エピソード5:『火と水』




チュンチュン・・・

「おはよう、さん」
「あ、高城君。おはよう」

―――皆さん、おはようございます。リアルです。今日は土曜日。つ・ま・り、学校がお休みという事で、腐女子の中では当たり前、朝っぱらからゲーム三昧です!!本当は昨日から徹夜でやりたかったけど、疲れてたし、お肌に悪いっつー事で。まぁ、彼氏がいる身なんで、ちょっと位は美容に気をつける訳でして・・・。さてさて、頑張って早く終わらせて、さんの機嫌を直さなくては!!

 今日も朝から高城君と会ってしまった・・・。嬉しいのよ? 嬉しいんだけど、
「昨日はお疲れ様。」
 きた!!
「あはは・・・高城君もお疲れ様。昨日、有難うね。」
「いえいえ。体の方は大丈夫?疲れてない?」

「う、うん。大丈夫。」

 き・・・気まずい!!昨日私はオーナーの店で数十枚のお皿を割り、数人のお客様に水をぶっかけ、小一時間説教を食らった後、全て捌けるまで店の外でビラ配りの刑になってしまった。バイトをするのは良いんだけど、やっぱり知り合いに間抜けな所は見られたくないものよね・・・。高城君は優しいから、その点には触れてこないけど、そっちの方が逆に突き刺さるんです!!

「・・・昨日、オーナー結構怒ってたよね・・・。かえって悪い事しちゃったな。服の弁償をするはずだったのに、逆に損害を増やしちゃったんだもんね。」
「大丈夫だよ。始めは結構失敗するものだから。」
「う・・・ん。」
 そうだよね!!失敗するものだよね!!それはそうなんだけれども・・・。でも皆私ほどではないはず。昨日一日だけでどれほどのゴミを増やした事か。今日もオーナーと会わなくちゃいけないし、憂鬱だよ。 
「ううう・・・今日もずっとビラ配りかぁ。少しでも役に立てるように頑張らなくちゃなぁ。」

「うん、頑張ろう。大丈夫!すぐに慣れるよ。オーナーもそこまでは怒ってなかったし。」
「・・・・有難う・・・。」
 あぁ、なんて良い人なのかしら高城君。そりゃHR長もこなすわさ。
「・・・・俺だって始めの方は失敗したんだよ?」
「・・・え?」
「昨日のお客様覚えてる?あの、平松様。」
「う、うん。」
 
――あの、男娼買い・・・・・・だと思った人ね。

 高城君が失敗するなんて想像がつかない。

「あのお客様と始めてお会いしたとき、俺、あの人に頭から思いっきり水掛けちゃったんだよね。」
「えぇ!? 高城君が!!??」
「うん、他のお客様にいきなりぶつかられてしまってね。」
「うわぁ・・・。」
 高城君のせいじゃないけど、しょうがないよね。接客業だし。
「それで慌ててタオル取りに行って、必死で拭きながら謝罪したよ。そしたら・・・」
「?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そのタオル、ぞうきんだったんだ。」
「あちゃ〜〜。」
「オーナーには怒られるわ、お連れ様には怒鳴られるわで本当に参ったよ。自分でもあんなことするとは思わなかった。あまりに焦りすぎてたんだね。」
「うん。」
「でも平松様は笑いながら、大丈夫だよって言ってくれたんだ。若いうちは沢山失敗しなさいって。俺のしたことは本当に許されない事だったけど、その言葉で頑張ろうって思う事ができたんだ。」
「へぇ。」
 何だか素敵。良い話聞いちゃったな。
「格好良いね、平松様。」
「うん、俺の憧れ。だから、昨日は本当に嬉しかったんだ。」
 そう言う高城君は本当に嬉しそうで、こっちまで幸せな気分になってくる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・さん」
「へ?」
 不意に呼ばれ、カナリ間抜けな言葉を発してしまった。クスクスっと高城君が笑う。
「あのね、俺、さんが店手伝ってくれて嬉しいんだ。」
「え?」

―――んん?

「どうゆうこと?」
「あの店ってね、オーナーが気に入った人しか働かせてもらえないんだよ。ほら、オーナーって結構、顔がその・・・格好良いじゃない?」
「・・・うん。まぁ性格はアレだけど、美人さんよね。」
「ハハ!! うん、美人。女の格好してるけど、やっぱりモテるんだよ。あれで面倒見もいいし。だからバイトの募集しても、オーナー目当てで来る人って多いんだ。お客さんなら良いんだけど、やっぱりバイトとなるとね。どうしても問題が出てきちゃうから。」
「そっかぁ・・・だからバイトさんは男の人が多いんだね。」
「・・・・・・・・・・・うん、まぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・好みもあるんだろうけど・・・。でもやっぱり、オーナーが気に入るって事は少ないと思うんだ。だから結構仕事も多いし、人手が足りなくて助かったんだ。」
「あぁ、そういえば昨日も混んでたもんね。」
 結構広い店で、座席数も多いのに、それに応対する従業員が足りてないような気はしてたのよね。
「うん、うちのオーナー、人気者だし。でもね、それだけじゃない。俺は正直、さんと一緒に働ける事になって嬉しかったんだ。」
「・・・どうして?」

―――おやおや、美味しそうなニオイがしてきたわ。これはひょっとして・・・?

「だってそれは・・・」
ちゃん!!!!!」

ドゴッ!!!!

「うぇっ!!!」
思わず変な声を出してしまった。だっていきなり背中から強烈タックルを喰らったんですもの。

「・・・・・・薫ちゃん?」
ちゃん、おっはよー!!朝から会えて、嬉しいな!!今日は何だか良い事ありそう。」

―――いや〜〜ん!薫ちゃん、ナイスタイミング!!それでこそ乙女ゲーよ!お約束ですよね!!

「・・・・・・おはよう、薫ちゃん。私も会えて嬉しいわ・・・嬉しいのだけれど・・・タックルは勘弁。腰に悪いの・・・。」
「あっ!!ゴメン!!つい嬉しくて、思わず飛びついちゃった。今度から気をつけるね。」
「ううん、分かってもらえれば良いのよ。」
「本当にゴメンね。ちゃん、大丈夫?」

―――うっわ!!光ってる!!光ってるよ薫さん。効果音も背景もキラキラしてますのことよ?
   「くうぅぅん」ってどこかのCMのワンコになってますけど。こ〜んな可愛い顔されたら主人公さんは・・・

「!!大丈夫よ!!」

―――ですよね!!ここでスチル出しちゃうのはビックリだけど、主人公が鼻血出してるから文句なしよ!

 思わず拳を握ってしまった。何この子!?可愛すぎ!!その顔は反則よ!
 頭ワシャワシャっと撫でてあげたいのを必死でこらえる。

「・・・本当?」

 カワイィ。これは年上のお姉さんとかにはモテそうね。しかし大丈夫なのかしら、この子?夜道とか大変そうだなぁ。これだけ可愛いと、誘拐犯とかに狙われてしまうんじゃないだろうか?

さん?」
「えっ!? あっ、高城君。ごめんなさい。」
「うぅん。それより大丈夫?」
「大丈夫よ、有難う。」
 そこまで痛いというわけではなかったし、ニコッと笑ってみせる。
「・・・・・・・・そう、良かった。」

―――ほぃきた。ちょっとだけ静の頬が赤くなりましてよ?皆さん。

「あ、高城君。紹介するね。この子、宮田 薫君。今年入った一年生なの。」
「へぇ、はじめまして。高城 静です。よろしく。」
「・・・・・・・・・はじめまして、静センパイ!!噂は聞いてたけど、やっぱり格好良いですね!」
 あれ? なんだか薫ちゃんの表情がおかしかったような・・・? ニコッとは笑ったけど、最初の顔がちょっと固まってたような・・・。
「・・・?噂?」
「はい!センパイ、去年の学年主席なんですよね?全学年の女の人達に人気があるみたいですよ。格好良くて、やさしくて、成績が良いって。オレのクラスの女の子達が噂してました。」
「へぇ、初耳。でも、ちょっと聞くと完璧人間みたいで恐いな。俺、そんなんじゃないのに。」
「そうですか? 格好良いですよ。ね、ちゃん?」
えっ?そこで私に振るの??
え〜っと・・・

1.「うん、格好良い。」
2.「えぇ!?そうかなぁ・・?」
3.「私、実は高城君の事が・・・」

―――え〜〜〜〜〜〜っと・・・。まぁ、迷う事はないですけども。

「うん、格好良いと思うよ。」
さんまで・・・。あんまりからかわないでよ。オレなんて何も出来ないやつだよ。」
 困ったように高城君は笑う。
「からかってなんていないよ。実際そのとおりだと思う。優しいし、頭良いし。昨日だって本当に助かっちゃったんだから。」
「いや、あれは当然の事をしただけだし。」
「それでも!! 私は嬉しかったの!! もっと自信持ってよ! 頼りにしてるんだからね!!」
「・・・さん。・・・有難う。」
 なんだか照れちゃうな。本当に思ったこと言っただけなんだけど。高城君には結構助けられたし、本当に凄いと思ってる。良い人だよ!!
「んもぅ!!二人の世界作らないでよ!」
「きゃっ!?薫ちゃん。ゴメンゴメン。」
 いきなり腕を引っ張られる。
 しまった。ついつい自分の思った事伝えたくて、高城君とばかり話してしまったわ。
「も〜〜。でも静センパイ、それだけ格好良いと、告白とかで呼び出されること多いんじゃないですか?」
「えっ?」
 あぁ、そうだよね。大変そう。昼休みとか放課後とか、思えばしょっちゅういない気がする。告白とかで呼び出されてるのかも。そういえば高城君って付き合ってる人いるのかな?
「そんなことないよ。もてない。」
「本当に?1回も告白とか受けた事ない?」
 あれ? 薫ちゃん、どうしたんだろ?ねぇねぇと高城君に詰め寄ってる。
「ん・・・まぁたまにはあるかもしれないけど。本当に、たま〜〜〜にだよ?」
「や〜〜ぱりっ!! でも、じゃあ
選びたい放題ですね。凄いです! ねぇ? ちゃん!」
「えっ!? う〜〜ん・・・。」
 確かに凄い事は凄いと思うんだけど。何て言ったら良いか分からないよぅ。お願いだからこっちに振らないでぇ。
「それじゃぁちゃんに構っている暇はないですよね? もしかしたら静センパイのファンに苛められちゃうかもしれないし。」
「いや、それはないと思うけど。」
 そこは否定してみる。高城君と私はそこまで仲が深いってわけじゃないし。優子も高城君と普通に話しているし。本当、どうしたんだろ? 今日の薫ちゃん変だな。

「と・に・か・く!! あんまり
オレのちゃんに馴れ馴れしくしないで下さいね?センパイ!」

「『オレの』?」
「かっ薫ちゃん!?」

 不思議そうに高城君は薫ちゃんを見ている。も〜〜〜!!
「まだ付き合ってないけど、オレ、ちゃんに
告ってますから。」
「それじゃぁ、
まだ『オレの』は早いんじゃないのかい?」
 高城君が突っ込んでいる。何が何だか分からなくなってきたわ。もうこの話題から遠ざかりたい。
「はい、でも絶対振り向かせて見せます! コワ〜イ静センパイのファンの方々からも守ってみせます。だから安心して、ちゃん!!」
 バチッ☆とウィンクをされて、私はもうどうしたら良いか分からない。高城君には知られちゃうし、薫ちゃんにはどんなリアクションをとれば良いのか。
「静センパイ!! ちゃんには手、出さないで下さいね?」
 ニコニコと笑っているように見えるけど、目だけはしっかりと高城君を見ている。

「・・・・それは、
保障できないなぁ。」

「「えっ?」」
 私と薫ちゃんは同時に驚いてしまった。クスクスと高城君は笑う。
「もう!!静センパイ!からかわないで下さいよ〜!!」
 そう言うと薫ちゃんは、高城君とじゃれあい始めた。高城君はまだ笑っている。冗談かぁ。
 でもまぁ、大丈夫みたい。薫ちゃんの様子がちょっとおかしかったから心配したけど、気にする事はないわね。
 二人は楽しそうにしてる。良いなぁ、男の子同士って。すぐ仲良しに慣れちゃうんだもんなぁ。羨ましい。

キーンコーンカーンコーン・・・

「あっヤバイ!!早くしないと遅刻しちゃうよ!!ちゃん、早く早く!!」
「わわっ」

 いきなり薫ちゃんに手を引っ張られて走り出す。その後を高城君が追ってくる。
 仲間に入れてもらえたみたいで、ちょっとだけ嬉しかった。・・・ちょっと恥ずかしいけど。






 校舎の玄関に入り、私と高城君は薫ちゃんと別れた。
 薫ちゃんはショボンとしていたけど、「また遊びにおいで」って言ったら嬉しそうに、「うん、またね!!」 といって廊下を走り出した。良い子だなぁ。
 薫ちゃんは高城君の事モテるって言ってたけど、薫ちゃん自身もモテるんだろうな。

「・・・さん?」
「ん?」
「遅れちゃうよ? 行こう。」
「そだね。」

 そうして私達も急いで教室に向かった。朝のHRには何とか間に合い、授業に入る。
 朝から色々な事があったけど、まだまだ始まったばかり。今日も一日元気に行こう!!

―――薫ちゃんがどんな子かまだ良く分からないけど、ただ可愛いだけじゃないみたいね。
 リアル世界もバーチャル世界も、一日が始まったばかり。よーーっし!!頑張るぞ〜〜☆




こっからは、がお送りしまーす☆ 青さんと、バトンターッチ!!)




――あれ、まだ場面転換ない? 


「やだー、ここ、水溜まりが出来てる!」
「ホントだ。誰か水でもこぼしたのかね」

――……とんだライバルがいたもんだね。

 オレは二人の後姿を見送りながら、心の中で呟く。
 高城静……水使いのエキスパート。
 でも……
「アンタがどんなにスゴくても、所詮水は火に消される運命なんだよ」

――ジュワッ!

「な、何だ!? 水が蒸発した!?」
「アンタ、魔法使ったの?」
「お、俺じゃないって! こんだけの水、そう一瞬で消せるかよっ」
「炎使いのくせに、使えないわね〜!」
「うっせえ! 魔力の差には勝てないんだよ!!」


「……ねえ、高城センパイ?」



――ぎゃあああ! 薫ちゃんの目が光ってる!! 黒い薫ちゃんだわ!! この子凄く真っ黒になってるわ!! でもそれはそれで萌え!!!



――教室にて

「おはよー高城、
「おはよう、三村」
「おはよ、優子」
 教室に入ると、優子が読んでいた本を掲げて手を振っている。
「何読んでるの?」
「月刊、世界の魔法陣!」
「……三村、お前も懲りないね」
「何よ高城、別にいいでしょ」
 優子の魔法陣愛には、本当に恐れ入る。
 高城君はといえば、半ば呆れ顔で優子を取り成していた。

 ふと優子を見る。
 そういえば優子が、こんな風に男の子と話すのって珍しいな。杉原先輩とは普通に会話してるけど、同学年でこんな風に砕けて話してるのって、もしかして高城君だけ?
――記憶が甦る。
 ……そういえば前、私が高城君と一緒に登校してきた時、優子ってどことなく機嫌悪そうじゃなかったっけ。
「!」
 そこで私は気付いてしまった。
 もしかして優子って、高城君のこと……

――選択だ。

1、好きなんだ!!
2、嫌いなんだよね?
3、あれ、やっぱり分からないや……

――いやいや、これはもう1しかないっすよね。ぽっちり。

? どうしたの?」
さん?」
 何だか、すごくこの場に居づらくなってしまった。
 優子は高城君が好きなんだよ! そしたら私、完璧お邪魔虫って言うんじゃないの!?
「わ、私、ちょっとトイレ行ってくる!!」
 授業始まる直前なのにも関わらず、私はトイレへ駆け込んでしまった。

――おいおい……。

 結局悶々としているうちに授業は始まり……私は遅刻をしてしまった。
 幸いなことに野中先生の授業だったので、あまり怒られなかった。むしろ、体調が悪いなら無理しなくていいから、と優しく諭されてしまったくらいだ。
、顔真っ赤よ? 熱でもあるんじゃない?」
 優子が斜め前から小声で話しかけてくる。
「大丈夫? 保健室行った方がいいんじゃないか?」
 隣からは高城君が……。
 だ、ダメだ。何だかすごく意識しちゃって、く、苦しい……!!
「す、すみませんっ。保健室に行ってきます!!!」
「そうか。じゃあ、高城、ついていってあげて」
「はい、分かりま――」
「だ、大丈夫です!! 一人で行けますから!!!」
 高城君が立ち上がる前に、それを無理矢理遮った。先生やクラスの皆はもちろん、高城君も驚いた顔で私を見ている。
さん……?」
……?」
 優子が心配そうな顔を向けてくる。高城君が、少し悲しそうな顔をしているように見えるのは、私の気のせい……?
「ご、ごめんなさいっ……でも、本当に一人で大丈夫だから……」
 ぺこりとお辞儀をした私は、そのまま逃げるように教室から駆け出した。
 あーーもう!! 私、一体どうしちゃったの〜!?

――主人公……難儀な性格やな……。













「熱があるな。まあ、軽い微熱だけど……」

 保健室に行くと、白衣の天使……もとい、白衣の美形先生が迎えてくれた。
 西之園 楓。ちなみ男の先生。長いストレートの髪を一つに結わいている、切れ長の目が印象的な先生だ。
 まほアカの名物教師として、人気があるみたい。何でも、先生に会いたいがために、わざと体調を崩したり、不調を訴えたりする生徒が後を絶たないとか……。

「ちょっと目を瞑ってろよ――回復(ヒール)」
「っ……」
 額に当てられた手の平から、ひんやりした冷気が直接頭に入ってくる感じがする。
 ああ、でも気持ちいい……。
「……治療完了。少し休めば、全快するだろうよ」
「あ、ありがとうございます」
 慌てて頭を下げると、西之園先生は笑って言った。
「魔法を司る者、体調管理はしっかりしないとダメだぜ? ってまあ、俺も時々飲みすぎたりとかするけどな」
 先生はそのまま、空いてるベッドを指差した。
「ほれ、ここで少し休んでいけよ。担任には連絡しといてやるから」
「はい……すみません」
 私は促されるままベッドに横になる。
 真っ白い天井にベッド。
 何だかすごく、心が落ち着いてきて……眠くなってきた。
……お前、編入してきたやつだろ?」
「は、はい」
「ふぅん……勉強のしすぎで疲れが出たか?」
「い、いえ……多分違うと思います……」
「じゃあアレか。男だな?」
「っ!?」
――がばっ
 私は思わず起き上がった。な、何で分かるの!?
「ぷっ……お前、ホント分かり易いな。落ち着けって」
「せ、先生っ!?」
「いや、お前の体の気が、すんごい乱れ方してっからよ。ま、あの乱れ方は色恋関係だなと」
「っ……////」
 か、顔から火が出るくらい恥ずかしいんですけど!!!
 どうしてよ!? 魔法も使いこなすと、人の体の気まで分かっちゃうものなの!? しかも色恋とかまで!!??
「お前、また熱上がってるっぽいぞ?」
 私の額に手をかざしながら、ぬけぬけと言う。
「せ、先生のせいじゃないですかぁ!!」
「ハハ、悪い悪い。ま、保健室の楓先生は、口がかたーいことで有名だから安心しろ。これでも生徒からの相談とか結構乗ってやったりしてんだぜ」
「うぅ……」
 もう恥ずかしくて、死にたい……。
 西之園先生、アナタ一体何者なんですかぁ!!!
「ほらほら、もう寝ちまえって」
 半ば強制的にベッドに寝かされた私は、結局具合が悪くなったまま、眠りにつくことになったのだった。
 くぅ……西之園先生の馬鹿ぁ!!!(涙)

――き、来たーーーーっ!! 謎の保健医!! コイツを待ってたのよぅ!! オープニングで微妙に登場する彼についに対面したわぁ☆ 
 しかしまあ、気で相手の状態が分かるなんて……相当のテダレだよね。コイツがこの先、どう主人公と絡んでくるのか見物だ……。


 でも……西之園先生って……

1、カッコ良いかも……
2、何か不思議な人だな……
3、あれは絶対変態だわ

――……これは何ですか? 私に3を選べと言っているのデスカ? ……え? でも、私はこの楓先生に心底惚れたので☆とりあえず逆ハーいけそうな1で。

「……ちょっとカッコ良かったな」
 布団に包まりながら、ぼそっと呟いてしまったのは誰にも秘密だよ。
 あーあ……熱、上がってきたぁ……。

















「……〜〜っ……」
 ……うん? 誰かが私を呼んでる……?
 この声は……

1、高城君だ
2、薫ちゃんよね
3、杉原先輩……?

――これはお決まりの選択肢だわ。うーーん。ま、流れ的には静かな? でも薫ちゃんも捨てがたいよーな……。(晋也は無視)
 流れに沿って、静でいっきまーす☆


「ん……高城…く…ん……?」
 目を擦りながら、ぼやけた視界を何とか元に戻す。すると、心配そうな顔の高城君と優子、そして薫ちゃんが私を覗き込んでいた。
! 大丈夫!?」
さん、大丈夫?」
ちゃーん! 具合悪くなったんだって?!」
「あ……うん。でももう平気だよ」
 私はゆっくり身体を起こす。どうやら休んだせいか、調子も元に戻っている。
「起き上がって平気? 今、昼休みに入ったところなんだけど……」
「えっ!? もうそんな時間なの!?」
 慌てて腕時計を見ると、12時30分を指していた。あちゃ……寝すぎた。
、お昼どうする?」
「うーん……あんまり食欲湧かないから、いいや」
「そっか……」
――突然、誰かの携帯が鳴り響いた。優子のかな?
「あーもう、誰よ、こんな時に! はい、もしもし――……部長? あ、はい……ええ。え? 今ですか? いや、あの……はい…はい……分かりました――」
「杉原先輩から?」
「うん、何か至急部会やるから集まってくれだって。ごめんね、ちょっと行ってきてもいい?」
「うん、全然いいよ。私なら気にしなくていいから」
さんは、俺が見てるから行ってきなよ」
「オレも見てるんで安心して行って来てよ、優子センパイ」
「……」
 優子がそこで、ちらっと高城君と薫ちゃんを見たのを、私は見逃さなかった。
「……すごい心配なんだけど」
 そうだよね。高城君が私と一緒にいたら、優子は嫌だよね。
 私は、優子に言った。
「ありがとう優子。でも、私は平気。薫ちゃんも高城君も、教室戻って平気だから。ごめんね皆、迷惑掛けて……」
「ダメダメ、ちゃんが心配で置いていけないよ」
さん、俺たちのことなら気にしないで?」
「でも……」
「……、本当にごめんね!! こんな狼の巣に一人にしちゃって! すぐ帰ってくるからね!!」
「えっ……あ、優子!」
 優子は悔しそうな顔で保健室から出て行った。……狼の巣って一体? ん??
 そんな優子を、挑戦的な瞳で見送ったのは薫ちゃん。かたや、表情を変えずに見送ったのは高城君。
 ……え?

 しばらくの間があったあと、薫ちゃんが言った。
「さて、
小姑はいなくなったし……ちゃん、オレが添い寝してあげよっか♪」
「宮田、病人に対する接し方、間違ってるんじゃない?」
 私に飛びつこうとする薫ちゃんを、高城君が笑顔で諌めた。
 薫ちゃんの動きが一瞬止まり、高城君に向き直る。
「へえ……やっぱそういうこと」
 薫ちゃんの声が、いつもより低く聞こえたのは気のせい? というか、背を向けられているから、どんな顔してるか分からないけど……なんか怒ってる??
「……」
 笑顔のまま、でも強い視線を薫ちゃんに向ける高城君。な、何が起きちゃったの??
「……あーあ。もうやーーめたっ。アンタ相手に猫被ってもしょーがないよね」
「か、薫ちゃん?」
 何か薫ちゃん、朝、高城君に会った時と態度が違うよ〜?!
「クス……確かにそうだね」
 高城君……何がどうなってるの?? そうだねって一体何!?
「優子センパイ以上に、厄介な敵がいたなんてね。おまけに水……ヤダヤダ。オレ、水って
ホント嫌いなんだよね」
 薫ちゃんは、鬱陶しそうに手を振る。
 敵って……優子以上とか、全然話が読めないんだけど!!
 水が嫌い? 薫ちゃん、もしかして泳げないとか!?

――主人公さんよ……寝言は寝てから言っておくれよ。薫は遠まわしに静に宣戦布告してるんだってば!! 黒薫、最高☆そしてそれに笑顔で返す静も最高!!

「お前は火だよね? 残念ながら、俺も火は
大っ嫌いなんだ」
「へえ……アンタとは
相性最悪だね」
「ハハ、そうだね。
一生分かり合えないだろうね」
「アハハハハハ」
「ハハハハハハ」

――静も真っ黒だなぁオイ。このゲームには、黒キャラが多数出演中だねぇ。。。

「あ、あの……」
 二人の周りに、異様な空気が立ち込めたのを感じた私は、恐る恐る声を掛けた。二人とも笑ってるけど、目が本気で怖いよぉ〜!!
「ん? どうかした、ちゃん?」
さん?」
 二人とも、何事も無かったかのように私に笑顔を向けた。……あれ?
「……二人とも、その……何かあったの?」
「「いや、何もないよ」」
「そ、そう……」
 二人の綺麗にハモッた声が、どことなく薄ら寒く感じるのは、気のせいだよね。。。
「あ、二人とも、ご飯まだでしょう?? ごめんね、私もう平気だから、一緒に教室行こう」
 そう言って、ベッドから降りた時だった。

――ガララッ

!!」
 大声で名前を呼ばれたのだ。そこにいたのは……
「す、杉原先輩!?」
「副会長……?」
 息を切らしながら入ってきたのは、紛れもなく杉原先輩だった。そのあとを追うようにして入ってきたのは優子だ。

――ぶはぁっ!! 晋也、まさか保健室に乗り込んでくるとは……!! 恐るべしメガネ!!!

「ちょっ、部長! 保健室は静かに入室ですよ!!」
 優子の怒鳴り声も聞こえていない様子で、私の前に近づいてきた先輩は、私の肩を掴んだ。
「お前が倒れたと三村から聞いた。大丈夫か?!」
「えっ、あ、はい……」
「そうか……良かった」
 先輩は微笑して、私から離れた。いきなり肩掴まれて、びっくりしたぁ〜!!!
「部長……私、が保健室で寝てるって言っただけなんですけど……」
 優子が呆れ顔で呟いたが、誰も聞いていないようだ。
 高城君は驚きに目を剥いているし、薫ちゃんにいたっては、うんざりといった様子だ。
 え……???

「あの……もしかして、心配してきてくれたんですか?」
「あ、いや……まあ、そうなんだが……」
 そっか……先輩、わざわざ私のために……

1、「先輩、嬉しいですっ☆」
2、「すみません、心配かけてしまって」
3、「(真っ赤になって俯く)」

――うーーん、究極!! これって、もう逆ハールートに完璧突入してるよね!? どうしよっかなぁ。3はちょっとやりすぎだし……かと言って、1を選ぶかぁ?
 でも2じゃあ普通過ぎて、逆ハーとしては面白くないよねぇ。親密度的には、多分そんなに変化ないと……思われる。よっし、1で勝負!!


「先輩……私、嬉しいですっ」
 私のために、わざわざ駆けつけてくれるなんて、すごく嬉しくて、思わず言ってしまった。
 それを見た優子は、あちゃぁという顔をして、頭を抱えている。
 あれ? 私何かマズイこと言っちゃったのかな??
「いや……その…元気そうで安心したよ……」
 
――ややっ、晋也の顔真っ赤だぁ!! 主人公、お前罪な女だなぁ。さてさて、これを見た真っ黒コンビはどう動くかね? ひひひ。

「副会長、さんと随分親しいんですね?」
 高城君が、先輩に近づいた。
 あれれ……何だかスゴイ寒気がするような……。心なしか、高城君の周りに青いオーラが見える気が……。
「痛っ。……高城、アンタ台詞から刺が出てるわよ!?」
「三村、何わけ分からないこと言ってるの?」
「……」
 優子と高城君、一体何の会話しているの……??
 高城君は、笑顔のまま続けた。
「でも、心配しなくて平気ですよ。俺がちゃんとついてますから」
「高城……?」
「三村……駄目じゃない。保健室でこんな騒いだら、他の人にも迷惑になっちゃうよ?」
「わ、私のせいじゃないわよ。部長が……」
 優子が、ばつの悪そうな顔で先輩を見た。先輩は、一瞬「?」という顔をしたが、すぐに事態を理解したようで、慌てて私に向き直る。
「す、すまない……つい、気が動転してしまった。俺としたことが……」
「い、いえ……私は全然平気ですから」
 謝る先輩に、私は逆に慌てた。すると、今まで黙っていた薫ちゃんが、すっと間に入ってくる。
「薫ちゃん……?」
「杉原センパイ……でしたっけ? オレ、一年の宮田薫です」
「宮田……? もしかして、去年卒業した……」
「はい。宮田愁の弟です」
 宮田 愁……? 薫ちゃんの、お兄さん? 先輩知ってるんだ。
「そうか……。俺は杉原晋也だ。宮田先輩にはお世話になって――」
「センパイって、ちゃんのこと呼び捨てにするほど親しいんですか?」
「……」
 先輩が固まった。
 薫ちゃんてば、いきなりなんて事を聞いてるのよーーーー! そういえば、さっき高城君も聞いてたような……一体何なの??
「あの、ちゃんは
オレのものなんで、気安く呼び捨てとかしないでくれませんか?」
「いや、俺は……」
「副会長。さんは、
宮田のモノなわけないですけど、でも俺も呼び捨てするまで親しくなったお話、すごく興味ありますね」
 た、高城君まで……(汗)
「ゆ、優子……」
 思わず優子に助けを求めると、優子は溜め息をつきながら、「……私じゃ役不足だわ」と言われた。
「いや、これはがそう呼べと……」
 先輩が呟くように言うと、薫ちゃんが私に詰め寄る。
「ホントなの、ちゃん?」
「え、えっと……うん。そうだったような……」
「へえ、そうなんだ……」
 高城君が、笑顔で言った。でも、目は全く笑ってない。
 な、何か怖いよ〜(泣)
「ふーん……とんだ伏兵がいたもんだね」
「?」
「ま、いいや。晋也センパイ? オレ、センパイだからって遠慮とかしませんから。本気で
潰しにかかるんで♪」
 にっこり笑った薫ちゃんを、先輩は訝しげに見ている。
 い、一体、どういうこと? 潰しにかかるって……??
「クス……強敵現る……かな。でも宮田、相手は学園でもトップ3に入る人だよ。
逆に潰されないようにね?
「フン……まだ
苗字呼びだからって、僻んでじゃないの?」
「……考えすぎだよ。お前こそ、ちゃん付けされて、さぞ
可愛い弟として見られてるんだろ? 良かったじゃない」
「……アンタやっぱり水だね。
ホント鬱陶しいよ」
「それは奇遇だな。実は俺もそう思ってたところだよ」
「アハハハハハハハ」
「ハハハハハハハハ」
「……?」(晋也)
 薫ちゃんと高城君が不敵な笑みを浮かべ合っている。
 何だかよく分からないけど、二人ってすごい怖いこと言い合ってるような気がする……。
 それを見た先輩は、メガネを押さえながら、おろおろしている。
 ……この図は一体何なの?

――出た出た!! 真っ黒対決☆晋也はただのヘタレだね。ま、二人の敵じゃないって感じ? うふふ、いい感じじゃないのwww

「ほら、お前らー。もうすぐ昼休み終わるぞー?」
 楓先生(って呼んでいいよね)が、時計を指差しながら言った。
「あ、やべっ。オレ、次移動だった!」
「次は魔法薬学か……そろそろ戻らないと……」
 あはは、昼休み終わっちゃったよ。楓先生が「大丈夫か?」と、ベッド脇から声を掛けてくれた。
「はい、もう大丈夫です」
「うし。んじゃあんま無理すんなよ?」
さん、授業出れる??」
「あ、うん。出る出るっ」
 そう言って、立ち上がろうとした瞬間……

――グラッ

「あ……れ……?」
 突然眩暈がして、体が宙に浮いたような感覚に襲われた。ヤバ……倒れる……っ!!

――ぐいっ

「……あ」
「おい、大丈夫か?」
 倒れそうになった私を支えてくれていたのは、楓先生だった。
「あ、ありがとうございます……」
「お前、やっぱもう一時間休んだ方がいいんじゃねーか?」
「いえ、大丈夫です! 多分ずっと寝てたから、ちょっとふらついただけなんでっ」
「そーか? ま、あんま無理すんなよ」
「はい」
 楓先生から離れると、薫ちゃんが私の後に来て「ちょっとごめんね?」と言った。
「え……きゃぁっ!?」
 次の瞬間、抱き上げられたのだ。俗に言うお姫様抱っこ。うぎゃああ!! また熱が上がるぅ〜!!!!
「……、お前も大変だな」
 楓先生が、哀れそうな目で私を見てるんだけど……何で??
「楓先生……頭痛薬ください」
「三村……お前も、苦労してんだな」
 優子……私、もう何が何だか分からないよーーーっ。
 私たちの後ろで、楓先生が呆れた声を上げた。
「おいおい高城……先生を睨むなんて、大人げないぜ? ……まさか杉原、お前もかよ……」
「やだなぁ、楓先生。俺はただ、
教師っていう立場が、羨ましいって思っただけですよ」
「西之園先生、仰ってる意味が分かりかねます」
「へいへい……(高城は性格あんなだっけか? 杉原は天然だな……)……ったく、青春だなぁオイ」
「薫ちゃんっ、下ろしてーーっ!」
「ダーメ、ちゃん眩暈してるのに、階段なんて登れないでしょ? オレが二年の教室まで送っていってあげる♪」
「でも薫ちゃん、授業が……」
「平気平気。ちゃんのためなら――」
「宮田、授業サボるのは良くないよ。
同じクラス席も隣の俺が連れていくから安心して授業へ向かって?」
「……一番心配なんだけど」
「三村ー、さんに肩貸すの手伝って」
「……ちっ、水で囲むって作戦かよ。ま、オレの方が何倍もリードしてるし、別にいいけど」
「フフ……それはどうかな?」
「あの……お願いだから降ろしてください……」

 結局私は、嫌がる薫ちゃんを何とか宥め、高城君と優子に支えられながら、教室まで戻ったのだけど……今日一日、授業一個しか受けてないのにもかかわらず、私は疲労困憊だった。
 何だか、薫ちゃんと高城君の違った一面を見た気がするよ……。
 あと楓先生……。なんか、保健医っていうよりも、頼れるお兄さんって感じだったなぁ。カッコイイし。

――黒い……黒すぎるぜ静と薫!! 真っ黒っていうか暗黒じゃん!! ま、別にいいけど。







――帰り道。
 今日はバイトもないし、早く帰ろうとしていたら、優子に呼び止められた。
、一緒に帰らない?」
「あ、うん」
 優子が高城君を好き……そう考えると、何だか話題が出てこない。
 優子は私の体調を気遣ってくれているのか、あまり話さないし……。
 そんなとき。

――♪〜♪〜♪

「はい、もしもし? ……二ヶ月も連絡よこさないって、どういうつもり? ……は? 今から会えるか? ちょっと、勝手に決めないでってば! あ、ちょっ――……あんの馬鹿男ぉ!!」
「優子……?」
 電話を切った優子は、鬼のような形相をしていた。こ、怖い……。
「……ご、ごめんね。ちょっと、頭の悪い最低男と話してたら、つい表情に出ちゃったわ……」
「……?」
「もう、本当に最悪な男がいてね――」
「優子、それってオレのこと?」
「そうそう、そういうナンパな声の――――ぎゃぁっ!!」
 優子が、驚きのあまり5メートルくらい飛退いた。
「おいおい、そこまで驚かなくてもいいだろ?」
 私たちの目の前には、真っ赤な髪に、赤銅色の瞳を輝かせた美青年が立っていた。
 年は20代くらいだろうか? 私たちよりは年上だと思う。
 けど、この顔、どこかで…………

――超絶美形!!! でも、この顔って……もしかして

「……愁」
 優子が、複雑そうな顔で呟いた。
 愁……? あ!! も、もしかして……
「薫ちゃんの、お兄さん!?」

――来たーーーッ!!!! 薫ちゃん兄が登場したーーーー!!!!!! カッコイイーーーーーー!!!!!

 私が声を上げると、愁と呼ばれたその人は、にっこりと笑った。
「はじめまして、宮田薫の兄の、宮田愁です。それで、優子の彼氏。君は、優子の友達?」
「は、はい」
 ん……?
 優子の彼氏ーーーーーーーーーっ!?

――優子の彼氏かよーーーー!? コイツは対象外かよ!!!! くっそーーーーーー!!!!!!!!

「そっか。薫とも仲良くしてもらってるんだよね? オレのこと気付いたってことは」
「そ、そうなんです」
「フフ、ありがと。薫もやるなぁ。君みたいな可愛い子に目を付けるとはね。さすがオレの弟」
「あ、あの……」
 笑顔で語る愁さんに、私はどぎまぎしていた。だって、あまりにも予想外の出来事なんだもん!!
 優子、彼氏いたのーー!? とか、しかも薫ちゃんのお兄さん!? とかさーーー!!!!
 
すると、今まで黙っていた優子が、小さく呟いた。
「二ヶ月も……何してたのよ」
「優子……ゴメン。でもオレ、お前に会ったら、弱音ばっか言いそうで……怖かったんだ。お前に愛想尽かされるんじゃないかって。それで――」
「言いたいことは……それだけかぁーーーーーっ!!!!」


――パキパキパキーーーンッ……!!!


 優子が怒鳴った瞬間、無数の氷の塊が、愁さん目掛けて飛んでいった!
「っゆ、優子ー!?」
 私は思わず目を瞑った……が、愁さんを見ると何事もなかったのようにその場に立っている。
 よく見ると、愁さんの身体を覆うように、水蒸気の膜がが出来ていた。もしかして、魔法で防いだ……?
「連絡しなかったことはホントに謝る! でも――」
「何よ!! アンタの話なんて聞きたくないのよ!!―――氷柱舞(つららまい)!!!」
 優子が発した魔法は、水系でもかなりの高位魔法だ。さすがエリート……なんて、感心してる場合じゃない!! 愁さんっ、危ない!!!
「……優子、ゴメン……」
 愁さんはそう呟くと、低い声で詠唱を始めた。
「……炎よ踊れ――火炎舞」

 次の瞬間、まるで優子の発した氷柱を一つ一つ飲み込むように、炎が舞い踊ったのだ。あまりにも綺麗な光景に、思わず見とれてしまう。
 優子は、必死になって詠唱を続けているが、段々威力が下がってきてる。高位魔法を使い続けると、体力の消耗が激しいのだ。
 これ以上の継続は、優子の体に良くない。

「優子、もう――」
「何で、何でよっ……どうしてアンタはそうやっていつも、私を振り回してっ……1回くらいやられなさいよー!!」
「優子、もう止めるんだ」
「嫌よっ、誰がアンタなんかの言うことなんて聞くもんですか!」
「優子……」
 こんなに意地になってる優子を見るのは初めてだ。
 多分、それだけ愁さんっていう人は優子にとって特別な存在なんだろう。ていうか、彼氏か。
「……っ、これで最後よ!! 氷柱ま――っ!?」

 優子の詠唱よりも早く、愁さんが優子の身体を抱きしめていた。
 驚いた優子が、思わず押し黙る。
 今まで激しく吹いていた暴風が、ぴたりと止んだ。

「は、放しなさいよっ…………あうっ……!?」
 突然、優子が力が抜けたように、その場に崩れた。愁さんに抱きとめられているので、倒れはしなかったが、しがみついていないと立っていることさえ辛そうだ。
「うぅ……」
 青い顔の優子に、愁さんは怒鳴った。
「馬鹿! これ以上詠唱を続けたら、倒れるだろ!? 何やってるんだ!!」
「……」
 黙ってしまった優子を、優しく抱き直した愁さんは、呟くように言った。
「……二ヶ月間毎日、電話しようか迷ってた。メールも何度も打ちかけて……でも止めたんだ。お前に会ったら、オレはどんどん逃げてしまうって思って……」
「……」
「でも……オレはずっと、お前のことを想ってた! それだけは信じてほしい……」
 優子が、顔を上げる。その顔は、涙に濡れていた。
「……愛想尽かすんだったら、とっくの昔に尽かしてるわよ……何よ今更、バッカじゃないの!?」
「優子……」
「アンタがホントは、弱い人間だなんてこと、嫌っていう程分かってるわよ! だから私、ずっと傍で支えようって思ってたんじゃないっ……」
「……」
 優子は、愁さんの胸を叩きながら、大粒の涙を零していた。
「……魔法じゃアンタに何も敵わないんだからっ、せめて苦しい時くらい私に頼りなさいよ! 私は、アンタよりももっとずっと……淋しかったんだからっ…!」
「うん……ゴメンな、優子……」
「馬鹿……っ、最低……最悪……!!」

 えんえんと泣き続ける優子を、優しく宥める愁さん。
 二人は夕日に照らされて、とても綺麗だった。



 ……優子、良かったね。
 でもね……一つだけ聞いてもいい?
 私って……どうすればいいかなぁ……(切実)



 何だか黙って消えるのもアレだし……かといって、このまま一緒にいるのは野暮だし……。うーーん……。

1、やっぱり退散しよう……
2、優子に一声掛ける
3、この場に居座る

――ちっ。優子の彼氏が兄貴だとは予想外だったわ……。本音を言うと、このまま居座ってやりたい! 居座ってやりたい……けど!! 優子は好きなキャラだし、まあ基本逆ハーだしね。
 ここは友人に免じて、大人しく退散しといた方が無難だね。よし、一応声掛けする2でw

「優子、愁さん、お幸せに!」
……ごめんね、何か……」
「ごめんよ、今度改めて色々話を聞かせてほしいな」
「はい! では失礼します。また明日ね、優子!」
 私は、その場を駆け足で去った。
 それにしてもあの二人……美男美女カップルの代表だわね……あはは。

――主人公、寒いね……(涙)













――自宅。

 今日は一日、色んなことがあったなぁ。
 特に驚いたのはやっぱり……優子と愁さんよね。
 あの二人の話、是非聞きたいなぁ。

 今日は……楓先生と高城君と仲良くなれた気がするよ。

――おお! 楓ルートにも行けたか??

 さて、もう寝ようかな。セーブする?

――うん、するする。

 セーブしたよ。お休みなさい……





――うぃ、お休み。さてさて、お昼過ぎか。ん? メール着てる。

『件名――no title
 
 、おはよう。あのさ、明日の約束、ちょと無理になっちゃったんだ。
 実はさ、昨日から38度の熱が下がらなくて……咳も酷くてさ。
 ごめんな、前から約束してたのに。でも、に風邪移せないから……
 本当ごめん……
                  



 が風邪……? えぇっ、大丈夫なのかしら??
 はっ……そういえば……



『来週の週末、家族皆旅行に行くから、僕一人なんだよね』
「そうなの? ご飯とかも一人なんだ……」
『うん。まあ、時々はそういうのもいいかなって」
「ふーん……」



 ……、一人じゃん!! これはマズイよね。。。お見舞いに行ってあげようかなぁ。

1、ときまほやりたい……
2、お見舞いに行くべきでしょ
3、とりあえず電話する


 ちょ、ちょっと!! 何で選択肢が出てくるのよ!!? あり得ないよ私!!! 
 うわーん、しかも1とか絶対やっちゃいけない答えよね!? ごめん!!!!
 でも、いきなり押しかけちゃマズイかなぁ……。でも、かなり弱ってるっぽいし……。最近私、ホント蔑ろにしてたからなぁ……。
 よし、決めた!! 突然お見舞いに押しかけよう!! 果物とか冷えピタとか買い込んで行こう!! しばしゲームは中断しなくちゃ……。



エピソード6へ続く!?