「もしもし？　うん……ごめん。急用が入って。また夜に電話するから」

　携帯電話を切って、お決まりの場所へと足を運ぶ。
　この時の俺には、安っぽいプライドもヘタな遠慮も無い。いや、いらない。
ただの、一人の男になる。
　
　そう。
　恋人の前では決して見せない、ただの欲の塊に――――。



ROMANCヨ〜欲望と愛の狭間で〜



「英士、こっちこっち」
「ごめん、待った？」

　古めかしいカフェには、見知った顔。
　。俺の……浮気相手。
　俺はいつも、本命の彼女を上手く誤魔化してと会う。
　……自分の欲望を曝け出して。

「……今日はいつも以上に可愛い。……すごいそそられる」
「英士ってば……まだ時間早いのに」
「クス……だって、同じでしょ」
「ふふふっ」

　彼氏になる気は無い。だって俺には彼女がいるし、はただの浮気相手だ。
　束縛もするし、嫉妬だってするけど……でも「愛してる」じゃない。
　ただ、だけの特別でいたい。それだけの関係を俺は求めてる。
　身勝手な俺の、都合のいい相手。それが。

「英士といると、私本当に楽しいな」
「……」

　無邪気に笑う君を見てると、時々少し胸が苦しくなる。上手く言葉にできないけれど、何とも言えない気持ちに駆られる。
　だから……

「……俺もといると楽しいよ。の前にいると、本当の自分でいられる。……好きだよ。……俺だけを見て」
「英……っ……んっ……」

　こんな風に、ズルくて優しいセリフを並べては、その気持ちを紛らわせる――――。

　ああ……じれったいロマンス。君を離さない。
　何て俺は身勝手なんだろう。
　だって、俺は絶対に君を彼女にはしない。
　理由は……俺は君を「愛して」はいないから。
　ただ、傍に置いておきたいだけ。
　お気に入り。それだけだから。

　こんな未来のない関係に、終わりなんてない。
　……だってまだ始まってもいない。そんな不確かで、曖昧な関係を俺は楽しんでる。

　めくるめく恋でもないし、トキメキなんて全く無い。
　でも、これも愛の形でしょ？
　……そんな悲しげな目はやめてよね。だって、今、俺といるのは楽しいでしょ？



「英士……？　あっ……」
「、もっと乱れなよ……」
「やっ、英士……ダメっ……」

　わざと冷めたフリしてKISSをする俺。でも、本当はこんなに身体が熱くなってるのには気付いてる？　

　彼女を抱いてる時とは全然違う。
　の前では、イイ男、恋人を演じなくていいから。
　ただの男がただの女を求める……それだけでいい。そう思うだけで、自分でも驚くくらいに身体が熱くなる。

「英士っ……もう許して……もうダメぇっ……」
「ダメだよ。まだ……」
「やぁっ……」

　だから、止められない――――。



「英士ぃっ……会いたいっ、会いたいよぉっ……」
「……うん、いいよ。おいで……俺が慰めてあげる」

　でも俺は、“の特別”だから、泣きたくなった時は慰めてあげる。……彼女にバレない程度に。

　だけどそれは「愛」じゃない。
　そこは勘違いしないでよね。

「英士……ありがとう。大好き……！」
「っ……」

　無邪気な笑顔を見せる。
　……胸がずきずき痛む。この痛みは、日に日に大きくなっていってる気がする。それは俺の気のせい？　それとも……
　いや、は彼女じゃないし、する気も無い。
　だって俺には、本命の彼女がいる。俺はその彼女を愛してる。それは紛れもない真実で事実だ。

――――じゃあは？

　……言葉にうまくできないけれど、でもを手放したくない。
　だから、を縛る言葉を。この胸の疼きを紛らわす甘い言葉を並べる。

「……好きだよ。は俺のモノだから、俺以外の男を好きになったらダメだよ。はずっと、俺だけを見てればいいんだから。も俺のことが好きでしょ？」
「……うん。英士のことが好きっ……」
「……そう。それでいいんだ……」

　こんなズルくて優しいセリフが、スラスラ出てくるなんて、最低男の極みだ。
　でもそれでも、を手放したくない。


　ああ、何てじれったいロマンスなんだろう。
　もっと都合良く愛を手に入れる方法は無いのか。
　彼女の愛と君の愛。どっちかなんて、もう選べない。
　……何て身勝手なんだと思う。でも、投げやりになってるわけじゃない。俺は今のこの生活を楽しんでる。余裕がある。ただ、この身勝手さが許される今だけは、この生活を手放したくないだけだ。

　を絶対に離さない。
　だけど、身勝手な俺は、絶対にを彼女にはしない。
　理由は……もう自分でもよく分からない。

　との、先の見えない関係には終わりはない。
　……だって始まってもいないし。
　だからこのまま、ずっとずっとこの曖昧で不確かな関係は続いていくんだ。

　……そう思うと、ほんの少しだけ幸せで。
　でもやっぱり、どうしようもない気持ちに駆られる。
　本当に身勝手なロマンスだ。

　めくるめく恋でもないし、トキメキもないけどね。
　でも、これも愛の形だよ。
　だから、そんな悲しげな目はやめてよ。この関係が続くことを、自身も望んでるんだからさ……。


end...

:RE>>

＼(>。<)／ギャ-英士でやっちゃったよ！！
　このロマンスって曲は、浮気の歌です（笑）でも、すっごいメロディーが綺麗で、私は好きだったりします。歌詞はすっごい過激なんですが、お話中では少し曖昧に、オブラートに包みました……一応全年齢ってことでね（;´▽｀lllA``
　彼女にしたくないけど、手放したくない複雑な男心って感じですかね？　何となく分かるような分からないような……。でも、ちゃんが可哀相じゃんねぇ……。英士って、こういった役が似合うような気がします。この曲聞いて、英士が思い浮かんだ辺り（苦笑）結構平気な顔して浮気とかしてそう（酷）いや、ポーカーフェイスだからさぁ。まあ、機会があれば、是非一度聞いてみてくださいませ☆

2008/02/16 桃井柚