エピソード8『タンクトップで吃驚!』


「ふわぁ〜〜」
 ざわつく授業前の教室。放課後の予定や好きなアーティストの話に花を咲かせる学生達の中で、人目を気にせず大あくびをする少女が一人。
「眠い・・・・。果てしなく眠い。」
 そう・・・私。
 昨日あの後、結局寝るの四時過ぎになっちゃったんだよね。にメールしたら何故か電話で話す事になっちゃって、気づいたら真夜中。病人相手に何やってんのかしら私。いや、あれはが悪いでしょ。早く寝なさいって言ってるのに、お笑いの話をしだし、何故かスポーツの話になって、仕舞いには「アガシが引退しちゃった〜〜〜!!」とかいって泣き出すし。(どうやらプロのテニスプレーヤーが引退したらしい)

 私が知るわけがないのよ!!!!  

 おかげで眠い・・・。肌も最悪。頭回んないし、目蓋が重・・い・・・・。

、おはよう!!」
 来たな、元凶
「おはよう、。風邪はもう良いの?」
「うん、お世話になりました。沢山寝たし、美味しいご飯も食べたし。あと、昨日ゴメンね?熱くなっちゃって・・・。寝不足でしょ?」
「いいよ、大丈夫。結構慣れてるから。」
 乙女ゲーのせいでって事は言えないけど。確かに眠い。でも多分、他の人よりはマシな方なんじゃないかな。
 しかし昨日、一昨日と風邪で寝てたのは分かるけど、何でこの人はこんなにも元気なのか・・・。
「それより、アガシ?だっけ?好きな選手だったんでしょ?」
「そうなんだよ!!!!!」
 穏やかだった彼の目が、一瞬にして変わる。
「プレイスタイルは違うけど、人として尊敬してたんだ。本当に格好良いんだよ。彼は一時期世界ランキングが落ち込んだんだけど、不死鳥のように蘇って・・・」
 やばい。またぶり返した・・・。
「ふっ、ふ〜〜ん。それよりさぁ・・・」
 自分で振っといてなんだけど、昨日分かったとおり、はテニスになると熱い。昨日の電話だって3/5はテニスの話で、まだ話そうとするを寝たふりをしてごまかした。どうにか話題を変えなきゃなんだけど・・・・・どうにもネタが出てこない。
「おーーい、ーー!!男子Aが呼んでるーー。」
「!!」
 その時、私は「おお、神よ!!」と平伏し、祈りを捧げたくなった。

 長いんだって!!
 
長いんだって!!!!!!!

、ゴメン。話の途中なんだけど、行かなくちゃ。」
「ううん、ぜんっっっぜん大丈夫だから行ってきなよ!!」
 私は全力で首を横に振る。
「・・・うん、じゃあ後で。ゴメンね。」
 申し訳なさそうに詫びるに、ひらひらと手を振り満面の笑顔で見送る。
 唯でさえクソ眠いのに・・・(おっと)スッゴク眠いのに、分からない話をされてもテンション下がるだけなんだよ!!

 ありがとう☆名も無き登場人物、『男子A』!!!
 君のおかげで私は救われた。
 いつかきっと、名前がもらえる日が来るよ。(たぶん・・・)

 それにしても、本当に助かったなぁ。あのまま続けると先生が来るまで喋り続け、休み時間ごとにテニスの話を聞かなくちゃいけないことになってただろうな。でもそれを私はきっと笑顔で聞くんだと思う。

 考えてみると、つくづく今の私は良い彼女を演じていると思う。
 いや、『演じている』というのはちょっと違うか。別に嘘をついてるわけじゃない。これも本当の私。ただ、彼氏が風邪で寝込んでいる時は御飯を作りに行って、電話で朝四時まで付き合わせられても笑顔で「大丈夫」と言う。

 こんな女、実際にいるのか?私こそが物語の主人公なんじゃないのか?

 最近の我が儘を聞くことが多くなった。・・・といってもパフェを食べたいとか、離れたくないとか、そう言った乙女ゲームに出てくるような、『萌え〜』な我が儘だけど。
 私だって一緒にいたいし、愛されてるんだなぁ〜って思う。だからはっきり言って、とても嬉しい。

 でも、じゃあ私は?
 私は彼に我が儘を言えてる?

 乙女ゲーにハマってるって知られたくないっていう隠し事はしてる。
 だけど、それだけで私は何も文句は言わず、ただ笑っているだけで良いの?昨日の電話だってそう。「眠いからそろそろ寝る」って言ってしまっても良かったんじゃないの?こんなに寝不足までして付き合わなくても良かったんじゃないの?

 別にに不満があるわけじゃない。
 喧嘩したいわけでもない。

 ただ・・・・・。


「何かが足りない。」






―――ガチャンッ

「ただいま〜〜」
 帰ってきた私は、早速ゲームを起動させる。
「お菓子用意して〜、飲み物はココアにしようかなぁ。ちょっと寒いからクッション抱いてよ。」とか言いつつ着替えながら、私はなるべく短時間でゲームに入れるよう、効率よく準備を進める。
「少しでも速く、ゲームを進めなくちゃ。よし。ロードっと」

―――チャララ〜〜
「はいはい」



「そろそろ行こうか」
 ふと高城君が時計を見てそう言った。そういえば色々話してるうちに、外は薄暗くなっていた。あわてて会計を済ませ、私達は店を出る。
「わぁ、もうこんな時間!急いで行かないと、またオーナーに怒鳴られる〜〜!!」
 時計の針はいつの間にかオーナーとの待ち合わせ時間10分前を示していた。ここからそう遠くはないけど、少しでも遅れると五月蝿そう〜〜!!
一人で焦っていると、不意にクスクスッと笑い声が聞こえてきた。
「高城君!!笑ってないでよ。急いで急いで!!」
 私は高城君の背中を頑張って押していく。
「大丈夫だよ。10分もあれば、ちゃんと時間前には着くよ。」
「でも、ちょっとでもオーナーを待たせたら、すっごい怒られそうだし。」
 私が凄く焦ってるのに、何でこの人はこんなにも余裕なんだろう?
「オーナーは結構懐が深いよ?ちょっとくらい遅れたって気にしないよ。」
「いや、高城君にはそうかもしれないけど・・・。」

 違うんだって!!多分、
『このアタシを何十時間待たせんのよーーーーーーーーーー!!!』
って叫んで、そこら辺にあったゴミ箱とか平気で投げてくるよ・・・・・・・・・・・私だけに。

 一人で青い顔をしていると、また高城君がクスクスと笑いながら言う。
「平気だって。あぁ見えて、オーナー君の事気に入ってるし。あ、そうだ。じゃぁ俺がさんを守ってあげるよ。」
「え?」
「そんなに恐いならさ。今日の実技の授業みたいに、俺がさんの盾になる。それなら大丈夫でしょ?」
 高城君が私の盾?


―――お?なんか良いね。乙女ゲーには必須の『守られるの図』ね。

 
ちょっと恥ずかしいけど、えへへ。嬉しいかも・・・・・・・ん?
 まてまてまてまて?

「やっぱいい!!そっちの方が後で恐い!!」
 高城君になんて守られたら、それこそ店についた後、誰もいないトイレでボコボコよ!!
 それで雑巾が入ったバケツの水を、頭から掛けられるのよ!!!そして誰もいなくなったそこで、鏡の中の自分に言うの。

!!泣くんじゃない!!あなたはこんな所で負ける娘じゃないのよ!!』って。


―――いつの時代の学園ドラマよ

「ほらっ早く!!」
「!?」
 少しでも早くオーナーの許へ急ぎたくて、高城君の手を取り、私達は待ち合わせの場所へと走る。
 やったわ。不意をついて、高城君を急がせるのに成功!!私の体力が持つまでこのまま走ろう!!
 そう決心をした途端、今度は急にグイっと抱きつかれた。
 「えっ?」と思った次の瞬間―――

 ブオンッと凄い勢いで、私の目の前を車が通り過ぎていった。

「・・・・・・ビッックリしたぁ〜〜!! ありがとう、高城君!!もうちょっとで大変な事になるところだったよ。」
 本当に驚いた。私、一歩間違えば死ぬところだったわ!!
「・・・。」
「・・・あの、高城君?ごめんね、怒ってる?」
 不注意な私を怒ってる・・・よね?
「・・・。」
「あ・・・あの、そろそろ放し・・・て・・・もらえるかなぁ?」
 高城君は私を後ろから抱きしめたまま動かない。

「高城・・・君?」
「・・・・・やだ。」
「・・・・・・・・え?」
「放したくない。」
「たっ高城君??」


―――やべーーーー!!!スチルが!!静の横顔が切なーーーい!! 「放したくない」だって!!どうしよ〜〜!!
  私は、既に何回も叩かれたせいで真ん中が凹んでいるクッションをギュ〜〜ッと抱きしめる。

 どうしようっ。あのおばさん滅茶苦茶見てる!!
 見てるよ!!
 高城君〜〜〜!!

「・・・・・・・・・・・うそ。」
「ふぇ?」
 一人でアタフタしているのを哀れに思ったのか、クスッと笑うと高城君は、私の体をそっと放してくれた。
「ちょっとからかってみたんだ。さんって本当、反応が面白いよね。」
「そっ、そんなぁ〜〜!!」
「クスクスッ、ごめん。」
「酷いよ〜〜。」
本当に焦った。まだ胸がドキドキしてる。
「ほら、行こう。待ち合わせに間に合わなくなっちゃうよ。急ごう!!」
「え?っきゃあ!!」
 今度は私がいきなり高城君の大きな手に引っ張られる。
「さっきの仕返し!!」
「も〜〜〜!!」
 私達は笑いながら、急いでオーナーの許へ走っていく。悔しいけどそれは私にとって、とても心地よいもので。


 でも、気になったことがある。

 私を抱きしめる力を弛めてくれた時のあなたの顔。
 その顔は笑っていたけれど・・・・・・



 私には何故か……
 泣いているように見えたの・・・・・・




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ときまほ初の、花びらバック以外の背景・ページ移動を付けました! 青さんの乙女的展開を、どうぞごゆるりとお楽しみあれ☆
タイトルは最後まで読めば、きっと分かりますのでw(より)