あー、私の一馬が……!!
「? 何一人でぶつぶつ言ってるのよ……」
「え? あ、何でもない……あはは……」
友人に適当に返事をすると、背後に存在感。
振り向かなくても分かる。
「よお、真田。うわ、それ全部チョコかよ? すっげー」
「別に……どうってことねえよ」
愛想もなく、そう言い捨てる一馬。あーあ、そこはもっとフレンドリーに返さないと会話が続かないでしょ! と心の中で突っ込む。
机の横にぶら下がった袋には、溢れんばかりのチョコの山。
一馬は……モテる。そりゃあもう、あり得ないほど。毎年、義理と称してチョコをあげてきたけど……本命なんて一体いくつ貰ったのか、想像さえ出来ない。
こんなへタレ男、隠れ純情野郎のどこがいいのかね……と思う。しかしすぐに「お前だろ」という突込みが返ってくる。心の中で。いやいや、実はへタレじゃないんだよね……ホントはさ。
私はすっと立ち上がると、一馬に小声で話しかけた。
「ねえ、一馬。ちょっと話したいことがあるの」
「え……」
「一緒に来て……くれる?」
屋上に連れ出して、私は一馬を振り返った。
完璧よ、この角度。振り向き具合。髪の靡く方向まで、念入りに練習したんだから!
私は一馬を流し見ながら、ふと切り出した。
「一馬……私ね……」
「お、おう……」
一馬が焦ってるのが分かる。
きっと私が何を言うかなんて、想像付いてるに違いない。
でも、ここが私の腕の見せ所。
一馬の前でだけ、私は……黒くなっちゃうのv(にっこり)
「……一馬のことが、ずっと好きだったの……」
「っ……」
「ねえ一馬……一馬は私の事……好き?」
俯き加減で、涙を浮かべてみせる。
一馬が息を呑んだのが分かった。
女の涙に弱いなんて、一馬はやっぱり男の子なんだ。
視線を彷徨わせて、口を開いては閉じて。
そんな焦りに焦った一馬が可愛くて、おかしくて。
今にも吹き出しそうになるのを、何とか堪える。
私の予想では、一馬は次に泣きそうになって言うんだろう。私への、返答を。
それが良いものか、悪いものかまでは分からない。
普段とは違う私を見せたけど……それが一馬の心を掴んだかどうかまでは分からない。
「……俺っ……」
「……」
「俺も、お前のこと……す……」
「……」
「す…き……だ」
真っ赤な顔で、蚊の鳴くような声で呟く一馬。
……想像していたとはいえ、ちょっと生で直視するのは心臓に悪い。可愛過ぎるよ、一馬……。
それと同時に、嬉しさが込み上げてくる。
一馬が私のこと好きだって……!!
嬉しいっ、すっごい嬉しいっ……!!
やっぱり全ての努力が報われた結果よ!!
性格悪くても、狡猾でも、私はこの純情王子を手に入れたのよ……!!!(感動にむせび泣く私。心の中で)
私は持ってきたチョコを口に含むと、一馬にチョコレートキスv(命名)を勝手にお見舞いした。真っ赤に染まったリンゴは成す術もなく(?)そのままチョコを食べる。
うわぁ……一馬ってば、涙浮かべてるんだけど!!
かーわーいーいーーーーーーvvvvvv(心の中でじたばた)
でも私は演技派女優!(おい、いつなった)最後まで演じきってみせるわ!!
口が触れるか触れないかで、チョコを食べさせる。
潤んだ一馬を薄目で見ながら、私はチョコから口を離した。
こんなギリギリのことだって、私は出来る。
一馬が好きだから、翻弄させたい。
もっともっと、一馬を私に夢中にさせたい。
だって私は、一馬を愛しているから……!!(力説)
「……おいし?」
真っ赤な顔で、無言で頷く一馬。
私はそのまま一馬に抱きついた。
「うわっ!?」
もう、ぜーったいに離さないっ!!
サッカーにも、郭とか若菜とか言う奴らにも、一馬は渡さないわっ!!
「ちょ、ちょっ、……////」
「一馬……好き…好きよ……」
「……/////」
小学生のあの日から、私の心は一馬の物。
そして今日から、一馬は私の物なんだから!
「一馬……ずっと一緒にいてね? 私を守ってね?」
「……ああ。俺はいつだって……お前と一緒にいるから……」
一馬の呟きに、私は目を閉じる。
ごめんね、一馬。
守って……なんて、大嘘ついて。
一馬は私が死ぬまで守る。
一馬は私の物! 私だけのリンゴ王子様なんだから……!
「一馬……大好き」
サッカーが何よ! 友達が何よ!! 私の思いは、海より深くて、空より広いんだから!!
一馬の前でだけ、私は可愛い女でいられればそれでいい。
普段は腹黒? 性格悪い?
ふふっ、上等よ。そういうのを、負け惜しみって言うのよ。
女はね、誰もが生まれながらにして、色々な自分を演じて生きてるの。
でも、その中のどの自分も、紛れも無い私自身なんだから。
だからいいの。
一馬の前の私が、その辺のブサイクの前での自分と全く違ってもね☆
「……俺も好きだ……」
一馬、ごめんね?
でも、それだけ私はアンタに惚れてるの!
アンタに夢中なの!!
だから分かってね?
私だけの、可愛い可愛いリンゴ王子様v
もう一生、私から離れられないように、色々調教しちゃうんだからっ☆
Mission1:Complete......?
……というわけで、三位はリンゴ王子様こと、かじゅまでした☆かじゅまへのコメントは、ほとんどが「可愛いv」だった気がします。いや、ホントかーいいですよね。前回のサンタ企画では、後半追い越されてしまいましたが、今回は見事入選です。32表。へタレっぷりに、ノックアウトされた乙女多数みたいです(笑)
それとは別に、今回初めて「攻め」ヒロイン書いてみました。基本受けヒロインしか描いたことがなかったので、とっても新鮮で面白かったです。私はめちゃMなのでこのヒロインの気持ちはちょっと分からないですが(苦笑)でも、かじゅま相手だったらちょっとだけ、色々苛めてみたいかなぁと思っちゃったりしました。いや、実際にいるわけないですから、私の願望は生涯叶うことはないんでしょうけどね。男の受けははっきり言ってキモイとか思っちゃうんですが、一馬だったら特例で許せそう(おいおい)
とにもかくにも、かじゅま、三位おめっとー☆