EPISODE:9 酔っ払い、らびんぐゆー



「……」

 開いた口がふさがらないとは、このこと。
 私と高城君は今、とんでもない現場を目撃している。
 ごしごし……ごしごしっ。
 ……目を擦って見ても、状況は何も変わらない。

「た、高城君……これって……な、に?」
「いや……俺もちょっと……理解しかねる…か、な?」

――――アンタらの台詞はもっともだよ! なんちゅーシーンなんだよ!? これって乙女ゲーですよね!? どこをどう間違えば、男同士のキスシーンが出てきちゃうわけ!? 明らかな製作ミス、ジャンルの勘違いだろーが!!

 目の前には、真っ赤な顔でオカマ……いや、オーナーに抱きついて、キスしている杉原先輩がいる。その目は虚ろで……いや、心なしか……オヤジ化? していた。

「ちょっ……んむっ……アンタ、一体どうしちゃったのよ!? は、放しなさいよっ!!」
「ムッフッフッフ! キレーな顔のおにーさーんだぁ……! むちゅっv」
「アタシはねー! 押し倒される趣味はないのよ!! 退きなさい!」
「いーやーだーよよーん☆」

――――ギャアッハッハッハ!!! 誰だよお前!! ていうかコレ、乙女ゲーじゃねーよ! ただのお耽美ゲーだよ!! まあある意味乙女だけどさ。

 
がーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!!!(効果音)
「「杉原先輩!?」」


――――ギャッハハハハハっ!! 主人公と静の劇画タッチスチルだ!! マジ爆笑!!



 この人は……一体誰?

 目の前で繰り広げられる痴態に、私と高城君は思わずあとずさった。
 何ていうか……ヤバイよ!! 何かにとりつかれてるよ!! 悪魔!? エクソシストを呼ばないと!! えっと、電話番号は――――って、何わけわかんないことしてるんだ私! いつも柔和な笑みを崩さない高城君が、珍しくうろたえている。いやー、いいもの見た!……って、そうじゃないでしょ!! バカか私!!

――――爆笑!! この主人公、ホントうけるんだけど!! 全然乙女じゃねーっ!!

「はーなーしーなーさーい!!!」
「いーやーでーすぅーっ☆フッフッフッフ……」

 あまりにもしつこさを増す先輩の奇行。
 見るに耐えかねた私たちは、咄嗟に二人同時に詠唱を始めていた。

――――マジで!? 仮にも攻略対象を攻撃しちゃいますか!? アハハハハハハ!!!

「星の光よ――――」
「水よ――――」

 しかし……

「――――退けって言ってんだろーが!!」

――――どげしっ!!


「ぎゃぼーーーーーーんっ!!」


 オーナーの鮮やかな蹴りが、見事先輩にクリーンヒット。先輩は泡を噴きながら、倒れ伏した……。
 唖然としている私たちを他所に、オーナーは言い捨てる。
「俺を怒らせるからだ。ったく、クソガキが……」

――――きゃーっ!! カマが男らしさを見せたわ!! これぞ萌え!! 
ていうか晋也、マジでうざいんだけど……こんな攻略キャラ、マジでいらねー! しかも「ぎゃぼーん」て! ぎゃぼーんって何?!
 

 オーナーは、鬱陶しそうな目で先輩を見下ろすと、指をパチンと鳴らした。すると、どこに控えていたのか、SPのトメ吉さんが現れ、先輩を担ぎ上げた。
「その辺に捨ててきな」
 無言で頷いたトメ吉さんは、そのまま店の外へと消えていった。
 一部始終を見ていた私と高城君は、声も出せない。
「……あのメガネ、お前らの知り合いなんだろ? もう二度と、俺の前に姿見せるなって言っとけ。次は蹴りじゃすまさねーってな」
「あ、あの……オーナー……」
「何だよ。何か文句でもあんのか?」
「い、いや……別に。というか、何か突然男らしいですね……」
 私の言葉に、高城君が苦笑した。
「オーナー、すっかり元に戻ってますよ」
「あ? 何言ってんだよ、静。俺は何も――――」
 突然ハッとしたように口を押さえるオーナー。
 そして、ばつの悪そうな顔を見せる。
「……アタシとしたことが、ついうっかり、汚い言葉遣っちゃったわ。ゴメンね、静。ったく、これも全部、あのメガネのせいよ!」
「オーナー……私への謝罪は無いんですね……」

――――えー、またオカマ言葉に戻ったよ。あのまま俺様でいてほしかった〜!!ていうかカマ、お前には何か過去がありそうよのぅ。

 怒り狂うオーナーに聞こえないように、ぼそっと高城君に耳打ちされる。
「オーナーってね、ああ見えても、元暴走族のリーダーだったんだって」

――――元ヤン来たーーーーーーーーーーッ!!!!!(涙)ていうか皆、過去暴露早すぎですから〜!!

「えっ!? 嘘!!」
「クス……その時の名残がね、興奮したりすると出ちゃうらしいよ。まあ俺は、オーナーはそっちの方がいいかなと思ってるんだけど」
 そう言って笑った高城君に、私は…………。

――――お、選択肢。

1、「うん、そうだね」
2、「オカマの方が好きかも」
3、「こっちの方が……好み」

――――おぉ! 何かカマルートにも入れる感じ?? 1は普通に、2は違うでしょ? やっぱり3を選んだら、カマの好感度が上がるのかな?? 逆ハー狙いなら、3よね!(あくまでも逆ハー狙いのつもり) よっし、3をぽちっ☆

「確かに……」

 さっきのオーナー……普通にカッコよかったよね。
 うん……普通に、あんな人だったら……

「……ちょっと、何人の顔じろじろ見てんのよ?」
「っ!!」
 気付いたら、私、オーナーの事見つめちゃってたみたい。
うわわ……何か恥ずかしいな。
オーナーは、私の顔を見て、にやりと笑った。
「フフフ……さては。アンタ、私に惚れたわね?」
「えっ!?/////」
 思わず上ずった声を上げた私に、オーナーは続ける。
「アンタも女だものね? まあ、私に惚れる気持ちはよく分かるわ」
「えぇっ!! ちょっと、何言ってんですか!! 違います!! 誤解です!!」
 真っ赤になって抗議する私を、オーナーは面白そうに見ている。
「素直にならないと、可愛くないわよ? ほら――」
 ふと顎を持ち上げられ、目を見つめられる。
 うわわ……!! オーナーの顔近い!! 
近いっ!!

――――きゃーーーっ、マジで美味しいじゃん!! うわーーーっ!!(大興奮)

「……俺に見惚れたんだろ?」
 囁くように言われ、私は思わず頷いてしまった。
 満足そうに微笑んだオーナーは、そのまま私の額に口を寄せた。

「お前……可愛いな」

――――どっきんっ×2!!(私とヒロインの鼓動が重なった!!笑)

 オーナーの顔が遠ざかり、初めてこの状況に気づいた。
 今っ、私……!?

「クスクス……真っ赤になっちまってまあ……初心だねぇ」

 オーナーに……キスされ……た?

「き……きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!////////////////」

――――やっべーーー!! 超おいしーじゃーーん!! カマさいこーーーっ☆

 10メートルほど飛退いた私を、オーナーは余裕の笑みで見ている。
 な、な、何で!? 一体何!?
「叫ばなくてもいいじゃない?」
「だだだだって……!! な、何ででででっ/////」
「さあ……何でかしらね?」
 意味深な笑みを浮かべるオーナーに、眩暈がする。
 あ、あり得ない……あのオーナーに、まさかキス(額にだけど)されるなんて!!
「オーナー……からかうの、やめてくださいよ(涙)!!///////」
 なみだ目になってしまう。
 もーっ、私はこれでも、純情乙女なんですからねっ!!
「――――オーナー、もうその辺にしてください。それに、杉原先輩、どこにいったんですか?」
 高城君の言葉に、はっとなる。
 そうだ、先輩どうなったんだろ!? ていうかさっきの奇行は何だったんだろう!

――――うわっ、晋也忘れ去られてたよ!? 

「そ、そうだった! 杉原先輩探しにいかないと……」
「あの子なら、その辺で寝てるはずよ」
 オーナーがめんどくさそうに言うと、高城君が私の手を掴む。
「えっ」
「オーナー、俺たち、今日はこれで上がらせてもらいます。杉原先輩を送らないといけないし」
 高城君らしからぬ発言に驚く。
 まだ、お店は賑わってるのに?
 でも、オーナーは少しだけ意地悪な笑みを浮かべると、「分かったわ。お疲れ様」とだけ告げ、そそくさと中に引っ込んでしまった。
何なのよ、あの人も……。

 そして挨拶も出来ぬまま、私たちはメフィストを後にしたのだった。
 繋がれた手は、そのままに……。

――――いやーんっ! 静ってば、やるー!! これはきっと……よし、ここでちょっとセーブしとこ。









「あ、あのっ、高城君?」
「……」

 ファントムシティを歩き回りながら、杉原先輩を捜す。しかし、何だか高城君の様子がおかしい。さっきから、一言も話してくれない。
 でも、手だけはしっかりと握られている。
「高城君っ、高城君っ、ちょっと、待って」
 私の呼びかけにも、答えてくれなくて……不安は募るばかり。私は何か、彼を怒らせるようなことでもしちゃったのかな?
 どうしよう……どうすればいいの?

――――かーっ、天然主人公!! こいつはあれだよ! ヤキモチ妬いてるんだってば!!

1、無理矢理立ち止まる
2、泣く
3、そのままにする

――――選択か。うーん……どれでもいいような気がするけど……まあ、静はきっと女の涙には弱いはず・・・ということで、3をぽちっ。

「っ……うぅっ……」

 涙が零れた。
 どうして高城君が怒っているのか、分からないから。
 悔しいし、悲しい。
 堪らず嗚咽を漏らすと、強く握られていた手が緩み、焦ったように高城君が振り返ったのが分かった。
「っ……さん……」
「ひっく………ごめっ……私、何か高城君を怒らせるよなこと……っ……しちゃった……? だったらごめんっ……ごめんねっ……」
 しばらくの間の後、高城君が言った。
「……ごめん。泣かせるつもりなんて、なかったんだ」
「っ……ふぇ……ひっく……」
「……ごめん、本当に」
 何で高城君が謝ってるのかも分からない。
 ただ、高城君が話してくれたことが嬉しくて、私は顔を上げた。
 すると彼は、目を伏せて溜め息をついた。
「……はあ。俺、何でこんなことしてるんだろ……」
「……?」
 彼は額に手をやると、眉間に皺を寄せた。
「ごめん……でも、別にさんが悪いとかそういうんじゃないんだ」
「そう……なの……?」
「うん……ごめん」
 何だかよく分からないけれど、高城君は別に怒っているわけではなかったみたい。そのまま彼を見つめていると、言いにくそうに逡巡した高城君が、ぽつりと呟いた。

「……俺だけがまだ、苗字呼び……」

――――どっきゅーーーーーーーーーーーんっ!!!! いやぁぁぁっ! 静ってば、何て可愛いの!? そんな淋しそうな顔しながらそんなこと言わないで!! あーもうっ、黒さが見えない静ってば、めっちゃ「子犬」みたいVVV かーわーいーいー!!(じたばた)

「苗字……?」
 何のことか分からなくて、呆けたように返すと、彼は苦笑を漏らす。
「いや……俺だけが君の事『さん』って呼んでるなって思って。宮田は……ちゃん付けだし、杉原先輩やオーナーは呼び捨てじゃない?」
「あ、そう言えば……」
 確かに、高城君は私のこと「さん」って呼んでる。
 そうだ、ここは一つ、違う呼び方で呼んでもらおうかな?
「ねえ、高城君。これからはさ、お互いあだ名っていうか、もうちょっとくだけた感じで呼び合わない?」
 私の提案に、彼は一瞬驚いたように目を見開いた。しかし、すぐに柔和な笑みを浮かべて頷いてくれる。
「……うん。いいね」
「よし! じゃあ、何て呼ぼうかな?」
「うーん……君は、何て呼ばれたい?」

 私は……

1「って呼び捨てがいい」
2「親しみを込めてリンがいいな☆」
3「ちゃん……かな」
4「うーん……やっぱり苗字のままが落ち着くかも」

――――おぉっ! ついに静が苗字呼び脱出したね!? 確か親しくなってくると、呼び方が変わるって書いてあった気がする! うーん……これって、好感度によっては失敗するのもありそうだな……。多分、リンとかは、めっちゃ好感度高くないと駄目っぽいしなー……。3は薫ちゃんと被るし、何ていっても静には呼び捨ててほしいので、1にしよっと――――ブルルルルッ!!!
 うわわっ!?
 突然鳴った携帯に、思わずびびってコントローラーを投げてしまった!! 床に吹っ飛んだコントローラーはその衝撃で勝手にボタンを押していた。


「親しみを込めて、リンがいいな☆」


――――ぎゃーーーーーっ!! 2が選ばれてるーーーーっ!! 誰じゃい! こんな時にメールなんぞ送ってきやがったバカは!! あぁ前回と同パターンが……(涙)あー、きっと静は「フフッ」って感じでかわしちゃうんだろうなぁ…………って……ええっ!?


「ええっと……その……」

――――静が……静が……頬を染めてますよ!? 真ッピンクです!!

…リンは……ちょっと……/////」

――――あはははははは!!! 静がこんなに照れてる立ち絵、今まで無かったんじゃない!? かーわーいーいー!! ナイス!アクシデント!!

「普通に…………でいいかな?」
「う、うん……いいよ! ごめんねっ、何か……」
「いや、別にいいよ。……
 そう言って高城君は微笑んだ。
 うーん……やっぱりリンは無茶だったかな?

――――そりゃそうだよ! 無茶っていうか、無知だよお嬢さん!! うーん……でもこれって多分、好感度足りなかったんじゃないかな? 逆ハールートだと、ちょっと無理なのかも……。どうせだったら、最初から呼び捨て選んだ方が良かったよね。よし、セーブしたところからやり直そう!
 ロードします!!




「あ、あのっ、高城君?」
「……」

 ファントムシティを歩き回りながら、杉原先輩を捜す。しかし、何だか高城君の様子がおかしい。さっきから、一言も話してくれない。
 でも、手だけはしっかりと握られている。
「高城君っ、高城君っ、ちょっと、待って」
 私の呼びかけにも、答えてくれなくて……不安は募るばかり。私は何か、彼を怒らせるようなことでもしちゃったのかな?
 どうしよう……どうすればいいの?

1、無理矢理立ち止まる
2、泣く
3、そのままにする

――――ここはさっきと同様、3でいいよね。

「っ……うぅっ……」

 涙が零れた。
 どうして高城君が怒っているのか、分からないから。
 悔しいし、悲しい。
 堪らず嗚咽を漏らすと、強く握られていた手が緩み、焦ったように高城君が振り返ったのが分かった。
「っ……さん……」
「ひっく………ごめっ……私、何か高城君を怒らせるよなこと……っ……しちゃった……? だったらごめんっ……ごめんねっ……」
 しばらくの間の後、高城君が言った。
「……ごめん。泣かせるつもりなんて、なかったんだ」
「っ……ふぇ……ひっく……」
「……ごめん、本当に」
 何で高城君が謝ってるのかも分からない。
 ただ、高城君が話してくれたことが嬉しくて、私は顔を上げた。
 すると彼は、目を伏せて溜め息をついた。
「……はあ。俺、何でこんなことしてるんだろ……」
「……?」
 彼は額に手をやると、眉間に皺を寄せた。
「ごめん……でも、別にさんが悪いとかそういうんじゃないんだ」
「そう……なの……?」
「うん……ごめん」
 何だかよく分からないけれど、高城君は別に怒っているわけではなかったみたい。そのまま彼を見つめていると、言いにくそうに逡巡した高城君が、ぽつりと呟いた。

「……俺だけがまだ、苗字呼び……」

――――どっきゅーーーーーーーーーーーんっ!!!! ハイ、二回目―! でも何度見てもこれは萌えるわー!! かーわーいーいー!!(再度じたばた)

「苗字……?」
 何のことか分からなくて、呆けたように返すと、彼は苦笑を漏らす。
「いや……そう言えば、俺だけが君の事『さん』って呼んでるなって思って。宮田は……ちゃん付けだし、杉原先輩やオーナーは呼び捨てじゃない?」
「あ、そう言えば、そうだね」
 確かに、高城君は私のこと「さん」って呼んでる。
 そうだ、ここは一つ、違う呼び方で呼んでもらおうかな?
「ねえ、高城君。これからはさ、お互いあだ名っていうか、もうちょっとくだけた感じで呼び合わない?」
 私の提案に、彼は一瞬驚いたように目を見開いた。しかし、すぐに柔和な笑みを浮かべて頷いてくれる。
「……うん。いいね」
「よし! じゃあ、何て呼ぼうかな?」
「うーん……君は、何て呼ばれたい?」

 私は……

1「って呼び捨てがいい」
2「親しみを込めてリンがいいな☆」
3「ちゃん……かな」
4「うーん……やっぱり苗字のままが落ち着くかも」

――――よっし、今度こそ1で!

って、呼び捨てがいいな」
「……」
 高城君ははにかんだように笑うと、私を見つめた。

――――うわぁ……!! スチルが出たっ!! 静がはにかんでるーー!  あー超カッコイイ〜vvv

「……
 私の名を呟いて、微笑を深くする彼。
 そんな瞳で見つめられたら……心臓がいくつあっても足りませんって……/////

――――えぇ、あまりにもじたばた悶絶したせいで、クッションが一つぺしゃんこになりました☆えへv

「た、高城君……?」
 うわわわわっ……高城君、そんな見つめないでってば〜!!

 慌てふためく私。すると、彼が突然噴出した。
「ぷっ……ははははっ……」
「!?」
「慌てすぎだよ……あはははっ……」
「わ、笑わなくても……」
「ご、ごめん……でも……ははははっ……慌てる君が可愛くて……つい、からかいたくなっちゃんだ」
 ぷぅっと頬を膨らませてみせた私に、彼は手を合わせた。
「ごめんって。はははっ」
「――んもう! 高城君って意地悪!」
「……静」
「へ?」
「静って呼んで」

 途端に真剣な表情になった彼に、私は目を奪われる。
 涼しげな海色の瞳は、今は真っ赤な炎を宿したかのような光を帯びていて……冷たいのに熱い……そんな感じ。
 でも……とても綺麗。

「……静……君」
「呼び捨てで構わないよ。……
「じゃあ……静……」
「フフッ……よく出来ました」

 いつもの柔和な瞳に戻った彼。
 さっきの瞳は、いつもの彼じゃないみたいだった。あの瞳で見つめられたら、何でも言うことを聞いてしまいそうで、私は……

1少し怖かった
2胸が高鳴った

――――微妙な選択肢出たー!! そりゃあ私はドMですから? もち2を選択しますよ! 俺様、暗黒、ドSよドンと来いやーーー!! ぽちっ。

 そう……ちょっとだけ、ドキドキした。
 何だか、全てを委ねたくなるような、そんな気持ちになった。
 これって……変、なのかな……?

――――いや、変と書いて「萌え」と読みます(んなわけあるか

「さて、杉原先輩捜さないとね」
「あ、うん」
 静はそう言って、辺りを見回している。
 私も倣って見回すと、どこからか寝息が聞こえてくる。そして次の瞬間、何かを踏んづける感触。……ぎゅむ?

――――もしや……

「げっ! 杉原先輩!?」
「え!?」
「ぐーぐー」

 私が踏んづけていたのは、紛れもなく先輩その人だった。
 メガネはずれ、ゴミにまみれて大の字になって寝ている。

「せ、先輩! 先輩!」
 揺り起こしてみるも、まったく起きる気配が無い。
 どうしよう……。

1もうちょっと強めに揺する。
2静に頼む
3魔法を使う

――――ここで選択肢? これは静よりか晋也よりかの分かれ目か。うーん……ちょっと静といい感じになってるし、ちょこっとメガネとも絡まないとダメか。よし、ここは1で。ホントは3がいいけど! めちゃくちゃ3がいいけど!!

「先輩! 杉原先輩ってば!!」
 強く揺すってみる。
 すると、先輩が眠そうな目を開く。
「ん……う……」
「先輩! 起きてください!!」
「ん……」
 しばらく呆けたように視線を漂わせた後、先輩はいきなりにっこりと笑った。
 そう、微笑んだ、のではなく、笑ったのだ。
 そして……

「先ぱ…―――うきゃあっ!?」
〜!! 会いたかったーーーーっ!!!」

――――ぎゃーーっ、スチル出たーーー!! 何か、晋也がベロベロんになってヒロインに抱きついてる!!

「せ、先輩!? ちょっと!! 何してんですか!!/////」
「あーっ、は可愛いなーーーv もう我慢できない……!!」
「へっ!? え、あ、ちょ、ちょっと!?」
 いきなり抱きつかれたと思ったら、今度は顔を近づけてくる先輩。
 ちょ、ちょっと!! 先輩っ、それはマズイですって!!
「は、放してください!! 先輩!!/////」
「ん〜!!」
 先輩! 唇がタコになってます!!
 きゃーーっ、このままだと先輩とキスしちゃうーーーーー!!!!

――――何じゃこの展開!! ちょっと! 晋也のエロ!! 近付かないでーーーーー!!!!! 助けて、静――――!!

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ――――」
「――――行け、水虎」

 私が叫んだのと、静が何かを呟いたのはほぼ同時だった。
 え? っと思ったのも束の間、目の前にいた先輩に水で出来た生き物のようなものが、飛び掛ってきた。

――――きたーーーっ!! また静が助けてくれたーーーー!!!!(あくまで晋也は敵扱い)

「あぶぶぶくくくくくくく……!!」
 先輩は溺れているように、口から泡を吹きながらもがいていた。

――――え? ちょっとコレ、マジ殺る気ですか!? いくら何でも、攻略対象殺すのはいかんだろ……ねえ、静。

私はただ、呆然とその様子を見ているしかない。
しばらくすると、その生き物(?)は、すっと消えた。

「――――目が覚めましたか? 杉原先輩」

 静の声が響いた。
 はっとして振り返ると、静の横にはさっきの生き物が揺らめいている。静は軽くその生き物を撫でる。すると、それはすぐに掻き消えてしまった。

 目の前には、びしょびしょになった先輩。
 先輩は目を瞬かせた後、呆けたように呟いた。
「……ここは何処だ?」
「ここはファントムシティの外れ。ちなみに先輩がいる場所は、ゴミ捨て場です」
 静の冷めた声が、やけに大きく響いた……。

――――うっは! 暗黒だな!!



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