調査報告書 10020号

『テレビの砂嵐――映像によるマインドコントロール――』

調査概要:『テレビの砂嵐』という都市伝説を探る。

メディアを考える中で、外せないのがテレビ。テレビに関する都市伝説は多いが、その中でも特に目立つのが「砂嵐」にまつわる噂である。

〔例1〕テレビの放送終了後、砂嵐のような画面になるが、これを三十分以上見ていると死ぬ(精神錯乱状態になる)
〔例2〕ある男性が、テレビを見ながらつい寝てしまった。気がつくとすでに真夜中。テレビは本日の放送が終了しており、ザァーという音が、砂嵐の映像とともに消し忘れたテレビに映っている。これも消して本格的に寝ようかと思った男はふと手を止めた。突然画面が切り替わったのだ。しかし画像が荒く、どこの場所を移しているかよくわからない。男性が目を凝らすと、下から映画のスタッフロールのように名前が出てきては上に消えていく。それがしばらく続いた後、ようやくその名前の羅列は途切れた。そしてまた画面が切り替わり、黒の背景に白い文字で『明日の犠牲者は以上です。おやすみなさい。』、そう表示されると、画面はまた何事もなかったかのように砂嵐へと戻った。
〔例3〕ある男性が、NHKを見ながらついつい寝てしまった。ふと起きると、今日の放送を終えたらしく、砂嵐の映像が映っている。消そうとしたが、奇妙なことが起こった。砂嵐が終わり、変わりに大勢の人間のテロップが流れ出した。男性はこの異常な現象に目を見張った。テロップはかなりの時間続いた。そこで男性はテロップの中に自分の名前を見つけてしまった。テロップが流れ終わると、いつもの砂嵐に戻っていった。急に恐ろしくなった男性はガクガク震えた。「この砂嵐の正体は何なのか…」次の日の朝、彼はNHKへと電話をかけて、この砂嵐とテロップについて質問をした。答えは簡単に帰ってきた。
「ああ、それは受信料を払っていない人の名簿を放送終了後に流しているんですよ。あなたも早く払ってくださいね」
男性は受信料を払っていなかったのだ。
〔例4〕ある男性が深夜ぼけーっと、テレビチャンネルをザッピング(チャンネルをパチパチリモコンで変えながら見ること)していた。もう遅い時間なので、いくつかの局はすでに放送を終えていた。しかし、かまわず全部のチャンネルをチェックしていると、男性はとんでもないものを見てしまった!それはすぱらしいプロポーションを持った女性の裸の映像だった。「そんな馬鹿な!」と思う男性。普通の局でこんな映像を流せる訳はない。裸の映像は五秒ほどで終わり、また砂嵐がザァーっと流れた。その映像が流れたのはB局で、そこはこれといって目立たない放送しかせず、男性は普段見る機会のない局だった。しかし、あの裸の映像がまた流れないだろうかと思った男性は、一晩中砂嵐を見続け、その甲斐あってか何度か過激なシーンを見ることができた。そして砂嵐が流れていない普通の放送のときもなるべくB局を見るようになったという。実はこの映像、予算がないB局が打った苦肉の策であり、短時間の過激な映像を砂嵐に紛れ込ませ、それで興味を持った視聴者を取り込み、番組の視聴率アップを狙った戦略だった。

 
ざっと挙げただけで、こんなにもある砂嵐に関する噂。一昔前までは、夜中の二時くらいになると、この砂嵐を見ることができたが、現在は夜通しテレビが放映されているため、滅多に砂嵐を見ることが出来なくなっている。
 例1・2は、かなりホラー色が強い話である。元々砂嵐自体が、あまり美しい映像とは言えず、好んで長時間見続けるような人間の方が稀だろう。夜中、砂嵐を一人部屋で見ている図を想像すると、何だか気味が悪い。砂嵐の持つ不気味さが、例話のような噂を作り出したのだと考えられる。
 例3と例4は、ある意味笑い話である。受信料未払いの人間の名前を流す。普通なら笑って流せるが、もし自分が未払い者だったら……少し気になる噂だ。さらに、例4は実話だというから驚きだ。「放送局のマスター室で無修正のAVを観ていたら、それが放送されてしまった」とのこと。もちろんこの社員は解雇処分になっているが、当時はすごい話題になったようだ。
 この他にも、『未来の結婚相手が映る。ただし三分以上見ると死んでしまう』というようなものも存在している。砂嵐を見ることが難しくなった今、逆にこの噂は増えていくのではないかと思われる。見ることが出来ない稀少なものを、人は求めるものだ。この先どんな砂嵐にまつわる噂が生まれ出てくるのか、今から楽しみである。


追記:
 映像で、他人を操ることは容易い事である。映像は見るもの、写すものではなく、創るものとして存在している。元々人間は、音声や色といったものに左右されやすく、映像によって意識操作、つまりマインドコントロールされることはよくある。テレビのCMなどもそれの一種を担っていることは周知の事実である。
 今回の事件において、謎として残されているいくつかの事項も、この映像によって闇に葬られたといっても過言ではない。尚、当事務所は今回の件に関しては一切の関知をしておらず、この報告書をもって調査の打ち切り、終了を報告する。また、これ以上の捜査に重要性を見出せないことからも、捜査機関への捜査中止を進言させていただきたい。


以上

御影探偵事務所所員
結城 璃緒


※尚、本報告書は、同事務所所長、御影 紫季の管理下において、永久に保管されるものとする。




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