「最近、水野、服装とか一気に変わったよな」
「確かに! しかも、高そうな服ばっか。タバコもふかしながら歩いてたの見たぜ」
「一体何があったんだか……まあ、大方予想は付くけど」

 仲良しトリオの視線の先には、随分と大人びた格好の水野竜也がいた。
 彼はもともと、付き合いのいい方ではなかったが、ここ最近、めっきり悪くなった。
 友人たちは彼の変化を訝しく思っていたが、勘の良い者は大体の予想を付けていた。

「まあな。男が服装変える……慣れないことする、格好つけるなんて、理由は一つしかないんじゃない?」
「さっすが姫さんや。どうやらクールビューティーな兄さんも気付いとるみたいやけど」
「え!? 何だよお前ら。何に気付いたっていうわけ!?」
「お、俺も分かんねえ……」
「一馬、結人、本当に分からないの?」

 呆れた様子の英士に、同じように溜息をつく翼。
 シゲは、さも楽しそうに小指を立てながら笑った。

「コレが出来たに決まっとんやんv」





 
Liarウソ:真実=9:




「あ、竜也」


 こ洒落たバーで、微笑む美女。
 やっぱり彼女は、この店、いや今まで出会ってきた誰よりも綺麗だ。

 出会いは偶然だった。
 たまたま一人、ふらりと入ったバーで、彼女が隣に座った。

 目が合って、鼓動が跳ねた。
 一目惚れをした。
 今まで出会ってきた女性が全て霞むほど、彼女は美しかった。
 
 それから俺は、毎日のように彼女と会った。
 こんなに積極的に自分から行動したのは、初めてだった。でも、絶対に彼女を手に入れたいと思ったのだ。

 そして今、彼女――――は、俺の恋人になった。……辛うじて、だが。

「もう、遅いから先に飲んじゃったわよ」
「こら、ダメだろ? 若い女性が一人で酒を煽るなんて」
「ふふ、でも、私貴方より年上よ」
「たかが『2つ』だよ」

 ……違う。本当は『6つ』だ。
 俺は彼女に、年齢を偽っている。その理由は……

「私ね、大人っぽい人が好みなの。子供っぽい人……ていうか、年下はダメね」

 その言葉を聞いて、俺は絶望しながらも何とかしがみつこうとした。
 咄嗟に「たかが2歳差。俺は其処らへんの男より、ずっと君を満足させられる自信があるよ」と、ハッタリをかますほどに。
 彼女は驚いたように目を瞬かせ、やがてぷっと吹き出した。
「ふふっ、すごい自信。でも私……そういう人、好きよ」

 彼女の妖艶な微笑みに、俺は完全に参っていた。
 俺は、逸る鼓動を押えながら、軽口を叩いた。
「じゃあ俺と、付き合ってみるか?」
「……いいわよ。私を、満足させてね?」
「ああ、もちろん。君がもう嫌だって言うくらい、満足させてみせるよ」

 シゲあたりが聞いていたら、爆笑されるに違いない歯の浮くようなセリフ。
 こんなセリフをまさか自分が言う日が来るなんて、夢にも思っていなかった。
 こういうのは、椎名とか、女の扱いに長けてる奴の専売特許だと思っていた。

 でも、そんな言葉の一つや二つでを手に入れられるのなら、何でも良かった。



 との出会いから、俺は常にキザなセリフを並べて強がっている。
 年齢のことも、もう引っ込みが付かなくなってしまった。
 本当はまだ、大学生なのに……俺は、社会人のフリをしている。

 酒もタバコも、本当は苦手だ。
 でも、彼女と釣り合うために、俺は無理矢理酒を飲む。タバコも吸う。
 最初のうちは、家に帰り着く前に吐いてしまっていたけど、今は大分慣れてきた。
 酒もそこそこなら飲んでも大丈夫になってきたし、タバコの特有の不快感も薄れてきている。

 ……そうしてないとが、離れてしまいそうで怖かった。
 本当はまだ幼くて、必死で大人になろうとしている俺に気付かれるのが怖い。

「竜也って、いつもセンスの良い服着てるわね。どれもすごい高級ブランドばっかり」
「そう? だって、いつもお洒落じゃないか。すごくよく似合ってるよ」
「ありがと。ボーナスで奮発しちゃった」

 は大企業の社長秘書を務めているらしい。
 当然、収入もいいわけで。幸い、姉さんがアパレル業界に精通しているために、ブランド品など安く譲ってもらえたりするのがせめてもの救いだ。
 それでも、貯金はもう既に底が見えてきていて、生活が逼迫してきているのが事実なんだけれど。
 でも、サッカー関連の資料などを諦めても、俺は自分を飾り立てるのを止められない。

 ブランド品で身を固めた俺は、本当の俺ではない。
 サッカーが好きで、皆と笑い合ってた水野竜也じゃない。
 無理に着飾って、大人びた振舞いをしている俺は、完全にもう一人の水野竜也だった。

 でも、そんな無理をしても、を失いたくない。
 創られた自分でも、彼女がいるなら何でもいい。
 彼女に出会って、俺は「強がる術」を教えられたんだ。

「竜也って、すごい色々なこと知ってるのね。流石、証券会社の有望株ね」
「まあね。これくらい、勉強してないとやっていけないさ」

 証券会社……本当は経済学部の学生だっていうのに。
 必死で経済新聞を読み、株の動向を知り、それをさも得意げに語る自分は酷く滑稽だった。

 でも……今はこれでいい。
 何もかも全てハッタリと、知ったかぶりでもいいだろ?
 そうすることで、弱い自分も変えられるんなら、嘘でもいいじゃないか。
 嘘から出た真って言葉だってあるんだ。

 だから俺は、嘘をつき続ける。
 それが「真実」になるその日まで……。



 と恋人同士になってから、3か月。
 女性経験が決して豊富とは言えない俺も、をそれなりに満足させることは出来ている気がする。
 幸い……は悦んでくれている。
 
「竜也っ……竜也ぁっ……」
……好きだ……愛してる……」

 愛の言葉も、彼女の吐息も、何もかもが愛しい。
 彼女さえいれば、他なんてどうでもよかった。

 普段は綺麗な顔で、妖艶な微笑みを絶やさない

 でも、愛し合うこの時だけ、彼女は色々な表情を見せる。
 それがまた、扇情的で……俺はに溺れていく。

 この幸せが、永遠に続けばいいと思ってた。
 しかし、終わりは常に、あっけなく訪れることも分かるくらいには、俺は大人だった。
 



「竜也、もう終わりにしましょ」

 いつも通りの妖艶な笑みのまま、軽い口調でそう言った彼女。
 ここで取り乱したら、それこそ本当に終わってしまう。
 そう思った俺は、敢えて動揺を隠しながら言う。
「へえ……随分突然だな。他に好きな奴でも出来た?」
「そうじゃないけど。やっぱり私、年下はダメみたいなの」
「その年下に、あんなに呆気なく組み敷かれて好きにされてるっていうのに?」
 少しは動揺してくれるかと思いきや、彼女はゆっくりと微笑む。
「竜也……貴方が背伸びしているの、見ていてとても可愛かったわよ?」
「っ……」
「久々に、こんな純情で可愛い子といられて私も楽しかった。でもね、もう終わり。私は大人。貴方は子供。無理をして合わせるには、離れ過ぎてるの」
……」
「たまには一緒に飲みましょ? その時は、お姉さんが奢ってあげるわ」

 男らしく、潔く。
 最近は少しサマになった気もしていたのに。
 の理想は高すぎて、霞んだまま見えない。

「……もう、ダメなのか? 俺じゃ、には釣り合わない?」
「釣り合うとか釣り合わないとか、そういうことじゃないのよ。無理して飾り立てた自分でいるのは、貴方も辛いでしょ?」

 俺の瞳を覗き込む
 その時、彼女の瞳がほんの少しだけ真実に揺れた気がした。

――――私も辛いの――――

 しかし、それも一瞬で、彼女はまた、俺が溺れ続けた瞳に戻る。
「じゃあね、竜也。今日は私が払うから」
「ま、待ってくれ…………!」

 彼女は可愛らしく微笑んで、店から出て行った。
 俺はどうすることも出来ずに、その場から動けなくなった。

「くそ……くそっ……」

 ウイスキーを流し込んでも、全然酔えない。
 昔なら、簡単に酔えて、何もかも忘れられたのに。
 のため、酒にも慣れてしまって、自分で自分の首を絞めているのが何ともおかしい。
 酔いたい時に酔えないなんて……。

 の、小悪魔的な笑顔に踊らされたとは思わない。
 この3か月は、決して嘘じゃなかった。
 たとえ中身が、嘘で塗り固められた俺だったとしても。

「軽くリセットかよ……そりゃないだろ……んぐっ……ぷはぁ」

 酒の飲み過ぎで、目の前がぼやけてくる。
 頭は冴えてるのに、身体はこれ以上ないくらいにダルイ。

 目から、何かが零れ落ちる。
 それが、酒のせいなのか、何なのか、もう判断出来ない。
 でも、喉の奥がひり付いて、しょっぱい気がする。

 ああ……俺は、泣いているのか。
 俺は……振られたのだ。
 大好きだった人に、振られたんだ。
 だから泣いているんだ。

 でも……後悔はしてない。
 を好きになって、自分を偽ってまで彼女に近付いたことに後悔はない。
 むしろ、そこまでやった自分を褒めてやりたいくらいだ。

 その時だった。携帯が輝く。
 届いたメールは、俺が愛して止まなかった彼女から。

【竜也、いつかアナタを振ったこと、後悔させてね。イイ男になりなさい^^】


 俺は袖口でゴシゴシと顔を拭うと、大声で言う。

「すみません! おかわりください!!」

 これからも俺はまた、今と同じ味の涙を味わうことがあるかもしれない。
 でも、いつか、嘘をついて強くなれた過去を笑い飛ばせるように、俺はなってみせる。


 携帯を閉じた俺は、そのままウイスキーを勢いよく煽った。



fin.

:RE>>


 超久々に笛!です。というか、10周年記念なのに、もっと早くアップしろって感じですが(;´▽`lllA``
 たつぼんで「Liar」です。ウソツキ。私はこの曲が、本当に好きで好きで、この10周年記念企画を立ち上げようと思ったのも、この曲でお話が書きたいと思ったからだったりしますv最初はシゲっぽい曲だと思ったんですが、ここはたつぼんに頑張ってもらおうと思い立ち、今に至ります。久々にたつぼん視点でお話書いたので、何だか難しかった。セリフ回しが、どうしても俺様とか可愛い系が似合わない子だと思うので、大人っぽい口調に苦労しました……。でもまあ、少し背伸びした彼が書けたかなーと思ったり。
 嘘:真実=9:……なんだと思います? 全てが嘘だと思っても、その中に真実が含まれてることってよくあると思うんですよね。嘘を付く理由も、色々あると思いますけど……。ヒロインさんは、たつぼんのウソに気付きながらも一緒にいたわけで。大人っぽい人が好きだからと言って、たつぼんを振ってしまったわけですが、それが全て真実かはわかりませんよね。そんな、嘘と真実のせめぎ合いを楽しんでいただけたら嬉しいです。
 あ、ちなみに桃井の人生は常に「Liar Game」ですけど(最低すぎる)

2009/04/12 桃井柚