エピソード3:『大好き☆メガネ』




 こんにちは。です。リアルです。私は今、ダーーイスキな彼とカフェにいます☆ 昨日の電話であまりにも彼氏を蔑ろにしていたことに気付き、今その埋め合わせをしているところです。

「このパフェ美味しいね!!」

 嬉々として言うさん。一見このセリフ、『甘い物好きなのね??』と思うかもしれません。
 しかし!!!  侮っちゃいけません。この人、これで6つ目なんです!! 
 やばくね? 大丈夫なんですか? 将来長生きはしないんだろうなぁ。奥さん大変そう。まぁ、高血圧で死んでもきっと保険金が入るだろうから大丈夫でしょ。
「え?」
「はい!?」
 やば!! 声に出してたかな? っていうか、何考えてるんだろう私。
「今、が何か言った気がしたけど・・・。」
「え?何?何にも言ってないけど。」
 あせるあせる
「そう・・・。あ!!一口食べる?」
 そう言ってはスプーンにクリームを乗せて、私に『あ〜〜んっ』と言ってきた。

 なんですか? これ。食べさせてあげるってことですか? そんなバカップルみたいな事できませんけど!!! こんな公衆の面前で!!

?」
 やめて!! そんな捨てられた子犬のような目をしないで!! 私この手の誘惑に弱いんだって〜〜!!

1.『あ〜〜ん』と言って食べてあげる
2.『うざっ』と言って帰る
3.スプーンを奪って自分で食べる


 やば!! 幻覚まで見えてきた!!
 これリアル世界ですよね?  相手に選択なの!?  しかも仲を悪化させないための選択が1しかないってどうゆう事!!?? 
 あぁ!!のバックがピンク色に見えてきた!!
 イヤ〜〜〜〜!!













「あ〜〜ん」
 負けた・・・。負けてしまった。いやだよ〜〜。周りの人の視線が。珍獣を見るみたいな目で見てるよ。HP残り僅かです。
?」
「・・・・・・・・・・ねぇ?。」
「何?」
「昨日から変だよ?」
「何が?」
「・・・今みたいにパフェ食べさせようとしたり、・・・その・・・手に・・・」
 最後は尻すぼみ。だっておかしいじゃない。いままでそんなことなかったのに、昨日から突然。
「クスクス。パフェ食べたのは自分なのに。」
「だって、それは!!」
 蔑ろにしちゃった分、今日は中心にしようと思ったんだもん。しかもあの上目使いは反則だって!
のせいだよ」
「あ゛??」
 思わずガンたれちゃった★
「・・・が昨日、可愛いことするから・・・」
 何? 今私のこと可愛いとかぬかしましたか? この野郎は。いや、彼氏である以上、彼女に対して言ってもおかしくはない言葉なのですが。でもね、でも。私がした行動って、あのぶりっこでしょっ!?おかしいって、マジで。何か顔赤くしてるし。

 ・・・男って馬鹿だ・・・

 あ、でも一つ教訓。『ぶりっこしてればしばらくは波風立たない』
 これで行こう!!そうすりゃ思う存分ゲームできるしね。



―――帰宅後
「あぁ・・・疲れた。」
 あの後、に散々甘いセリフを囁かれ、ぐったり。アレくらいで本当にああなっちゃうの?
「でも、本当にあんな人だったのかなぁ。まさか蔑ろにしすぎて一種の嫌がらせなんじゃ・・・?」
 様々な疑惑が飛び交う中、私はゲームのスイッチを入れる。

ウィーン・・・

テレレ〜〜

―――第二章

「昨日は散々な目に遭ったわ」
 おはようございます。です。今日もいい天気!!鳥たちはさえずり、穏やかな日差しが私の頬を照らします。
「おはよう、さん!!今日からバイト、一緒に頑張ろうね!」
 朝日がま〜ぶし〜いな〜ぁ・・・・・
「・・・おはよう・・・高城君。」
 あぁ、今一番会いたくない人に会っちゃったわ。おはよう、Mr,高城。

―――昨日あれから、私はあの店で働くことになってしまいました。理由はオーナーの洋服を駄目にしてしまったことです。
「私を殺そうとしたことはまぁ、良いわ。(本当は良くないけど。)」
「はぁ」
「でもね、このボロボロになった服の弁償はしてもらおうじゃぁないの!!(本当は簀巻きにしたいけど)」
 床には服の切れ端が散乱している
「あの・・・」
「なによ?」
「私が焦がしたのは、服の一部なのですが・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・口答えするんじゃないわよーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
 いきなりオーナーはそばにあった冷蔵庫を持ち上げる。ヤバイ、彼女(彼)は本気だわ!!
 殿のご乱心で〜〜〜〜〜すっ!!
 あぁ、私このまま死ぬのね。なんだか彼女(彼)の動作がスローモーションで見えるわ。あ、走馬灯まで見えてきた。もう少し生きたかったな。そういえばまだ見てないビデオあったっけ。冷凍庫には食べてない新作のアイスが。これはお母さんにあげる。お父さんには・・・まぁ、海苔でも。魚のえさは一日二回です。図書館に借りた本は返しておいてください。せめて遺言状位は書きたかったな・・・。 
さん!!」
 不意に高城君に呼ばれる。オーナーはいつの間にか落ち着いていた。
さん、大丈夫?」
「う、うん」
 良かった・・・。とりあえず命の危険はないみたい。
「それで、服のことなんだけど・・・」
「うん。」
「うちで働いて返してもらうわ!!焦がしたのは一部とは言え、あのままじゃ到底着れない。本当は現金で返してもらいたいけど、あんたのカスな小遣いじゃ絶対に払えない額だし。それに・・・」
「?」
 なんだろう・・・
「私がバイトしてる間、あんたの性根を叩き直してあげるわ!!!」
「・・・・・・・・・イヤーーーーーーーーーー!!!」
 お〜〜ほっほっほ(以下略)と高らかに笑うオーナー(年齢不詳)に命令され、私はこのお方の下で働くことになってしまった。



「まぁ、きっとすぐに許してくれるよ」
 そう言って、この爽やか青年は私の前を歩いてゆく。私、これから先、あそこで生きていられるかしら・・・?


 桜の花びらが舞い踊る。


 季節は「春」






「おはよ〜〜」
 教室に着くと優子がもう来ていた。
「あ、優子おはよう」
「おはよう、三村」
「な〜に?一緒に来たの?」
「うん・・・下で会って」
 なにやら優子はちょっと機嫌が悪そう。
「??どうかしたの?」
「うぅん、別に・・・」
「?じゃぁ、俺は席に着くね」
 高城君は歩いて行ってしまった。彼が完全に遠くへ行ったことを確認すると優子は
「よし!!ね〜ぇ?ゆずぅ・・・」
「・・・・・・ナンデショウカ・・・」
 態度が変わった。まさか・・・
「今日こそは魔法陣研究会に来てくれるわよね!!??」
 これか・・・。はい、来ました。どうしよう。一応、昨日あの後メガネの修理は出したけど、出来上がるの今日って言ってたしな。バイト始まる前に受け取りに行こうと思ってたんだけど・・・。渡せないんじゃ先輩に会うのも気まずいっていうか・・・。

「ごめん!!私今日寄るところがあって・・・」
「許しません!!!!!」
「え???」
 何故か優子は仁王立ちをしている

―――えっ??ここでスチル入るの?

「昨日も一昨日も来れなかったじゃない!!説明をさせてもらうだけだからそんなに時間は掛からないわよ!」

―――あ・・・優子さんご立腹。スチルでは優子さんが仁王立ち。バックには荒波が・・・

1、 「分かった分かった。行きま〜す。」
2、 「ゴメン。明日は必ず。」
3、 「行ってあげても良くってよ。」

―――う・・・ん。これ以上断ると、なんだか色々ややこしくなる気がする。ここは行ってみるか・・・普通に。

「分かった分かった。行きま〜す。」
「本当!?」
 あれ?何か優子の空気が一気に変わった気がする。
「じゃぁ放課後!!なるべく短時間で終わらせるようにするから」
「はいはい。」
 まぁ、しょうがないか。先輩にはその時に言えばいいし。 

 それからすぐに先生が来て、各々席に着いた。


 今日の4限目は、教室を移動して魔法の実技。この学園に入って始めての授業だ。この授業は専用の、魔法を吸い取る装置に向かって、各々が得意魔法のレベルアップに励んでいく。その際、担当の先生が一人ひとりにアドバイスをくれるというものだ。
 ここで、最悪なことが起こってしまった。編入生の私はレベルを見るため、そして星遣いという希少な人間であるため、個々人が練習を始める前にみんなの前で魔法を披露することになってしまった。大勢の前で何かをすると言うことが得意ではないため、胃が痛い。

「はい、それではさん。使える魔法を3つ出してください。」
「・・・はい。」

「―――星詠み!」

 星たちが降り注ぐ。今は魔法を吸い込む装置が発動していないため、部屋全体が輝いている。

「はい、次」
「・・・ハイ。」

 昨日できたんだから、今日だって・・・
「―――月詠み」






「・・・あれ??」
 もう1回やってみたが、出てこない。
「・・・分かりました。じゃぁ次。」
「・・・敗。」

 ヤバイ。非常にヤバイ。どうしよう。次が勝負だわ!!三回中二回も失敗してらんないし。
 どうしよう?

1、 昨日のように月時雨に挑戦
2、 ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、確実な初歩魔法にする
3、 思い切って少し簡単だけど、いつもはやらない攻撃系の魔法にする

―――どうすっぺ。月詠みが失敗したってことは、月時雨もたぶん・・・。初歩魔法も成績評価に関わってきそうだよね。う〜〜〜ん。主人公の攻撃系はまだ出て来てないし・・・。ぃよっし!!どれにしたら良いか分からないから!

 思い切ってあんまりやったことない攻撃系にしてみようかな。どっちにしても失敗しそうだし、当たって砕けろ!!

「―――月別れ」

 一瞬、教室が静まり返る。あまり星使いの魔法を見ることが多くはない生徒たちは、何が起きるのだろうと辺りをキョロキョロしている。教師も一応は知っているものの、滅多に見ることはないのだろう。起きるだろう事を待っている。そして、固まっている人間が一人。

 すると、急にピシッという音が起こり、そこにいた全員が音源の方に視線を向ける。そして彼らが見たもの、それは・・・



 小さな小さな石ころでした。


 私の足元に小さな石が転がっている。皆はそれが凄いことなのか、そうではないのか測りかねているらしく、微妙な顔をしている。うん、凄くないのよ。あきらかに失敗。まぁ、何かモノが出てきただけでも良しとしたいくらいよ。

「・・・すみません。」
「有難う、さん。沢山の人の前で魔法を使うのは始めてだったでしょう?」
「・・・はい。」
「うん、上出来!!これから人の前で披露することなんてイッパイあるから、少しずつ慣れていこう。」
「・・・はい。」
「はい、皆さんに拍手〜!!」

 わーーっと拍手が起こった。あぁ・・・皆良い人ね。こんな私にも暖かい・・・。でも居た堪れなくなって、私はそそくさと生徒の中に紛れ込んでいってしまった。


キーンコーン、カーンコーン

――放課後

「あ〜あぁ、最悪ぅ。」

 本当、穴があったら入りたいくらい。あんな恥ずかしいことってないよ。結局その後頭がグルグルで授業に集中出来なかったし。折角の初実技実習だったのに〜〜!!

「まぁ、しょうがないよ」

 優子はそう言って私を慰めてくれる。
「ああやって、大勢の人の前で魔法使うのは初めてだったんでしょ?私だってあんなの緊張しちゃうわ。」
「そうだけどさぁ・・・。」

 納得いかないのだよね。ただでさえ皆から遅れてるのに。ちょっと位良いところ見せたかったなぁ・・・。
「まぁ、過ぎたことはしょうがないじゃない。クヨクヨしない!!ほら、『旅の恥は掻き捨て』よ!!」
「優子・・・それ違う・・・。」
 まぁ、もっと勉強して、次の機会にもし何かあったら頑張ろう!!優子の空回りっぷりに苦笑しながら歩いていると、あっという間に魔法陣研究会の研究室(?)の前に着いてしまった。
「こんにちわ〜。」

「失礼します〜。」と優子の後ろに付いていく。ついに本拠地へ!!

「あれ〜〜??」っと優子が不思議そうな顔をする。
「どうしたの?優子。」
「杉原先輩がいない。」

 ちょっとホッとした。あの人と居ると、妙に緊張しちゃうんだよね。
 部室に人がいないことを確認し、マホ研のことをよりよく知ってもらうためには杉原先輩が居た方がいいということになり、先輩が来るまで二人で話すことに決めた。


「だいたいさ。」
 優子が何か言いたそうである。
「昨日はその魔法出来たんでしょ?」
「うん」
「昨日と何か違うところはあるの?」
「う〜ん・・・」

 昨日のことを思い出してみよう。
 どんな環境だったっけ?

1、 究極にお腹が空いていた。
2、 薫ちゃんに元気を出してもらいたくて魔法を使った。
3、 夜だったから力が使いやすかった。

―――えと、1はなし。3は星とか月の魔法だから夜の方が出やすかったってことかな? でもそしたら星使いは昼とか不利だよね。火とか水とかの魔法は昼夜関係ないし。そうしたら2・・・かな?

「昨日は友達の為にあの魔法を使ったの。」
 一応は“友達”って言ったけど、薫ちゃんからは告白されているから“ただの友達”というわけではないんだよね。まぁ良いか。
「ふ〜ん。とりあえず1,2人の前で使ったってことね。ならやっぱり皆の前で緊張しちゃったってことよ。」
「そっかぁ・・・。優子はもう皆の前で魔法使っても失敗しない?」
「もちろんやるわよ。でも、やっぱり1年生の時よりは少なくなったとは思うわ。」
「慣れ、かなぁ・・・。」
 なんとなくしっくりいかない。『慣れ』ももちろんある。けれどそれだけじゃないような・・・。
「杉原先輩は失敗とかしないのかな?」
 なんとなく思った。う〜ん、と優子は唸る。
「まぁ、人間である限り失敗はするわよ。でも大きな失敗はなさそうね。」
 そして続ける。
「だって、先輩ってここの学校の副会長よ。」
 そういえば前に高城君が『副会長』って呼んでた気が・・・。
「成績も学年1,2位キープだし、風使いの中でも防御力とかも超ハイレベルみたいだし。そしてうちの学校の寮の寮長なのよ!?」
 なんだか関心を通り越して、いっそムカツキマス?

「押し付けられただけだ。」

 ん?っと二人で疑問に思い、声がした方へ向いてみると・・・

「「杉原先輩!!」」

 いつの間にか杉原先輩が部室に入ってきていた。

「三村、来たんなら部屋の換気くらいしておけ。」
「すみません〜。」

 ばつが悪そうに優子は換気をしだした。

「先輩?」
「なんだ。」
「今日はさんに来てもらいました。もう少しここのことを理解してもらおうと思って。この前は高城のやつに持っていかれちゃいましたから。」

―――あ、また優子さんが恐いです。

 ふっと杉原先輩が私のほうを見る。
「あ・・・あのっ。」
「?」
「すみません。昨日のメガネ!!今日治るみたいで!!本当は治ってから来ようと思ったんですけど、予定があわなくて・・・、ごめんなさい!!」
 きょとんっとした顔で先輩は私を見ている。あぁ、やっぱり失礼だったかな?
「本当にすみません。明日、朝一で眼鏡屋さんに行きますから!!」
 あああぁ・・・。
「朝一って営業してないんじゃないか?」
「!!じゃぁ、いっそ店主を叩き起こしてきます!!」
「いや、。それは止めときなさい。」

―――優子さん、ナイス突っ込み。

「いいんだ、一応スペアあるし。明日でなくても俺は構わない。」
「駄目です!!それじゃぁ先輩の“大好き☆メガネ”さんが可哀想です!!」
 自分でも何を言っているのかだんだん分からなくなってきた。
 
 すると不意に「プッ」という声がし、杉原先輩がクスクスと笑い出した。
「おっ、お前は本当に面白いな!!」
 綺麗な笑い方だけど、なにやら爆笑のご様子。あぁ〜〜〜〜〜!!またやっちゃった〜〜〜!!
―――あらやだ、スチル。しかもなんだか後光が目に沁みます。案外このメガネ格好良いかも。

「なんだ?“大好き☆メガネ”って。俺はそこまでメガネに愛着は持っていないが。」
「い、いえ・・・、あの・・・はい・・・。なんとなくそう思っただけでして・・・。」
 もう私の顔は真っ赤だ。この状況から逃げてしまいたい!!
「で、でも、やっぱり明日朝一で!!」
 早いことに越したことはない。しかし落ち着いたのか、顔は柔らかいが先輩は真面目になっている。
「いや、君を遅刻させるわけにはいかない。店主も迷惑だろうし。でも、そんなに言うなら今日、これからその眼鏡屋に行こう。そして返してもらえば良いさ。」
「え!?先輩とですか!?」
「不満か?」
 いえ、不満ではないのですが、その・・・色々気まずい。あんまり話したことないし、第一この研究会が終わるまで待っていられない。何故なら今日からあのカマ・・・もといオーナーの下での辛いバイトが始まるのだから・・・。
「いえ、不満はないのですが。この後ちょっと用事があるので、魔法陣研究会が終わるまで待つことが出来ないんです。」
 それに、バイト前に1回家に帰って一息つきたかったし・・・。
「じゃぁ今日は、研究会は休み。」
「「ええぇっっ!!??」」
 私と優子は同時に声を上げた。それはそうよね。私は先輩に休ませる気なんて更々なかったし、優子は私に杉原先輩からの説明を受けさせるために来たのよ。両方の人間が居なくなってしまっては、意味がない。
「いえ!!先輩!私今日一人で行ってきますから!!そして明日先輩にお届けしに行きますから!!」
 先輩にそんなことさせられないよ!!研究会の活動を休ませる程大した用事じゃないし!!
「かまわない。ここのところ根詰め過ぎた。三村にも無理をさせてしまっていたからな。今日くらい休んでも良いだろう。」
「いえ、先輩。私なら大丈夫ですけど・・・。」
 優子は如何したら良いか分からないようで、私と先輩を交互に見ている。
「それに、もしお前が朝一に眼鏡屋に行ったら俺の責任になってしまうしな。」
「しませんしません!!ですから、本当に・・・」
「じゃぁ行くぞ。三村、戸締りを頼む。」
「・・・はい・・・。」
 優子は窓を閉め、戸締りをし、先輩は部室のドアに『本日は休会。』というプレートをぶら下げた。本当に申し訳ないです。しかし、最初の方はしょげてた優子も、帰り道で別れる所に着くと、機嫌が直っていた。
!!明日こそはちゃんと見学しにきてよね!!」
「うんうん。絶対行く!ごめんね、優子」 
「良いの良いの。じゃね!先輩もさようなら。」

「ばいば〜い」「じゃぁ」といって、優子と別れた。さて、問題はここからだ。優子が去ってしまった。二人きりで何を話して良いか分からない。
 何を話す?
1、 先輩の眼鏡について
2、 先輩の趣味について
3、 先輩の役職について

―――この主人公メガネ引っ張るな。もう良いって。趣味については聞いてみたいけど、やっぱりさっきの話の流れ的に3いっといたほうが良いのかな。

 よしっ、さっき話の途中だった、先輩の役職について聞いてみようっと。

「あの・・・先輩?」
「なんだ?」
「先輩って生徒会副会長と寮長なんですか?」
「あぁ、さっきの話か。・・・そうだ。生徒会の方は自分で望んでのことだが、寮長の方は押付けられてだな。別に断る理由もなかったので承諾はしたが。」
「でも凄いです!!寮って門限とか規則が厳しいんですよね?そのなかで寮長って言ったら相当その人が信頼される人じゃないと選ばれませんよ!!」
「そうでもない。ただ、流されやすいだけなのかもしれないな。」
 先輩は少し悲しそうな顔をした。
「・・・そんなことないと思いますよ?」
「?」
「確かに『流されやすい』っていう見方もあるかもしれません。でも、結局選ぶのは自分です。どんな選択肢にも、それなりのリスクはありますよ。それに・・・・・どうせなら、自分にプラスになる選択肢の方が“お得”じゃないですか?」

 先輩はあっけにとられた顔をしている。それからまた、くくくっと笑い出し、
「まったく・・・お前は。」
 と言う。あはは〜。私またやっちゃった? でもちょっと悔しいな・・・。


「そういえば、先輩?」
「んっ?何だ?」
・・・まだ笑ってる。こんなに笑う人だったの?
「先輩って私のこと、『お前』って呼ぶこと多いですよね?」
すると杉原先輩が?っという顔になった。
「私、 って名前がちゃんとあるんですよ?『お前』だなんて呼ばないで下さい。」
 頬をちょっとだけ膨らせて、いじけたフリをする。だって悔しいじゃない?少しくらい意地悪してもいいと思うのよね。それに私自身、『お前』だなんて呼ばれたくないし。

―――何?この『頬をちょっとだけ膨らせて』って!!!!!!ヤメテチョウダイッッ!!こんな乙女組みたいなこと!!

すると先輩はフイッっと顔を逸らして黙ってしまった。・・・怒らせちゃったかな?フォローフォロー。

「あの・・・先輩?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・はい?すみません、聞き取れませんでした。」

「〜〜〜〜〜〜っ!!」

「はっ、はい!!」

 そう言うと、先輩はそそくさと歩き出してしまった。耳まで真っ赤にしてる。

 びっ・・・くりした〜〜!!いきなり呼ばれるんだもん。でも・・・
「ふふっ。先輩!」
「・・・なんだ・・?」
「有難うございます!」
「・・・・・・」

 私は嬉しくなってしまった。最初はちょっと取っ付き難い感じだと思ったけど、実はこの人、ただ恥ずかしがり屋なだけなのかも。

 少しだけ。ほんの少しだけかもしれないけど、先輩の事が分かった気がする。

―――あれ?なんか主人公はときめいているけど、おかしくね?
 何でいきなりFirst name(発音に気をつけて)呼び捨てなんですか?
 一瞬格好良いかもと思ったりもしたけど、なんかちょっとキモイんですけど・・・。
 一応接近したことになるのかな?









「有難うございました〜〜〜。」
 その後眼鏡屋に行き、やっと先輩の“大好き☆メガネ”は先輩の下に帰ってきた。

カーン、カーン、カーン

工事現場があるらしい。金属音が響いて、先輩の声が少しだけ聞きづらい。

「本当にすみませんでした!」
「いや、こちらこそ直してもらって有難う。」
「ちゃんと見えます?」
「あぁ・・・やはりいつものメガネの方がしっくりくるな。」
「ご迷惑をお掛けしました。」

 先輩は無表情だが、少し嬉しそうにしていた。すると急に

「・・・!!!!」
「え?・・・きゃあ!!」

 何が起きたのか分からないまま、気づくと私は先輩に抱きしめられていた。しっかりと抱かれているため、私の視界は先輩の胸しか見えない。

どうしたのかしら?
1. えぇ!?こんなところで!?
2. 何が起こってるの!?
3. キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ

―――3にファイナルアンサー!!でもヤバイかな?きっと何かが起こってるから抱き寄せたんだよね。
 でもね・・・でも。ぶっちゃけ先輩どうでも良いしな。とりあえず馬鹿やっておくか。

 えぇ!?こんなところで!?いやだ、先輩ったら!!やばい、もしかしたら先輩、私の事を?・・・ってそんなわけないか。

「せっ先輩??」
「―――風車」

 いきなり、フワッと風が吹いたと思ったら、すぐにゴオオオオオオオオオオォォォォォっという音がした。状況は見えないが、凄い魔法が使われていることだけは分かる。

 ふと、先輩の力が弱まったので、ようやく私は少しだけ周りを見ることができた。

「ふっわぁ・・・!!」
 
 驚いてしまった。それはどこかで見たことがある光景。・・・そう、いつか国語の教科書に載っていた、台風の目の中の光景に似ていた。空を見ると青空が広がっていて、風もない。周りは雲のような壁で覆われていて、ただただ静寂がその空間にある。
 ・・・って感動している場合じゃないのよ!!

「怪我はないか?」
「・・・はい、大丈夫ですが。杉原先輩、これは?」
「いきなり鉄筋が落ちてきた。多分そこの工事現場で運ばれていたものだろう。『危ない』という声が聞こえなかったか?」
「う・・・すみません。」
 私ったら、いくら工事の音が煩かったからって鈍すぎ。それだけじゃなく、先輩に抱きしめられてドキドキしてたなんて・・!!

 段々と風の壁が薄くなっていく。ゴオオオオという音がシュンシュンシュンという音になり、やがてシュルルルという音になって完全に消えた。ほっと息をつくと、私は気づいてしまった。

 私、まだ先輩に抱きしめられてる!!

「せっ・・・先輩。」
「なんだ?」
「あの・・・もう平気です。」
「ん?・・・・・・・・・・あぁ!!すまない。」
「いえ・・・・有難うございます。」
「いや・・・」

 私達はしばらく沈黙してしまった。男の人にこんな風に抱きしめられたのは初めてで、何だか凄くドキドキしてしまった。

―――やった〜〜〜!!乙女系!!これぞまさしく乙女ゲーね!!ラヴハプニング!!でも鉄筋が来るなんてそうそうない。まぁ、乙女ゲーならそれもありだわ。

「すみません!!お怪我はありませんか!!??」

 工事現場で働いているのだろう、作業服を着た人が青い顔をして走ってくる。

「はい、大したことは。それよりも・・・」
 先輩の目が、いつもよりも鋭くなっている気がする。それはそうだよね。もしこれが先輩のような凄い魔法使いじゃなく、一般の人だったら。考えただけでも恐ろしいわ。

「はい!!本当に申し訳ありません。何とお詫びをして良いのか・・・「鈴木――――!!!」」
「「「!?」」」

 何かが起こったのだろう。工事現場のなかで叫び声が聞こえた。慌てて駆け寄ってみる。

 すると、大きなコンクリートが、人の足に乗っかっている。

「鈴木!!くそっ!!」
「どうした!?」
「監督!!今の鉄筋が落ちたせいで、そこにあったコンクリートの壁が鈴木の足に・・・!!」

 鈴木と呼ばれる男の人は苦しそうに悲鳴をあげている。他の作業員が力を合わせて、必死に壁をどかそうとするが上手くいかない。また、少し動かすことで相当負担がくるらしく、その男はまた悲鳴をあげる。

「これは・・・レスキュー隊が来るまでこのままにするしかないな。」
「!!!そんな・・・。」

 事態は深刻。レスキュー隊が来るまで、まだ少し時間が掛かる。渋滞なんかしたら、それこそ・・・。

「俺がやります。」
「!!」
「フィーナル学園の者です。コンクリートは壊してしまうことになるかもしれませんが、どかせると思います。」
「ほっ本当かい!?君!!」
「ええ。」
 
 えっ、ちょっと待って。先輩、今結構高位の魔法を使ったんだよね?私、足手まといだったのに、ここにきてまで何も出来ないなんて!

「あの。」
 思い切って声を出してみる。
「先輩、ここは私にやらせてもらえませんか?」
「え?」

 出来るかわからない。

「先輩、今さっき魔法を使いましたよね。」
「あっ、あぁ」

 本当は恐い

「私何も出来ませんでした。」
「いや・・・」

 また失敗する確立の方が高い

 でも

「今度は私が助けたい。先輩。」
「・・・分かった。」

 有難うございます。

―――いや、早く鈴木さん助けてあげようよ。可哀相だよ。

「―――月別れ」




 ドオオオォォンっという音が聞こえた。土煙が凄くて見えにくい。術は成功した・・・けど、強すぎてそこにいた人ごと消してしまったかもしれない。

 だんだんと周りがはっきりと見えてくる。そこには・・・


「鈴木―――――!!」

 見事にコンクリートだけが砕け散っていた。成功・・・したらしい。

「あぁ!!もう、なんとお礼を言ったらいいか!!」
「・・・・・・」
「・・・あの・・・?」
「???」
「・・・・・・」
!!」
「・・・はっ・・・、はい!!」
「大丈夫か?」
「だっ大丈夫です。」
「どうした?」
「いえ・・・あの。ほっとしちゃって。すみません。」
 良かった。周りに大勢の人がいたから、今日の授業と時みたいに失敗するかもと思ってたけど。何とか平気だったみたい。

 工事現場の人に凄く感謝され、私達はしばらくした後、その場を離れた。

「疲れたか?」
「いえ・・・ちょっと今日、実技で魔法失敗しちゃったんです。その・・・暴走とかじゃないんですよ!?もちろん。でも、だから成功してよかったなぁって思ったら、何だか気が抜けちゃって。
 優子に言ったら『大勢の人の前だから緊張してしまったんだ』って言われて心配だったんですが。」
「・・・自信がない魔法を使うのは感心しないな。」
「・・・・はい。」
 そうだよね。人が苦しんでるんだもん。それを・・・
「でも、俺の為にしてくれた。」
「!!いえ・・・・・・あの・・・。」
「・・・すまない。有難う。」

―――あらら。スチルだわ。多いね。最高級の笑顔。やっぱり普通に居れば格好良いのよ。メガネさえなけりゃぁ。 

 今の私の顔は真っ赤だろうな。先輩ってこんなに良く笑う人だったの?優子はそんな感じのこと言ってなかったのに!!なんていうか、格好良いかも。って、あ!!

「いっけない!!」
「!?」

 やばい!!待ち合わせの時間まであと少ししかない!初日から遅刻なんて、あのカマ・・・じゃなくてオーナーに殺されてしまう!

「すみません、先輩!!私もう行かなくちゃ!」
「あ、ああ。メガネ、急がせてしまって悪かったな。」
「!!いえ、こちらこそすみませんでした。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「あ、あのっ先輩。」
「?」
「・・・また明日」
「・・・あぁ、また。」

 恥ずかしくなって、私は先輩の顔をちゃんと見ずに走り出してしまった。バイトは嫌だけど、とりあえず弁償するために頑張らなくちゃ!いよっしゃぁ!!ファイト〜〜!!

 そうして私は彼らのもとへ走っていった。

余談
 
「また明日・・・か。」
 そう言うと、杉原は真っ赤な顔をして帰っていった。