「桜の花を目にしたら……私のことを思い出してね」
君の声、君の微笑み、君の涙。
何もかもが、頭の中で鮮明に繰り返される。
桜の花びらが舞う中、空を見上げれば、今でも君が隣にいるような気がしてる。
「……」
僕たちはまだ、君の面影を探し続けてる――――
桜〜君へ捧ぐ、僕らの恋歌〜
――――side 一馬
「分かってる……ああ、必ず行くよ」
結人からの電話を切り、俺はベッドに転がった。
その拍子に、壁に貼られた写真が目に入る。
満開の桜。
輝く笑顔。
そのどれもが、今も俺の胸を締め付ける。
「……」
呟いても君は、もういないのに。
それでもこうして、ふとした時に口から出てしまう名前。
がいなくなって初めて。
俺は自分の気持ちに気付いた。
何て滑稽で、愚かだったんだろう。
もっと早くに気付けていたら、気持ちを伝えることだって出来たのに。
そうしたらきっと、の不安や苦しみにも気付いてやれたのに。
俺は自分のことしか見えていなくて。
きっと誰もがそうだった。
誰もかもが、に頼って、の優しさに甘えて。
の微笑みに安らぎを求めて。
でも……誰かいたのか?
に安らぎを与えてやれた奴が。
が甘えられる相手が、俺たちの中にいたのか?
写真から目を背けた俺は、そのまま眠りについた。
もうすぐ……あの季節がやってくる。
白い世界が彩づき出す季節。
俺たちが出会った季節。
そして……
君を永遠に失った季節が。
――――side 英士
「分かってるよ、結人。俺が忘れるわけないでしょ」
結人は見かけによらず心配性だ。
この話をするのだって、今月入ってもう5回目になる。
こんなやりとりをもし、君が見ていたなら。
君は苦笑するだろうね。
そして、困ったように微笑んで、そして言うだろう。
――――本当に仲良しなんだから――――
そう。俺たちは仲良しだ。
でも、それはも含めて。
はどこか、自分と他とを線引きして考えるところがあった。
よっぽど控え目な性格なんだろうとか、自分が女だからとか。
そんな見当違いなことを考えていた俺は、本当の馬鹿だったと思う。
窓を開けると、ふわりと風が舞い込んでくる。
桜の木が、段々と膨らみを帯びてくるのが分かる。
もうすぐだ。
また今年もやってくる。
淡く降り積もった雪が溶け、優しい雨が降る季節が。
君と共に過ごし、笑い合った日々が。
「俺は……馬鹿だ」
自嘲気味に呟けば、ふいにの微笑みが浮かんだ。
あの時伝えられなかった言葉を、どうしても君に伝えたい。
そんな俺の勝手な思いを、全て分かってくれているかのような微笑み。
そんな微笑みを、俺は返してやれなかった。
からは貰ってばかりで、俺は何もあげられなかった。
君に会えるまであと少し。
俺はこんな思いを、この先ずっと覚え続けていくのだろうか。
――――side シゲ×竜也
「ずいぶん寒さが和らいだな」
「そうやね……もう、春やな」
春。
その言葉に、他意はない。
しかし、彼らは歩みを止めた。
無言のまま、見つめ合う。
「なあ……シゲ。は、桜が似合う子だったな」
「……ああ。アイツ以上に、桜が似合う女は見たことがあらへん」
毎年、見事な花を咲かせ、万人を魅了する桜。
桜は、その散り際さえも美しく、誰もがその凛とした佇まいに見惚れる。
の言葉を思い出す。
「桜はね、たった数週間花を咲かせて、すぐに散っちゃう。でも……だからこそ、その一瞬が綺麗なんだと思うの」
満開の桜の下、彼女は微笑んだ。
「だからね、私も桜のように生きれたらいいなって思う。……短い生涯でも、花開いた一瞬が綺麗だったって言ってもらえるように。桜みたいに、潔い生き方がしたい」
この言葉を聞いた時、俺たちはまだ何も分かっていなかったんだ。
君がどんな気持ちで、どんな思いでこの言葉を言ったのか。
どんな時も優しく包み込むように、俺たちに安らぎを与えてくれた。
子供だった俺たちは、それを受けるだけで、返してやることが出来なかった。
「……、ごめん、ごめんな……」
「たつぼん……何泣いとんの……カッコ悪いで」
「……お前だって、泣いてる、くせに……」
「……くっ、俺らホンマ、カッコ悪いな……こんなんじゃ、に嫌われてまうな……っ……」
でも……たとえカッコ悪くても。
君がもう戻ってこなくても。
俺たちは涙を流さずにはいらなれないのだ。
君を失った悲しみと、君がいない寂しさに耐えるために。
泣くということをしなければ、それを乗り越えられないから。
「……そろそろ時期やね」
「ああ……久々にまた、全員揃うだろうな」
「楽しみやね……」
「ああ……」
「……喜ぶやろうな」
「……ああ、きっと」
また歩きはじめた青年たちの背後で、微かに春の息吹が芽生え始めている。
――――side 亮 with 旧武蔵森メンバー
「おい、バカ代! 何ぼさっとしてんだ。とっとと行くぞ」
「わ、分かってますよ!」
このお菓子も、あのゲームも、全部ちゃんにあげるんだ! と段ボール箱を積み上げる後輩に、俺はため息をついた。こんなもん、アイツが喜ぶわけ……いや、あるかもしれないが。
「バカかお前は! こんなもん、持ってけるわけねえだろーが! せめて鞄に入れられるだけにしておけ」
「えーっ! やだ!! だってこの新商品のスナック、ぜーったいちゃん好きですもん! このゲームだって、絶対気に入るだろうし!!」
「お前なぁ……」
「そんなこと言って、三上先輩だって、色々仕込んでるんじゃないんですか? あ、そのぬいぐるみってちゃんが好きだったシリーズっすよね!?」
「うわっ、バカ、やめろ、引っ張るな……!!」
――――ごろごろごろんっ
「……三上先輩、いくら何でもぬいぐるみ10体鞄に入れるのはどうかと……」
「……うっせーな。お前よりマシだっつーの」
「三上先輩、一体どうやって飾るつもりですか、この人形。先輩だって、迷惑すると思います」
振り向けば、呆れ顔の笠井がいた。奴は見たところ、大した荷物も持っていない。
「タクー! タクは何も持ってかないの?」
「俺は楽譜。先輩が……好きだった曲の」
「……そっか。それだけ?」
「あとはピアノ。携帯用、だけどね」
けっ。アイツの前で、演奏披露しようってのか。一人洒落やがって。
でも、こういうのは悪くねえと思うんだ。
アイツはきっと、どんなものでも喜ぶ。
今さら……遅いかもしんねえけど。
「三上ー。もう出るぞ」
「わーってる。ほら、渋沢が呼んでる。行くぞ」
二人の後輩を連れて、思い出の場所へと向かう。
風が運んできた、4月の香りに誘われて……。
――――side 結人×将
「風祭ー! お前、もうすぐ何の日か分かってるよな!?」
「もちろんだよ、若菜君。……ちゃんに会いに行く日だよ」
「……おう、分かってるならいいんだ」
自分でもしつこいってのはよく分かってる。
でも、俺にはこれしかないから。
アイツのことを、少しでも皆の中に鮮明のまま残してやることしか、俺には出来ないから。
「若菜君……ちゃんのこと、好きだったんだね」
「……俺だけじゃないだろ。お前だって、好きだったんじゃねーの?」
「……うん。僕も、大好きだった」
コイツとこんな話するのも、実は初めてかもしれない。
何せ、あの頃は全ての奴がライバルだったんだ。
風祭だって、こんなほやほやしてるくせに、突然冴えたこと言ったりする危険な奴だ。
そうだ。俺は……のことが大好きだった。
君の笑顔を見れば、どんなことも許せそうな気がした。
君の声を聞けば、それだけで頑張れそうな気がした。
そんな、青臭い思いを本気で信じられるほど、のことが好きだったんだ。
でも……君はもういない。
俺に笑いかけてはくれない。
俺の名前を呼んでくれない。
「……会いてえよ……」
呟きが、春の夜空に溶けていく。
ちゃん。
僕にとって、かけがえのない女の子。
明るくて、優しくて、誰よりも強い女の子。
君を見てると、僕も強くなれるような気がしていた。
君が応援してくれると、自分の持ってる以上の力が発揮できたんだ。
僕は今でも君に恋してる。
君の瞳に、その声に、眼差しの全てが、僕の中で生き続けてる。
「ちゃん……もうすぐ、君に会いにいくから」
僕たちの心の声は、君に届いているのかな。
――――side 翼
「玲、行ってくる。……何か、アイツに伝えることある?」
「……大丈夫。伝えることは、昨日自分で伝えてきたから」
「そう。じゃあ……」
強い風が、僕の髪を揺らす。
4月の風が、僕を導いていく。君の元へ。
この風を感じると、決まって君が鮮明になる。
遠い遠い、記憶の中の君が、目の前に蘇る。
満開に咲き乱れる桜。
その姿は春をまとう恋人たちのよう。互いに寄り添って、綻んでいる。
今年も例外なく、僕を立ち止まらせる桜。
桃色に染まる空を見上げ、僕は立ち尽くしている。
瞬きさえも出来ない。
「翼……ありがとう……」
今頃お前も、どこか遠くでこの桜を見てるんだろうか。
そして、また、あの日指切りした約束思い出してるのか?
――――そのうちお互いを忘れる時が来るけれど……桜の花を目にしたら、その時は……――――
満開の桜の中で、まだ咲いていないつぼみを見つける。
それはまるで、あの頃の僕たちのようで……苦笑した。
「翼……あのね……私、ね……」
幼い恋心。
淡い想い。
素直になれない、子供な自分。
意地っ張りで天の邪鬼な自分。
そんな幼さが、僕と君を阻んだ。
「……僕はずっと……ずっと……」
ふわり、と目の前を懐かしい香りが掠める。
思わず目を見開き、その後ろ姿を追い掛ける。
「待って……! っ!」
人ごみに紛れる誰かの後ろ姿が、君と重なって眩暈を起こしそうになる。
栗色の長い髪に、目を奪われる。
「…………」
他人の空似だって分かってる。
でも、追い掛けずにはいられなかった。
目を閉じれば、今も聞こえる君の声。
君の微笑み、君の言葉、その眼差し。
何もかもが、今も僕の心を捕えて離さない。
君の全てに、僕は捕らわれたまま。
君を永遠に失ったあの日から、僕の心は止まったまま。
君の面影だけを追い求め、そこから抜け出せない僕。
君の思い出という迷宮に閉じこもり、そこから動けない僕。
情けなくて、悲しくて。
泣きたくなんてないのに、勝手に泣けてくる。
「おーい、翼! 何やってんだ、こんなところで。もう行かないと、時間に――――」
「……柾輝、僕は……どうすればいい? 僕は……アイツがいないと……」
驚いたように僕を見る柾輝。
しかしその直後、僕の頬に鋭い痛みが走った。
じんわりと、頬が痺れる。
「ふざけんなよ! 翼、アンタがそんなままでいたら、一番悲しむのがアイツだってこと、分からないのか!?」
「っ……柾輝……」
「はな、アンタをこんな風にするために、最後にあんな言葉を言ったんじゃねえよ! は、アンタだから……アンタが大切だったから、だから言ったんだよ! そんなことにも気付けないほど、アンタは鈍感でもバカでもないだろ!! しっかりしろよ!」
目を赤く滲ませながら、息を切らせる柾輝。
僕は何も言えなかった。
柾輝が泣いているように見えたから。
「こんなところにいたのか……」
「お前ら……」
気付けば、周りにはよく見知った顔が揃っている。
手には花束やらお菓子やらぬいぐるみやらを抱えて、寂しそうな微笑みを浮かべながら。
「せっかくだから、一緒に行こうぜ」
三上が言うと、若菜が笑った。
「俺たちのお姫様のもとへな」
僕は俯いたまま、こくりと頷いた。
「いつ来ても、不思議な場所だよな……此処」
真田が呟く。
確かに、桜がひしめき合う中に静かに佇む此処は、一瞬異世界に思えるような不思議さが漂っている。
「さて……やるか」
渋沢の言葉に、他のメンバーが各々に動き出した。
「ちゃーん、ちゃんの大好きなお菓子とゲーム、持ってきたんだよ! 絶対食べてね!!」
「そんなに置いたらすぐに食えなくなるだろーが! 悪いな、バカ代がバカのままでよ。でも、コイツなりに頑張ってんだ。だから勘弁してやってくれ」
「むっ! そんなこと三上先輩に言われたくないっす!! 聞いてよちゃん! この前、三上先輩ってばまた――――」
「うっせーな!! の前でそういうこと言うなよ!!」
三上と藤代の掛け合いに、が苦笑しているのが見える。
「相変わらずだね、亮と誠二は……」
そう言って、優しく微笑んでいるのが見える。
「……いつも同じので悪いな。でも、お前にはこれが似合うから」
「、たつぼんな、これ選ぶ時、めっちゃ恥ずかしそうにしとんで。彼女のプレゼントですかーって店員にからかわれてるんや。それに赤面するたつぼんがおかしくておかしくて」
「シゲ!! 余計なこと言うな!!」
「でも、ホンマ、には花が似合うで。ま、一番はやっぱり桜やけどな」
大きな花束には、色とりどりの花々。
「うわあ……綺麗な花! ありがとう……!!」
の笑顔が浮かぶようだった。
水野と佐藤は、毎年決まって大きな花束を持ってくる。
花束なんてキザだけど……コイツらがやると、何となくしっくり来ると思ってる。
まあ、悔しいから絶対言ってやらないけどね。
「……俺たちからは、写真を持ってきた」
「俺たちの活躍が詰まった、スペシャルなアルバムだぜ! もう、これ見たら絶対俺たちのファンになること間違いなし!!」
「……の写真は、永久保存してあるしね。俺たちの頑張りを、にも見せたいって思って」
こいつらも、昔から変わらない。
写真には、三人以外の写真も入っているらしい。
いつどこで撮ったのやら……僕の写真は高いよ?
が声を立てて笑っているのが見える。
「ちゃん……皆、君のことが大好きだよ。だから、だから……」
将の呟きに、俺はぎゅっと拳を握った。
震える声で、それでも精一杯明るく振る舞おうとしている将の気持ちが、痛いほどに伝わってくる。
柾輝が俺を見ている。
その瞳は「アンタから言わなきゃダメだ」と言っている。
「……柾輝、悪いな」
「……行って来いよ、翼。が、アンタを待ってる」
駈け出して、の前に立つ。
そして僕は、今まで言えなかった言葉を口にした。
「……、久し振りだね。いや、先月来たけど」
僕はここから動かなきゃいけない。
のためにも、僕から。
「皆、お前のことが好きだったなんて……どんなハーレム状態だったんだよ。なのに、誰もお前を手に入れられなかったなんてさ。ホント、笑えるよ」
僕は、君のことが好きだ。
今も、ずっと。
「でもさ、今なら言ってもいいよね? 自惚れでも何でもなく、お前が好きだったのは僕だったってこと」
――――ねえ、翼、私……――――
「僕さ、ホントは気付いてたんだよ。お前の気持ち。嬉しくて……でも、僕、好きな子ほど苛めたくなるんだ。……分かってるよね? も。だから、わざと気付かないフリしたままでいた」
――――翼……ありがとう……――――
「お前がいなくなるなんて、考えたこともなくて。……つまらない意地なんて張らずに、言えばよかった。お前のことが大好きだって。ずっとずっと、多分お前が僕のこと好きになるよりも、ずっと前から」
――――桜の花を目にしたら……私のことを思い出して――――
「桜なんてなくても、今も僕は、お前でいっぱいなんだ……お前しか見れないし、お前しか好きになれない。僕をここまで好きにさせといて、一人いなくなるなんて、ズルイと思わないの?」
――――ごめんね、翼――――
「……なんてね。これはただの八つ当たり」
僕だけがずっと、お前の死を受け入れられなかった。
お前の面影しか、見ようとしていなかった。
「でも……それも、今日で止めるよ。お前のことを好きだってことを、思い出にしてみせる」
と過ごした日々が、目の前に蘇る。
あまりにも綺麗すぎて、触れたら壊れてしまうくらいに脆いガラス。
それが幾重にも重なって出来た、僕たちの思い出。
「そのうちお互いを忘れる時が来るかもしれないけど……桜の花を目にしたら、少しでいいから思い出してほしいの……」
「ああ……約束する」
「翼……ありがとう」
が死ぬ前、僕たちは約束した。
それは、一生守り続ける。
は僕の心の中で、一生輝き続けるから。
忘れたくても忘れられるわけがない。
だって君は、僕が本気で好きになった女なんだから。
人を愛するということを、君が教えてくれた。
そんな大切な存在を、忘れることなんてできやしない。
「……僕の一世一代の大告白、ちゃんと聞いてた? びっくりしすぎて、声も出せないだろ」
ぽんっと、肩に手を置かれる。
振り返ると、薄く微笑む柾輝がいた。
「相変わらず、美味しいところ持ってくよなー」
若菜が口を尖らせると、藤代が大声で叫んだ。
「俺だって気持ちだけなら椎名に負けないし! ちゃーん!! 俺はちゃんが大好きだーーーーーーーーっ!!!!」
「だーっ! うっせーバカ代!! ここがどこだか分かってんのか!?」
「うっさい!! 悔しかったから三上先輩も叫べばいいじゃないっすか!!」
「っ……ちっくしょーーーー!! ーーーーーーっ!! 俺もお前のこと好きだったんだぜ!? お前は鈍感で気付いてなかったけどよーーーーーーーー!!!(泣)」
「うーーー、俺も叫んでやる!! ーーーーーっ!!! 俺、ずっとの写真持ってるんだぜ!! これは俺の宝だ!! お前は俺の天使だーーーーーーー!!」
「結人……迷惑だって」
「英士だって、クールぶりながら、ずっとのこと見てたんだぜーーーー!!」
「……結人、余計なこと言わなくていいから」
淋しいはずの墓地が、賑やかな声に包まれている。
満開の桜が、の墓標を優しく見下ろしている。
この桜は、もう次の雨で終わりを告げるだろう。
散り際も、きっと見事で僕たちを魅了するに違いない。
でも……お前は桜のように生きたいって言ってたけど、僕は本当は、そんな風な生き方をお前にしてほしくなかった。
短い生涯を精一杯生きて、散り際さえも潔く美しい桜になんて、僕はなってほしくなかった。
ずっとずっと、静かにひっそりとでいいから、穏やかな時を生きてほしかった。
美しくなんてなくていいから、ただ笑っていてほしかった。
もう、叶わないことだとは分かっていても。
そう思わずにはいられない。
ふいに、美しいピアノの音色が聞こえてくる。
笠井が、携帯用のピアノを弾いているらしい。笠井も随分、粋なこと考えるじゃん。
「これは……別れの曲、か」
「相変わらず、プロ並の腕前だなぁ」
藤代が微笑んで笠井を見つめている。笠井は、言葉に出来なかった思いを、この曲に込めて弾いているに違いない。
だって、こんなにも俺たちの心に響くんだから。
旋律の中に、を想う心と、別れを惜しみながらも、確実に一歩踏み出そうとしている俺たちの気持ちが滲んでいるんだから。
「アイツも、マジでのこと好きだったんだな……」
三上の呟きに、僕は苦笑する。
が好きだった曲。
美しい旋律が、この場所には似合っている。
そして、僕たちの別れに相応しい曲だった。
「……これだけは覚えてろよ。俺たちは、お前のことが大好きだってこと」
ぶわっと風が吹き、花吹雪が舞う。
花びらの隙間から、僕たちが大好きだった笑顔が見える。
「ちゃん……!!」
将が、その先に手を伸ばす。
しかし、届かない。……届くわけがないのだ。
と僕たちの間には、もう越えることの出来ない壁がある。
――――私も、皆のことが大好きよ――――
微笑みを残し、彼女の残像は消えた。
最後の最後で、また僕の心を揺さぶるなんて。
まったく、酷い女だよ。
でも……そんなお前が好きだ。……いや、好きだったよ。
僕は、彼女の墓標に向かって精一杯微笑んだ。
「バイバイ……」
君はこれからもずっと、僕が好きだった人――――。
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はい、ジャンヌ歌詞お題、フィナーレを飾るのは「桜」、オールメンバーでお送りしましたが、いかがでしたでしょうか。
春にこの一話を挙げる予定で、この企画を進めてきました。かなり駆け込みセーフって感じになってしまいましたが、一応日にち的には春でいけますよね??
オールメンバーと言いつつ、偏り過ぎだろう自分。オールメンバーは、この企画に参加したメンバーを指してます。だからタクとかキャプとかちょっとおまけ(笑)
やっぱり笛と言えば姫様なので、最後の花は姫様にあげましたvうーん、姫様好きだぁ★ヒロインさんが、本当に翼のことが好きだったかどうかはご想像にお任せします。ヒロインさん、今回は一回もちゃんと出てないですが、これもお題ってことでお許しください。
桜って、本当に好きなんですが、どこか寂しい気もします。散り際が美しい花……古来の日本人の生き方を象徴する花として有名な桜ですが、やっぱり私も、一瞬が美しい花になんてなりたくないって思いますもん(大丈夫だ。なれないから)美しいうちに死にたいなんて言ってる美人さんいるかもしれませんが、その人の周りはきっとそんなこと思わないですよ。どんなに老いても、一緒に笑い合えることを望むと思います。
春は出会いと別れの季節。私としては、別れの方が強い印象です。だからこんなお話になってしまったんですが(汗)でも、フィナーレを飾るには良いお話に出来たような気がします。
約一年とちょっと、ちょろちょろとやってきた10周年記念企画でしたが、これで企画終了となります。
最後までお付き合いいただいた方々、本当にありがとうございました。やっぱり、ホイッスル!は最高ですね◎こんな企画をやれて、私も本当に楽しかった♪大好きな笛とジャンヌのコラボってことで、テンション上がってました(笑)
また、この企画を持ちまして、笛夢はしばらく凍結させる予定です。突然の告知になってしまいましたが、前々から考えていました……(詳細はまた、別にお知らせします)
今まで遊びにきてくださった方、この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
サイトを閉鎖するとか、笛夢書きを辞めるとか、そういうことではありませんので。ただ、一時更新を停止するということでご理解ください。
それでは、今後とも当サイト、並びに桃井柚を宜しくお願いします。
2009/04/12 桃井柚@笛!大好きっ子