「こんばんは、亮」
……」
 今夜もいつも通り彼女は俺のマンションへとやって来る。「ただの」女として。
「亮が好きだと思って、少し高めのワイン買ってきたのよ。飲むでしょう?」
「ああ、もらう。でもワインの前に……」
「あっ…」
が欲しい」



 Vanityナ情



 
がココに来るようになって、どれくらい経つだろう。
 出会った時のは、繁華街の奥地のバーで、一人悲しそうに酒を煽っていた。若くて綺麗な女が一人……その理由は想像に易い。声を掛けたら、驚いたように目を見開いて……そして、小さく、悲しそうに微笑んだに俺は心を奪われた。

 ちょっとした出来心だった。
 一夜限りの関係で終わらせるつもりだった、本当は。
 なのに……俺は。
 と夜を共にするようになって、少しずつのことが分かってきて、同時に知りたくもなった。

「なあ、……俺、もう……」
「……ダメ、まだ、ダメ」

 ベッドの中では少しだけ意地が悪くなること、とか。
 見た目以上に心は成熟している、大人の女性であることとか。
 の落ち着いた雰囲気は、一人身の女じゃそうそう出せないだろうこととか……。
 考え出したらきりがない。

 でも俺は、の全てを知りたい訳じゃない。
 ただ……終りの見える現実――この関係――から逃げているだけだ……。

……愛してる……」
「亮……」

 このまま、の香りを抱いて眠って。
 目覚めないまま、夢を見続けられたらいい。
 朝なんて来なければいい。
 そんな妄想だけが膨らむ毎日に、ほとほと嫌気が差す。

 理想の中に、ありもしないはずの世界だけが広がっていくなんて……自分でも耐えられない。

、俺だけのものになれよ……」
「……っ……んんっ……」

 を俺だけのものにしたい。
 他の誰かに触れさせたくない。
 は俺だけのために乱れ、俺にだけ乱されればいい。
 そんな燻った想いが、紙一重の狭間を行き交ってる。

「亮ぁっ……」
「っ……」

 の白い手が、俺の首へと回される。
 首筋に感じる、冷たい感触。
「ちっ……それはお前の男に対する贖罪のつもりか? それとも俺へのあてつけか?」
「ふっ……んんっ……はぁっ……」
 乱れるの左薬指には、銀色に輝く細い指輪。
 ……気に入らない。がいつも身に付けているこの鎖が、俺との距離を近づけさせないからだ。
「こんなもん付けやがって……っ」
「あぁっ! いたっ……ん」

 その目障りな指輪に噛み付き、の指に噛み痕を残す。俺の精一杯の、自己主張だった。
 未だ見たことの無い、の……結婚相手への。

 そうして交わすとのkissは、いつも苦くて。
 その度にまた、が俺のものになることは無いのだと思い知らされる……。



「じゃあね」
っ……」

 何度と見た、明け方の光景。
 もうデジャブを思わせるほどに見てきたこの情景。
 しかし、何かがいつもとは違った。

 そうだ。
 扉を開けるが、もうふり返らない……。

 扉の閉まる音がやけに大きく響く。
 その音はまるで、俺ととの関係にピリオドが打たれたように聞こえる。

「くそっ……」

 今夜は、アイツの腕の中で夢を見るのか? 
 アイツに抱かれて、お前は淫らに善がるのか?
 アイツの名を呼びながら、快楽に打ち震えるのかよ?

――――傍にいてほしい……出来ることなら

 自分でも吹き出すような、夢見がちな欲望が溢れ出る。

 はもう、俺に飽きたのだろうか?
 ……浮気という社会に背く火遊びに、もう疲れたのだろうか?
 それとも俺が、こんな先の見えない関係に疲れたのだろうか……?

 は俺を求めていて、この関係を必要としているのか?
 にとって俺は何なのだろう。
 ただの浮気相手? 寂しさを埋めるだけの存在?
 もう……何も分からない。

 ただ一つ言えるのは……俺がを欲しているということだけだ。





「亮……あのね、話があるの。入ってもいい?」
「……
「っ?」
 数日後、少しだけ思い詰めた表情でやって来たを、俺はいきなり抱き締めた。
「亮……あのね、私……っんんっ!?」
 そして、不意のkissで黙らせる。
 ……この先の言葉なんて、聞きたくない。
「亮ぁっ……あのねっ、話が――――」
「黙れよ。俺が全部忘れさせてやる」
「ふっ……んんっ……やぁっ……」

 別れなんて、絶対に切り出させない。
 俺はを逃がさない。

 でも……
 抵抗せずに、俺の与える快楽に身悶えるの淫靡な様に、俺は複雑な気持ちを抱いた。
 弄んでいるはずで、を追い詰めてやってるはずなのに……何故か満たされない。
 欲情しているはずなのに……どこか空しい。

「あきっ……らぁっ……もっと……」
「……」

 焦らした指先が、行き場さえも失くしていく。
 縋り付くように、俺に手を伸ばしたさえも、遠くに見える……。






 真夜中、俺は隣で眠るの声で目が覚めた。
 は眉根を寄せながら、必死に何かに縋るように呟き続けている。

「……えい……し……帰って……きて……」
「っ……」
「……寂しい……よ…………」

 悲しく呟かれたその言葉に、胸が酷く軋んだ。
 閉じたその瞳からは、とめどなく涙が零れ落ちてくる。
 握られた手に光る、銀の指輪。

「ちきしょう……っ……お前は、夢の中でまで、を独占してやがるのかよ……!」
 
 を泣かせ、を浮気に走らせた張本人。
 この浮気は、にとっての逃げ道だったに違いない。
 帰ってこない夫を待つ、寂しい毎日から逃げ出したいの……。

「んぅ……えい……し?」

 ぼんやりとしたの瞳に映る、俺の顔。
 寝惚けているのか、俺を「えいし」と間違えているらしい。

――」
「英士っ……帰ってきて……くれたのね……! ……うれし……い…………」
「っ……」
「大好き……大好きなの……英士…………」

 そう言って微笑んだ
 俺はが、こんな幸せそうに微笑んだのを一度だって見たことがなかった。
 俺といる時のは、いつもどこか無理をしていて、悲しそうで、辛そうだった。

…………」
「英士……愛してる……どこにも……行かないで…………」

 再び眠りに落ちた
 俺は、涙に濡れた頬を、軽く拭ってやった。

 ……俺はもうこれ以上、の悲しげな瞳を見たくない。
 悲しそうに微笑むは、これ以上無いくらいに痛々しい。
 俺だったら、にこんな悲しい顔をさせないのに。
 アイツじゃなくて、俺だったら……を一生大切に守ってやれるのに。

 俺だったら……
 理想の中に、ありもしないはずの世界だけが広がっていくのにも……もう慣れた。

「どうして……俺じゃないんだよ……」


 ならせめて……が俺のモノにならないのならば、せめて。
 涙に迷うのは俺の腕だけにしてほしい。
 が愛しているのが俺じゃなくてもいい。
 二番目でいいから、の心に俺を刻みたいんだ。

 そうすることでしか、俺の気持ちは報われない。
 俺は、救われない……。


 繰り返される、快楽の夜。
 でも……触れれば触れるほど、が遠ざかっていく。
 まるで、月のように。
 近付いても近付いても、捕らえられない。

 ……分かってる。
 この関係が、もう長くはないということを。
 それでも俺は、この空っぽの関係を虚飾で満たして誤魔化す。
 終わりの音に、気付かぬように――――。



End...

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 ぎぇーーーーー、みかみん、悲愴感ですね!! ひっでー話だよオイ。Vanityでみかみんをやっちゃいました。Vanityには、自惚れとか、虚無感とかいった意味があります。この歌は、まさに人妻との浮気の歌でしょう。しかも相手がなんとキムチ!!なんというアンビリバボー!(お前だ)いや、だって英士だもん。英士って、私の中では独占欲強くてヒロイン大好きなくせに、超Doエス!!なせいで、ヒロインを苛めて苛めて苛め抜きそうな気がするんだもん!!(ちょ、まっ……)だからあえて、浮気とかしたり、家に帰らなかったりして、ヒロインを散々追い詰めた末に、鞭じゃなく飴を与えて自分への気持ちとか確かめそうじゃないですか!?(お前最低だな)いや、ほんっとサーセン!!(ホントだよ土下座しろ)
 でも私、やっぱり浮気相手は浮気相手だと思うんですよ。帰る場所があるから、浮気も出来るってもんじゃないかと。ま、乙女にとって浮気は大罪ですけどね! ぶん殴って慰謝料請求して軽く半殺しにしますよね? 普通にv(怖っ)
 なんか、みかみんについて全然書いてないなぁ……とにかく、みかみんには大人な恋愛が似合いそう、爽やかさとかいらない! アダルト万歳☆とか思って、この歌に合わせちゃいました。人妻に翻弄されるみかみんが、意外と良かったです(最悪な締めだな)

2008/08/30 桃井柚