エピソード:2 『奇想天外☆奇士快怪』



 昨日は、何か結構展開早くてびっくりしたけど、でも乙女ゲーなんて展開早くてナンボの世界よね!
 そうと決まれば、今日も早く帰って、さっそく続きをプレイしなくっちゃw

 私がそう心の中で意気込んでいると、隣にいたが微笑んだ。
、何かいいことあった?」
「え?」
「いや、何かすごいやる気に満ち溢れてるっていうか、オーラが感じられたから」
「あ、あははは……気のせいよ、気のせい」

 思わず引きつり笑いを浮かべる私。
 やばい、顔に出てた。
 昨日はの誘いを即行断って、家に飛んで帰っちゃったし……。
 ちょっと悪いことしちゃったって、今更ながらに反省してるわけよ。これでも。

「そ、そういえば、シューズいいの買えた?」
 私は慌てて話題を変えた。
「え、あ、うん! すごいいいのがあってさ」

 も特に気にした様子もなく、話題に乗ってくれたので一安心だ。
 仮にも彼女が、自分の誘いよりも乙女ゲーを取ったと知ったら、ショックを受けるだろうし……。
 てか、「別れようw」って言われそうな気もするし……。さすがにそれは嫌だ。

「そっか。良かったね」
「うん。これでまた、テニスに打ち込めるよ」
 そう言って嬉しそうに笑う彼を見て、私も微笑んだ。というか、安堵した。

 ……うん。
 まあ、ゲームの中みたいなときめきは無いけど、こういった日常で感じるほのぼのさもやっぱいいよね。
 うきうきしてきたついでに、普段とは違う私を見せてあげよっと。
 というか、試してみたいことがあるだけだけど。

「テニスしてるは、すっごいカッコイイよ」
 私は笑顔で言った。
「えっ……ど、どうしたの突然??」
 照れてる照れてる。
「まさしく『テニスの王子様』って感じ!」
「えぇぇっ」
 ふっふっふっ……。よしっ、とどめの一撃っ!
「ウフフ、ではっ、、帰宅しまぁす☆(敬礼っ)」
「ぬおっ!?煤v

 私は、昨日のあり得ない選択肢を実践してみた。笑顔で、ぶりっこで、敬礼っ☆みたいな。
 まあ、幸いコイツは私の彼氏なので、まあまあ許される行動だと思う。。。
 案の定、目が点になってる……というか、驚きすぎだっつーの。
 ほら見たか、ときまほ! あんな選択肢この世に存在すべきじゃないんだっつーの!
 実際やったら、男引くだろーが! もちっと考えてゲーム作れや!!
 私はちょっとヤクザになりきっていた。

……?」
「えっ……あ、あははは。なーんてね」
「いや……、何かキャラ変わってるけど……大丈夫か……?」
「だ、大丈夫よ。私だって、たまにはおバカなことしてみたくなったりするの。うん、それだけ」
「そう? ハハハ、でも結構良かったよ?」
「え」
 私は自分の耳を疑った。
「普通に可愛かった。あんな見たの初めてだし…何だか新鮮でいいな」
「えぇっと……」
 やばい……。ちょっと、何この展開!?
 ゲームよりもゲームだよ!? あり得ない!! 、アンタ頭やばいよ!!
 うっ……何だか物凄く恥ずかしくなってきたわ。
 こんな私の混乱をよそに、彼は笑顔で続ける。
「はは……照れるなら止めればいいのに。おかしなだな」
「よ、……貴方、本気で言ってるの??」
「え? 何が?」
「いや、だから……あの究極ぶりっ子の真似事を、その……可愛いとかって…」
 ぐあぁ。何を照れてる! こんなんで照れてたら、乙女ゲーなんてプレイできんぞ!!
 すると、は何を思ったのか、私の手を取った。
「?」


 そして……








――ちゅっ











はいつも可愛いよ」










「・・・(フリーズ中)」



――ほっ……ほわっちゃぁぁぁぁゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁぁっぁぁっ!!!!???



「○▲□×※*〜!?」
「ははは、はからかうと本当に面白いなぁ」
 が何か言ってるけど、私の頭の中はそれどころじゃなかった。
 いや、これは別に奴が手にキスをしたから照れてるとか、そういうわけじゃない。

 ただ……ただ一言言いたいのは……



『乙女ゲー以上のゲロ甘な男が実在したぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!』



 あ、あんな、ゲームの中くらいしか言わない、聞けないであろう台詞&行動を取るよーな男がいたなんて!!!
 しかも、ソレ。私の彼氏ですからぁぁぁぁぁぁっ!!!! 残念っっっ!!!!(古)

 私はふらつく頭を抱えながら、立ち上がった。
 もうダメ……これ以上ここにいたら、何だかここがゲームの中のような気がしてくる…。
 さしずめは……高城? あ、そう言えば似てるよーな気がしてきた……。

「あ、ちょっと! もう帰るの?」
「うん、私今日サークルないし。溜まった課題仕上げないとヤバイの……」
 ホントはときまほやりたいだけなんだけど。
 そして、これ以上アンタといたら、私どうにかなりそうなの……色々な意味で。
「そっか……残念だな」
「?」
「いや、今日が暇だったら、新しく出来たカフェに行きたいなって思ってたんだけど……」
 そう言って、淋しそうに目を伏せる
 あ! これはまさしく昨日の薫ちゃん!! っと、ゲームを思い出すところが、もう相当酷い彼女だと自分でも思う。
「あ……そうだったの……」
「うん……。あ、でも課題なら仕方ないし! また空いてる時にでも行こう」
 笑顔を見せるに、本当に罪悪感が込み上げてきた。
 うぅ……私ってば、かなり非道だわ。。。
……。ごめんね、ホント」
「いいよ、この埋め合わせは必ずね」
「うん! じゃあ」
「気をつけて帰りなよー」



 帰り道、私の頭に浮かんだのは「早くときまほをコンプしよう、そして元の生活に戻ろう」ということだった。
 さもないと私は、とんでもガールになっちまう。。。
 しかしまあ……
 今時あそこまで、清清しいほどキザな王子キャラも、天然記念物並みに珍しいよね・・・アハハ。








――自宅
 さぁて、のタメにも、何より私自身の精神を正常に保つためにも、さっさとクリアしちゃわなきゃ。

――スイッチオン!!


 
編入三日目。
「やーばーい!! 遅刻っ」
 あの電車に乗れれば、ギリセーフ!! 待って車掌さんっ、その扉を閉めないでぇぇぇ!!!!

――あはは、こういう風景って共感できるわぁ

――プシューッ
『発車します』
「あーっ!!!」
――がたんごとん。がたんごとん

「行っちゃった……」
 私の祈りも虚しく、電車は遠くなっていく。
 編入三日目にして、初遅刻。最悪です・・・
「どうしよ……絶対間に合わないよぉ」
 半泣きになりながら、仕方なくベンチに腰掛ける。どうあがいても遅刻は遅刻。仕方ないのだ。
 そんな時、携帯が震えた。
「ん?」
 メールが来ている。相手は優子だった。
『――おはよう! 朗報だよ! 一限の共通科目は先生の事情により自習だってw』
「や、やったー!」
 思わず携帯を抱きしめる。良かった、なんてラッキーなんだろう!! 
『――ホント!? 実は遅刻しそうだったんだ。助かったぁ』
 返信して、ほっと一息吐く。これで、編入早々汚名を被ることはなくなった。
 次に来た電車に乗り込み、ほっと胸を撫で下ろす。

 駅に着くと、まだ何人か生徒がいた。皆、遅刻ですか……


 校門をくぐると、すぐ目の前には美しいオブジェが施された、綺麗な噴水が出迎えてくれる。
 まほアカは、全体がレンガ基調で作られている、とても芸術性の高い建物だ。
 また、校舎の壁には、魔法陣やら、何やらが描きこまれていて、一発で魔法関連の施設だと分かる。

 噴水を抜け、三叉路に差し掛かる。
 北へ進むと、メインのアカデミー棟。 東には、図書館。 西には、部室棟がそれぞれ立ち並んでいる。体育館やプールもここ。
 グラウンドは、アカデミー棟の裏側にあって、食堂やカフェテラスなどは全てアカデミー棟内にある。
「何度見ても、すごい学校……」
 さすが国が出資しているだけあって、本当に設備はすごい。ちなみに、国立アカデミーなので、図書館は一般の人々も利用できる。

 私は三叉路で立ち止まった。時間に余裕があるんだけれど、どうしよう。
 

――お、選択肢。

1、「このまま教室へ向かおうっと」
2、「もうすぐテストだし、図書館で自習しよっかな」
3、「部室棟でも行こうかな」


――うーん…微妙ねぇ。1は多分、優子か静だよね。で、2が……晋也? 3が薫ちゃんかな。けど、昨日は図書館で薫ちゃんに会ったし。。
うーん・・・よしっ、とりあえず静に会いたいから1で☆ぽちっとな

「このまま教室へ向かおうっと」
 私はとりあえず教室へ向かうことにした。テスト勉強するにも、優子や高城君にに聞いた方が、対策が練りやすいよね。



――がららっ
「あ! 、おはよー」
「おはよう、さん」
「おはよう二人とも」
 教室に入ると、優子と高城君が声を掛けてくれた。クラスメイトはまばらで、どうやら皆どこかへ出かけているらしい。
、ラッキーだったね」
「うん、ホント助かったよ……ありがとね、優子」
「ふふ、さん、遅刻しそうになったんだって?」
「あはは、ちょっと昨日遅くまで勉強してて……」
「あー、もうすぐテストだもんねぇ。私もやらなきゃな」
 そう言って、長い髪をかき上げる優子。やっぱり美人だなぁ。
「そうだな。そろそろ始めないとね」
 高城君も、頷いた。
「ねえ二人とも、テスト勉強って、具体的に何やればいいのかな? 野中先生に説明してもらったんだけど、イマイチピンとこなくて…」
「フィーナル祭のことは知ってるんだよね?」
「うん。各学年の代表者2名ずつが競い合うんだよね?」
「そうそう。それぞれの得意魔法の披露って感じかな」
 高城君の説明に、優子が付け加えた。
「ついでに言うと、高城は今のところ、学年代表候補だから。、何でも聞きなさい」
「すごい!!」
 

――静、お前ってホントすごいな……

「いや、たまたま魔法が上手くいったところを先生が見てたってだけで」
「ま、アンタ努力家だしね。あーあ、と高城がまほ研入ってくれたら、部長も私も本当に嬉しいのに」
 優子がジト目で睨んでくる。
「三村だって水だろ。俺がいても変わらないって」
「何よ高城。アンタ喧嘩売ってんの?」
「まあまあ優子……」
 優子の魔法陣に対する熱意には、敬意を払わずにはいられないなぁ。
「あ、そ、それで、どんな勉強したらいいのかな?」
「あ、そうだった。ごめん。えっと、筆記は普通に教科書を勉強すればいいと思うよ。本当に基礎しか出ないから」
「そうなんだー」
「そーよ。大丈夫、大体筆記の平均点って70は硬いから」
「えぇっ、高い」
「心配しなくても平気だよ。筆記で差がつくことはほとんどないんだ。問題は実技かな」
 そう言って高城君は立ち上がる。
「三村、課題の例言ってみて」
[???]
 何が始まるんだろう。
 いまいち状況がつかめていないわたしをよそに、優子は言う。
、高城がお手本見せてくれるみたいよ」
「え、いいの?」
 返事の代わりに、高城君は微笑んだ。
 やった、高城君のお手本が見られるなんて、すごいラッキーw
 優子は、興奮している私に苦笑しつつ、高城君に向かって言った。
「課題1.初級レベルの魔法を、5つ連続で出せ」
「初級レベルで5つも!?」
 驚きのあまり、声が裏返った。だって私、そんなの全然出来ないんですけど……!!!
 高城君は、何ともないように、手を振る。
「大丈夫。初級レベルなんて、原理さえ分かってれば、いくらでも出せるから」
「……それはアンタだけだって」
 優子の呆れたような突っ込みに、今は激しく同意した。

――ははは……静、天才って怖いな。優子、ナイス突っ込みだわ。

「それじゃあ行くよ……!――凍結」

――スチル出たー! やっべえ、やっぱ静カッコイイし。でもさ、教室で魔法合戦はやばくね?

――ぴきぴきっ
「あ、これって杉原先輩が魔法陣で出した……」
「そう! 魔法陣は、簡単なのしか出せないから、初級レベル、良くて中級が限界なのよ」
 しかも、杉原先輩が出したのよりも遥かに分厚い氷の壁が出来ている。やっぱり、属性本人がやるとこうも違うものなのだろうか。

――メガネ、ちょっとバカにされてるぞー?? ま、いっか。

「――氷結」

――ぱらぱらっ

「この魔法、最初に見せてくれたやつだね」
「うん、そうだよ」
「はぁ、相変わらずお上手だこと」
 何と言うか、言葉が出ないくらいすごい……。
「次……狭霧(さぎり)」
 高城君がそう言い放った瞬間、あたり一面に霧が立ち込めてきた。ちょっと待って、何も見えないんですけど……!!!!
「こらー高城! 教室で狭霧使うなぁっ!!」
 隣で優子の声が聞こえるけど、姿は見えない。てか、こんなすごい魔法が初級!? はぁっ!? 無理なんですけど……!!!
「ごめんごめん。――霧散」
 その直後、霧は一瞬にして消えてしまった。
 高城君、すごすぎだって……。
「これで最後。――雪だるま」

「・・・はい?」

 今、何かおかしな単語が聞こえたような気がするんだけど?

――どむっw

 目の前には、30センチくらいの雪だるまがあった。いや、正確には『雪で出来たダルマ』が。

「高城……ウケ狙い?」
「え? 何が?」
「いや……何となく……」
 優子の引き気味突っ込みにも、反応できない。
「……」
 思わず言葉を失う……が、何か反応しなくちゃ! でも……何て言う? 

1、「可愛いw」
2、「か、可愛いね(引きつり笑い)」
3、「うわっ……微妙」

――ココで選択肢かよ!? 何だコレ! てか狙ってるのか?? 私にどうしろと??? 静の天然ボケに突っ込むべきなの?
それともここは、可愛く振舞うべき!? ある意味究極だわ……。うーん、うーん……。えーい、ここは2で!

「か、可愛いね」
……顔引きつってるから」
 幸い高城君は気付かなかったようで、「そう? 自分でも結構気に入ってるんだ」と微笑んでいる。
 てか、雪であのダルマを作るとは……。普通はこう、丸いの二個くっついた奴を想像しませんか?
 ダルマ違い……。

「こんな感じでテストが進んでいくらしいんだけど、何となくイメージできたかな?」
「え!?……、あ、もーバッチリw 雪だるまばっちり!!」
「……、雪だるまばっちりとか意味不明よ」
「あ、あははははは……」
 こうして、波乱万丈な自習時間は、終わったのだった。
 うーん、高城君の意外な一面を見た気がするよ。


――雪だるま……てか、雪ダルマかyo! 静、ファンクラブが半分解散されたよ・・・



――お昼休み
、私今日まほ研の集まりあるから、お昼一緒に食べられないの」
「了解。いってらっしゃい」
「うん、ごめんねー」
 優子が行ってしまったので、今日のお昼は一人……と思いきや、案の定首に巻きついてきた輩が一人。
「おはよ、薫ちゃん」
「おはよーセンパイw あれ、今日優子センパイいないの?」
「うん、今日は部活の集まりがあるんだって」
「そっかー。んじゃあ今日はセンパイを独り占めできるってわけだ」
「か、薫ちゃん////」
 素で恥ずかしいのでヤメテください。薫ちゃんは何事もなかったかのように、パンを頬張っている。
「そういえば、薫ちゃんっていつもパンだね・・・と言ってもまだ三日だけど」
「うん。いっつも早弁してるから」
「あはは、食べ盛りだもんね」
「そーそーw」
 昨日の淋しそうな顔はどこへ行ったのやら、今日はいつも通りの薫ちゃんだ。と言ってもまだ三日だけど。
 薫ちゃんの様子がおかしかったのは、確かお兄さんの話をした後からだったような……
 ちょっと気になるなぁ……でもなぁ。聞きにくい・・・。
「ねえ薫ちゃん」
「ん? なーに?」
「あのさ……」

1、「お兄さんってどんな人?」
2、「昨日のことなんだけど……」
3、「……やっぱ何でもない」


――またまた微妙な選択肢出しやがって。ここは無難に2よね。

「昨日のことなんだけど……」
「昨日?」
「うん……。その、お兄さんと……仲良くない…の?」

――うわぁ、。何核心突いたこと言っちゃってるんだよ。ここは言葉を濁すとこだろ! うわー言いずらそうにした意味ねー。

 
げ……。何かふっつうに聞いちゃったよ(汗
 うわ、薫ちゃん無言になっちゃったし。どうしよ……


――やべ、やっぱ選択ミス!?

 
薫ちゃんはパンを置くと、ふっと、淋しそうに笑った。あ……またこの表情。

――スチル出たー!! てか薫、まじ可哀相な顔してるし(涙 バカ主人公!! 薫にこんな顔させやがって。……てか私か。

「薫ちゃん……」
「仲良いよ、すごく……。兄貴は、オレの憧れ」
 そう言って薫ちゃんは窓の外へ目をやる。横顔が、いつもよりも大人びて見えるのは、私の気のせいなのだろうか。
「兄貴はね、ホント優しくて、頼りがいがあって、非のうちどころの無い奴なんだ。オレも兄貴みたくなりたくて、努力してときまほにも入ったよ」
「……」
「兄貴は何でも持ってた。誰もが羨むような才能、知性、人間性……、全てが兄貴のモノだった」
 そよ風が、薫ちゃんの猫毛を揺らす。
 こうして見ると、薫ちゃんって、本当に綺麗な顔してるな……。
「兄弟ってさ、やっぱりどこかしら似るもんなんだよね。趣味とか、特技とか、好みのものとか……」
 薫ちゃんが私を見た。
 燃えるような、真っ赤な瞳。
 でも今は、何だか淋しい、紅色……。


――萌えるような瞳……なーんつて。。。シリアスモード全開。どうなっちゃんだろ。

「似てるけど……オレは兄貴とは違うんだって、いつも思い知らされる」
 泣きそうな顔で、そう呟く。
「……」
 何も言えない。
 言葉が出てこなかった。
 薫ちゃんに、何て言ってあげればいんだろう。
 私が逡巡していると、薫ちゃんはいつの間にかいつもの笑顔を浮かべていた。
「ま、オレはオレのやり方で生きてるからいーんだけどね!」
 

――薫……相当無理してるなぁ。

「薫ちゃん……」
「あ、ゴメンセンパイ。次移動なんだ。もう行かなくちゃ」
「あ……うん」
「またねー」
「うん……」
 駆けていく後姿は、何だかとても辛そうだった。薫ちゃん……私、すごい悪いこと聞いちゃったみたい。。。


――げ! 薫ルート失敗!? そんなぁ。。。いや、まだ分からないよね。多分、勘がだけど、そんなに悪くない展開な気もする……よ?
 ま、ミスったら、またやり直せばいいしね。

 その後優子が帰ってきてからも、私は薫ちゃんのことが気になって、まともな会話が出来なかった。。



――放課後
 今日はどこへ行く?
1、図書館にて勉強
2、まほ研に行く
3、まっすぐ帰宅


――うーん……。これって、結構ランダムに変わるんじゃ・・・。昨日は図書館に薫いたしな。でもテスト前だし、とりあえず図書館へゴーだ。
1をぽちり。

「図書館で勉強しよー」
 私は図書館へ向かった。

 図書館に着くと、かなりの人が勉強している。皆テストを意識しているのだろうか。これはますます気合をいれないとやばそうだわ。
「えーっと、魔法式学はと……」
 分厚い本を何冊も抱え、ふらつきながら本を漁る。とと、前が見えなくなってきちゃった……。
「あと一冊……。えっと、魔法薬学は――わわわっ」
――どんっ ばさばさばさばさっ
「わわっ、ととっ、うぎゃぁ」 
 何かにぶつかって本を落とした上に、足がふらついてよろめく。
――どしーんっ
「あ、いたたた……」
 そのまま何かの上に転がり込んでしまった。
 ……何か、柔らかいような。。。。
「……大丈夫、か?」
「はい、大丈夫で……ひぃっ!??」
 私の下敷きになっていたのは、杉原先輩だった。本と私に押しつぶされてるという方が、合っているかもしれない。メガネもズレて……いや、フレームが曲がってる!?
 少し……いやかなり辛そうな表情。


――き、来たー!! メガネが再来したー!!! しかもズレメガネ!!!! ぎゃははははははっ

「す、すみません!! 今すぐどきますからっ」
「ああ……そうしてくれるとありがたい」
 慌てて飛退くと、先輩は身体を起こして、埃を払った。そして、ショックのあまり呆然としている私を尻目に、散乱した本を重ねてくれている。相変わらず無表情だ。
「あ、あの……」
「何だ?」
「メガネ……フレームが……」

――いや、突っ込みどころ違うだろ! メガネそんなに気になるのか!?

「……? ああ、これか……」
 先輩は、メガネを外してフレームを触った。てかメガネ外すと、ものすごくカッコイイ……。って、そんな場合じゃない!! フレーム壊したの私だし! 弁償しなきゃ…。
「ご、ごめんなさい! メガネ、弁償させてください!!!」


――メガネメガネ本当にしつこい主人公だなー。でもうけるからいいけど。めがね。。。てか、メガネ外すとふっつーに美形じゃん。やべ、このままメガネ外してくんないかな。

「いや、平気だ。元々そこまで視力は悪くない。無くても支障はないだろう」

――だったらメガネなんてかけるなよ……と思うのは私だけか?

「で、でも……」
「心配しなくていい。本当に大丈夫だ」
 重ねた本を持って、先輩は歩いていってしまう。
「先輩?」
「本、使うんだろう? 席まで運んでやるよ」
「え!? そんな悪いです」
「いや、また今みたいなことになる方が悪いだろう」
「…………。お願いします」
 もっともな突っ込みをされて、私は頷くしかなかった。

 山積みになった本を見て、私は溜め息をついた。こんなの全部、読めるわけないし。
……いくら何でも、これは借りすぎじゃないか?」
「あはは……ですよねぇ」
 そういえば、先輩ってものすごい秀才じゃなかったっけ。 勉強教えてもらうチャンス!? いや、でもやっぱりメガネのフレームが……。
 とにかく、せっかくだし何か会話してみよう。

1、勉強について
2、メガネについて
3、まほ研について
4、フィーナル祭について

――あの……選択肢、明らかに一つだけおかしいの混じってるんですけど。2って何、2って。メガネ?? メガネの何について聞くの!? えっ?
 でも、ここはあえて2で挑もうかと思います☆もうどうにでもなれってばよ。

「先輩、メガネのことなんですけど……」
「ん?」
「あの、やっぱり私に弁償させてください! このままじゃ私、どうしても気がすまないんです」
「いや、でも本当に――」
「私、メガネが好きなんです!! I love MEGANE!!」
「……」


――・・・・Haaaaaaaaa!?(はぁっ!?)
 何ほざいとんじゃーーーーーーー主人公ーーーーーーっ!!!!!!!! 何で突然カミングアウトしとんじゃー!?

 
先輩は、言葉を失くしたように固まっている。あれ……? 私今、おかしなこと言った???

――言ったよ! アンタおかしなことを言っちゃったよ!? 

「あ、あの…先輩?」
「・・・・・・」
「メガネって……いいですよね…? あははは……」
 私、どうやら話題を大きく間違えたみたい……。
「っ……」
 先輩が、俯きながら震えている。え!? もしかして私に対する怒りとか!?
「せ、先輩……あの」
「くくくっ……」
「!」
 見れば、先輩は必至に笑いを堪えている。わ……先輩の笑った顔、初めて見た……。

――おー! 先輩がわらっとる。でもメガネかけてないから普通だな。普通にカッコイイ。

「くくっ…ははは……お前、面白いな」
「い、いえっ、それほどでも」
 動揺して、意味不明な言葉を吐く私に、先輩は尚も笑い続けている。
「せ、先輩、笑いすぎです……」
「す、すまない……」
 ごほんと一つ咳払いをした先輩は、また元の表情に戻っている。しかし、前よりも少し穏やかに見えるのは気のせいだろうか。
「じゃあ、俺は調べ物があるからもう行くよ」
「あ、メガネは……」
「分かった分かった。そんなに言うなら、好きにしてくれ」
 そう言って、フレームの曲がったメガネを、私に渡してくれた。
「いつでもいいから。直ったら持ってきてくれ」
「はい!」
 やったー! フレーム曲がりのメガネげっと♪ って、貰ってないけど・・・。

――うおぉい! おかしくないか?! この展開! 何でメガネゲットなんだよ!? てかどうすんだよコレ。いらねー…
 そして、お前面白いなって言ってるけど……お前も十分面白いから。。。。
 主人公、なんだか性格変わってきてるなぁ(汗



――数時間後……
「はぁぁ、疲れた。今日はもう帰ろうかな」
 本を片付け、図書館を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
 噴水の前に差し掛かった時、見慣れた後姿を発見。
 あれは……

1、「優子だ」
2、「薫ちゃん……?」
3、「野中先生!」

――せ、先生!! やだっ、こんなとこで出会えるなんて運命!? もちろん3を☆……と言いたいとこだけど……、やっぱ流れ的には薫ちゃんを慰める方がいいんだろうな・・・。
 くっ……先生、また明日!! 2を選択っ。

「薫ちゃん!」
 私は思わず声を掛けていた。
「……センパイ?」
「こんな遅くまで、お疲れ様。部活とか?」
「うん。まあそんなところ」
「そっか」
 薫ちゃんの横に並び、一緒に下校する。
 昼休みに見た、あの表情は今はない。けれど、どことなく淋しげな雰囲気が漂っている。

――薫ちゃんを元気づけたい。
 昼休みから、ずっと考えていた。
 何を言えば、薫ちゃんを元気付けられるのだろう。
 私に出来ること……
 それは……

 空を見上げれば、月が出ている。
 白く、美しい満月だ。
 ……満月?

――あ!!

「ねえ、薫ちゃん」
「ん?」
 私は駆け足で薫ちゃんの前に立ち塞がった。

 思いついた、私に出来ること。
 私らしい方法があったじゃない。

「センパイ?」
「今から、すごいモノ見せてあげる」
「え?」
 面食らっている薫ちゃんに、ウインクを一つ投げかけて、私は目を閉じた。

 目を閉じても感じる月の輝き。
 月の魔力が集まってくる。
 こう考えると、私はやっぱり星使いなんだなぁと実感する。
 息を大きく吸い込んで、詠唱を始める。

「月の光よ……」

 精神を集中させる。
 月の光を、自分に引き寄せるようなイメージで。

「今、我に纏い、かの者を照らせよ」
「……?」

 光が集まってくるのが分かる。
 大丈夫……いける!

「――月詠み」
「っ!?」
 
 私の前には、全身に月の輝きを纏った薫ちゃんがいた。

「センパイ……これって……」
「ふふっ、キレイでしょ? 私のとっておきの魔法」
「すごい……。何だか、全身が温かいよ」
「月の魔力が体を包んでるから、魔力の回復にもなるんだって。 昔、おばあちゃんに教えてもらったの」
 ぽかんとしている薫ちゃんに駆け寄って、その手に触れる。
 月詠みは、おばあちゃん直伝の魔法で、私が扱える最高位クラスの魔法だ。
「わっ、センパイまで光った……??」
 私は微笑んだ。
「この魔法はね、触れた人にもその光が広がっていくんだよ。まあ、あんまり長くはもたないけど……」
 薫ちゃんから離れ、まだ立ちすくんでいる彼に私は言った。
「薫ちゃんだって、いっつも魔法を使ってるじゃない。薫ちゃんといると、皆元気になるし、笑顔になるでしょ?  薫ちゃんに関わった人は、この光のような、元気ていうオーラを身に纏えるんだよ。そしてそれは、月灯のように消えたりしない」
「センパイ……」
「それって、薫ちゃんが薫ちゃんだから出来ることだよね? お兄さんじゃなくて、薫ちゃん自身の力でしょう?」
「……」
「お兄さんと違うのは当たり前よ。兄弟だって、一人の人間なんだし。けど、薫ちゃんにしか出来ないこと、ちゃんとあるじゃない? 確かにお兄さんは完璧な人だったのかもしれない。でも、この力はお兄さんには真似できないんじゃないかなぁ」

 そろそろ月灯が消える頃。
 夜空の月を見据え、両手をかざす。

「薫ちゃんにプレゼントあげる」
「え」
「名付けて『月のシャワー』」
「月の…シャワー?」
「……月の光よ、我のもとに降り注げ」

 白い月が輝きを増す。
 そして、私の声と共に……


「――月時雨(つきしぐれ)」


「わぁっ……!」


 月の光が、雨のように降り注ぐ。
 星詠みとは違う、月の光を降らせる魔法。
 満月の夜にしか出来ない、特殊な魔法。
 薫ちゃんが、これで少しでも元気になってくれたら……


 しばらくの間、薫ちゃんは何も言わずに、ただ降り注ぐ光を身に受け、夜空を見つめていた。





――うおぉ……何だかよく分からんが、とりあえずこのシーンの映像すんごいキレイだわ。
 二人で夜空を眺める図って、かなりイイ!! でもさ、あえて突っ込むなら今の二人って全身から光を発してるわけよね。
 蛍族……?(果てしなく大間違い)




「センパイ……やっぱセンパイはすごいや」
 薫ちゃんが、笑っていた。曇りのない、澄み切った表情で。
「えへへ、これでも希少な星使いだしね。ま、成功するとは思ってなかったけど」
 実際、ちゃんと使ったのは初めてだった。
「ぷっ……あははははは。さすがセンパイ、大胆だね」
 吹き出した薫ちゃんを見て、安堵の溜め息を漏らす。
 少しは元気になったかな?
「ありがとねセンパイ! やっぱセンパイは最高だよ」
 目じりに滲む涙を拭いながら、薫ちゃんが言う。
 良かった。どうやら元気を取り戻してくれたみたい。



 駅に着き、電車に乗り込む。
 結構な人が乗っていて、薫ちゃんと密着してしまう。
「わわっ」
「おっと…」
 電車が揺れるたび、どうしてももたれかかってしまうのだ。
「ご、ごめんね薫ちゃん」
「いいよ、全然」
 にっこり笑顔で言われても……。
 薫ちゃんは良くても、私は困るんです……
。緊張するじゃない。。。
「ねえ、センパ――」
――『――次は、カルマ、カルマです』
 薫ちゃんが何か言いかけた瞬間、アナウンスが響く。
「うん?」
――がたんっ、ききーっ
 電車が止まる。
 カルマは、薫ちゃんの降りる駅だ。
「よっと」
 軽く飛び降りるようにして電車から降りた薫ちゃんは、私にむかってにっこりと笑う。
「センパイ」
「何?」
――『まもなく、発車します』
「あのね」
「うん」
「オレ、センパイのこと」
――『扉が閉まります、ご注意ください』
 アナウンスが響く。
 私は慌てて薫ちゃんの続きを促そうとした。
「か、薫ちゃん、早く――」











「大好きだよ」











――ぷしゅーっ……

扉が閉まった。










――『発車します。閉まるドアにご注意下さい』

私はフリーズした。




「・・・・・」











 遠くなるカルマ駅。
 薫ちゃんが手を振っているのが見える。








 ……私今、何を言われました?
 てか、薫ちゃん今、何か言いました?










 ・・・・・・・・ウソでしょ?











 
「……うえぇぇぇぇっ!?」


 私の叫び声が、電車内に響き渡ったのは言うまでも無かった・・・。




――ここまで、あまりにも怒涛な展開過ぎて、つい突っ込むの忘れてたけど……。何、もう薫に告白されちゃった系!?
 てかさ、主人公の魔法ってありえないくらいすごいし。静なんて目じゃないじゃん! 何だよコイツ。
 そして編入三日目で告白!? まさに乙女ゲーならではのやっつけ商法! ありえねーーーー!!!!






――次の日……

 昨日はあまりにもびっくりしすぎて、眠れなかった……。
 あぁ、薫ちゃんにどんな顔して会ったらいいのかな。
 ん? てか、そもそも薫ちゃんに私、告白されたの……??? いや、でもいつものスキンシップかもしれないし……いや、そうに違いない。

「目真っ赤だね、眠れなかったの?」
「そうなの、ちょっと興奮しちゃって……――うわぁっ!?」
「驚きすぎ……。おはよ」

 そこには、朝から爽やかな笑顔を浮かべている薫ちゃんがいた。
 私は同様のあまり、口をパクパクさせることしか出来ない。

「あ、わわわあわ」
「大丈夫? クマできてるけど」
 そう言って、顔を覗き込んでくる薫ちゃん。
 ちょっ、顔近すぎ……!!!

――ぬおっ!? 薫のドアップきたー!!! てか主人公『興奮』ってやばくね?(汗

「だ、大丈夫、大丈夫!」
「そう?」
 こくこくと頷くと、薫ちゃんは微笑んだ。
 あーもう、熱が出てきたかも……。
「センパイ、一緒に行こ?」
「え! あ、うん」
 そのまま二人で登校することになったのだけど。


「……」
 何となく気まずい。
 話題がない。
 色々考えているうちに、校門が見えてきてしまった。
 だって、朝のニュースなんて見る余裕なかったし。
 コンビニの新製品? 何て取って付けたような話題は無理あるし!
 でもでも、昨日のことぶり返すなんて、もっともっと無理な話で……!!
「うーん・・うーん・・・」
「?」
 唸りながら、校門をくぐる。
 薫ちゃんは、何事もなかったかのように、一歩先を鼻歌混じりで歩いている。
 な、何か私だけこんなに動揺して、ちょっと恥ずかしいんじゃない!?
 そ、そーよ。大体昨日は、いつもの冗談かもしれないし! そしたら私、一人でバカみたいじゃない!
 よ、よーし! ここは一言話すぞー!! 先輩なんだから、年下に振り回されちゃダメよ!!
「ね、ねえ薫ちゃ――」
「おーい!  薫!!」
 葛藤の末、意を決して言葉を発したのも虚しく。
 振り返ると、薫ちゃんのクラスメイトらしい子たちが、手を振っている。
 くっ……邪魔されたぁ!!


――やばっ、クラスメイトカッコイー!!(脇役好き

「お、はよー!」
 薫ちゃんも手を振り返している。
 くぅ……私の勇気は、粉々に砕け散ったわよぉ!(涙
「薫、お前今日鍵当番じゃなかったっけ?」
「げっ、やばっ! 忘れてた!!」
「急がないと、部長怒ってるぞ〜」
「ダッシュで行くよー!」
 友人たちの言葉に、焦りだした薫ちゃんは、駆け足でこの場を去ろうとした。
「あ」
 しかし、立ち止まって私を振り返る。
「!」

 真剣な瞳で私を見据える。
 思わず気圧されてしまうほど、彼の瞳は鋭い。

「か、薫ちゃん……」
 怯えた声で問いかける私に、薫ちゃんは微笑んだ。
「昨日のこと、本気だから」
「!?」
「オレぜーったい、センパイを落としてみせるからねっ!!」
「なっ……!?」

 慌てる私とは正反対。
 薫ちゃんは、小悪魔的な笑みを浮かべている。
 まるで悪戯をする前の子供のような顔だ。


 そしておもむろに私に近付く。

「え、何――」








――ちゅっ










「覚悟してね、


「っ……!!?/////」

 な、な、な……!!!!

「じゃあちゃん、またねー!」
 薫ちゃんが駆けていくのを、ただ呆然と見送る。


「……」

 声が出ない。というか、声にならない。
 わ、私今……薫ちゃんに……
 き……キスされっ……!!!???

――ぼんっ(頭がショートした音)

 口じゃないけど!
 ほっぺたに軽くだけど!!
 でも、でも……!!!





「きやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 二度目の叫び声は、昨日とは比べようにもならなかった。



――どキューーーーーーーんっ-☆☆☆(ごろんごろん床を転げ回る私)
 き…き…きゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!
 薫、やばい!! 死ぬ!!! 何今の小悪魔的な笑顔は!!!! 世のお姉さんたちを瞬殺したわよ!?
 私今、胸を射抜かれたましたからぁ……!!!! もうダメだ。。悶え死ぬ……!!!!!
 な、何てベタな展開なの!? でも、この確実にツボを押さえた展開……この乙女ゲー、只者じゃないわね……。






――教室にて……
「おはよう、……って、おーい、聞こえてるー??」
「…………」
「?? さん??」
 誰の言葉も耳に入ってこない。
 私今、完璧ヤバイ……。
 薫ちゃん……か。
 私は……

1、やばい……好きかも
2、好きかどうかは別として……ときめくのは仕方ないよね!?
3、うーん……守備範囲外?

――うーん、これで1にしちゃったら、完璧薫ルートだろうし……。かと言って3にしたら失敗だろうし……。ここは逆ハー狙えそうな2で。
 てか羨ましいな、主人公。私だったら即オッケーだねw あの場でカポーになってたって。

「……と、ときめくのは仕方ないよね! うん」

 薫ちゃんの告白には、やっぱりときめいちゃうわよ、そりゃぁ……。
 でも私、まだ編入したてだから、彼氏作るより、もうちょっとやりたいことがあるんだよね……。
 薫ちゃんの気持ちは嬉しいけど、今は保留ってことで。

「贅沢だよね、私……」
「……高城、…頭大丈夫かしら?」
「……ちょっと、自分の世界に旅立ってるな……」

 溜め息をつく私の横で、必至に空気を浄化してくれていた水使い二人に、この後保健室まで強制連行されたことは、言うまでもない。

――ホント贅沢だよ、君。乙女ゲーのお約束事項だから許すけど。普通だったら、半殺しにされてるよ? 私に。
 てか、空気清浄機かよ、静と優子はww



――放課後……
 どこへ行く?
1、図書館へ
2、まほ研に行く
3、まっすぐ帰宅

――今日はもう疲れたから、早くセーブしたいんで帰宅ね。さっきの薫イベは強制的に次の日になっちゃったしね。

「今日はまっすぐ帰ろうっと」

 駅に向かう途中、私は信じられない光景を目撃した。
 高城君が、すごい美人だけど、派手な女の人と一緒に歩いてる……!?

――えぇぇっ!? 静がっ!? noooooooooooo!!!!! いやーーー!!! 何か意外なところで静ルートに突入しちゃった!?
 てか何この、説明ちっくなコメントは……。

 
あ、車に乗り込んだ。高そうな外車……。

――ちょっと待ってよ!? 誘拐!? カドワカシ!!?? 、阻止しなさいよーーーっ!!! アンタ呑気に実況中継してる場合じゃないっつーの!!

 
車は街へと消えていってしまった。
 ど、どうする……?

1、関係ないし、そのまま帰る
2、気になるので、メールしてみる
3、追跡開始しまぁす☆


――1とかあり得ないんで! 3はどう考えても狙ってるとしか思えない。。。思えないけど……!! あえて3で★ えへw

 
絶対誘拐だ! いや、拉致かもしれない!!
 私は、すぐさまタクシーを停め、乗り込む。
「お客さん、どこまで?」
「前の車を追いかけて!」
「は?」
「友達がかどわかされたんです! お願いします!!」
「はぁ・・・」
 こうして私は、タクシーのアンちゃんには有無を言わさず、車の後を追わせたのだった。


――すごいなコイツ。どんだけ行動力あんだよ……。てか、静!! 女と出歩くなんて破廉恥行為、許しませんわよ!!!








「ここって……」
 タクシーから降りた私は、思わずふらついた。

――ギャンブルの街、『ルミナス』。通称:「ファントム・シティ」
 国の富裕層のプレイスポットとして、その名を轟かせるフィーナル最大の遊宴街である。
 朝の来ない、眠らない街としても有名だ。

 ネオンの光が交錯し合い、目が眩む。
 夜の顔を持つ大人たちが、せわしなく行き交う。
 香水・化粧の香りに混じり、アルコールの匂いが鼻につく。
 ホストクラブ、キャバクラ、ダーツ、ビリヤード、バー、映画館、カジノ……と、ありとあらゆる遊びが混在した街なのだ。
 当然のことながら、高校生が一人でふらつくような場所ではない。

「あぁ、ちょっと私、先走り過ぎたかも……」
 しかし、今更引き返せない。
 タクシー代のせいで、現所持金は0。これじゃあ帰りたくても帰れないのだ。 
「うぅ……もう、高城君を追うしかないっ」
 数メートル先を歩く、高城君たちの後を尾けるように、私は二人の行く先を追い始めた。


――なんか探偵ちっくになってきたなぁ。てか主人公馬鹿だろ。タクシー代結局静にせびるしかないじゃーん!!
 しかし、静。説明書に書いてあったのって、ホントだったのか……。



 
着いた先は、一軒のカジノだった。
 通りの中でも一際目を引く豪勢な造り。
 どっからどう見ても、金持ち専用の遊び場という雰囲気だ。

 『Mephisto(メフィスト)』

 これが店の名前らしい。
 高城君は、派手美人と共に、裏口のようなところから中へ入った。

 彼はそもそも、ほんとに誘拐されたのだろうか……??
 何だかそれすら怪しいけど……。


 さて、私はどうすれば……

1、「このまま裏口へ」
2、「いや、あえて通常の入り口から」
3、「よし、携帯で連絡」

――ここはもちろん3よね。事情を話して、何とか家に帰らないと。もう静とか言ってる場合じゃないでしょ(酷

「よし、携帯はっと……げげっ!」
 充電が……切れていた。


――にゃんだってーーーーー!? 使えねーーーーーーーーーー!!!!

 
うーん、仕方ない。ここはやっぱり……

1、「裏口へ」
2、「入り口へ」


――こうなったらヤケね。といっても、入り口に制服のまま入るのはさすがにマズイから……裏口から侵入するわ!

「よーしっ、裏口へレッツゴー!」
 待ってて高城君!!
 私は意を決して、裏口の扉を開けたのだった。



――その瞬間


 私は、驚愕の現場を目撃した……!!
 


 高城君が、派手な女の人に無理矢理何か、飲まされそうになっていたのだ。



「た、高城君!!」
「えっ!? さん!?」
「ん? 誰、アンタ」

 しかも何か、紫色の怪しい液体。
 間違いない。高城君はこの人に誘拐されて、新薬の実験体にされようとしてるんだ!!


――うーん、多分違うんじゃないの? 


 
私は……

1、魔法で攻撃
2、派手な女に捨て身タックルをかます
3、Uターンして、見なかったことにする

――あえて3を選ぶとかあり?……いや、なしですよね・・・
 ここはもう、まほアカ生らしく、魔法で攻撃するっきゃないっしょ!!いっけーーーーー!ぽちっ

「高城君を薬漬けになんて絶対させないんだから!」
「な、何よアンタ。一体どこの誰!?」
「も、さん!?」
「覚悟しなさい、この悪党!!」

 私は大声で啖呵を切ると、大きく息を吸い込んだ。

「流星よ――今、我のもとに集い、かの者を滅せよ!」

――きゅりんきゅりんきゅりーんっ

 途端に天井が、小宇宙へと変わる。
 夜空に輝く無数の星たちが、次第に集まってくる。

「な、何よっ!? この子一体何なの!!??」
「こ、この魔法って、もしかして――」


『――星酔醒(せいすいしょう)!!!』


――ぴきゅーん、ぴきゅーん、ぴきゅーん!!!!

 無数の星星が、一気に派手美人目掛けて落下していく。
 実際人に向けて使ったことないから、威力の程は知らないけど、まあ気絶くらいはさせられるんじゃなかろうか。

「ちょ、ちょっとアンター!?」
「うわっ、さん!!!!」

 私は構わず、星を呼び続ける。

「大人しく、ばたんきゅーしちゃいなさい!」
「いや、アンタ何言ってるのよ!? ちょっと待って――」
「問答無用!!!」
「ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁぁぁ〜!!!」
「わ! オーナー!!」

 ……オーナー?

 私の動きが止まるのを見て、高城君が焦りながら言う。

さん、違うんだよ。この人は、バイト先のオーナーなんだ!」
「……今、何と……?」
「バイト先のオーナー……」
「…………ウソ」

 重大なミスを犯したことに気付くにしては、幾分か遅すぎた。



 床に突っ伏して、ぴくぴくと痙攣している女の人。
 よく見ると意識はあるようで……
 えーと……こめかみに青筋が立っているような・・・・

「ふふっ……うふふふっ……アンタ、イイ度胸してんじゃないのよ……」

 口元が、震えている。
 私も、違う意味で震えている。

「え、えーと……あ、ははははは……」
「うふふふふふ……」
「あははははは……」

 ……ヤバイ。
 もしかして私……大ピンチ?

 ゆらりと立ち上がった派手女は、そのまま物凄い形相で私に飛び掛らんばかりの勢いで突進してきた。

「き、きゃぁぁぁぁっ」

 あまりのショックに動けない私を庇うように、高城君が派手女を止める。

「お、オーナー!! 彼女は悪気があったわけじゃないんです!」
「止めないで静! ワタシはこの女を叩きのめさないと気が済まないのよー!!」
「ご、ごめんなさーい!!!!」

 それからしばらくの間は、派手女の攻撃から逃げることに命がけだった……。


――うわぁ……やっちったよ主人公。。。何も言うことはないな……。



――そして……
「あ、あの……本当に申し訳ありませんでした!」
 私は土下座をして謝っていた。

 結局この人は、高城君のバイト先のオーナーさんだった。
 幻影街に一人で来させるのは危ないと、わざわざいっつも車で迎えに来るそうで。
 ちなみに、さっきの紫色の液体は、オーナー手製のカクテルだそうで。
 未成年だからって、試飲しようとしない高城君を、どやしてたところだったらしい……ははは。

「オーナー、俺からもお願いします。彼女は、俺を心配してきてくれたんです。許してください」
 高城君が、私の横で、同じく頭を下げた。
 高城君……なんて優しいの??


――静、お前本当にいい男だな! 許してくださいって、自分が何かしたわけじゃないのに、一緒になって罪を被るところがまじ出来る!!

「静……アンタにそこまで言われたら、それ以上怒れないじゃない」
「オーナー! ありがとうございます!」
「ふぅ……ほら、そこのアンタも頭上げなさい。まったく……静に感謝しなさいよ。静がいなかったら、今頃簀巻きにして、海に沈めてるところだったわよ」
「は、はぃ……」
 何気に、命の危険に晒されていたことに、今更気付いた。

 お母さん、私九死に一生を得ました。
 高城君。貴方は私の命の恩人です……。

「はぁー……もういいわ」
 気だるそうに立ち上がったオーナーさんは、自分の服を見て、イライラしたように大きく溜め息をついた。
「あぁ、すいません! その服、そんなにしちゃって……」

 無惨にも、所々破けたり、焦げたりしてしまっているオーナーの服。
 とてもこの先、使えそうにない。
 しかも、超高級ブランドだ。あー……弁償できるのかな(涙

「あー、忌々しい!! 静、シャツ取って」

――ビリビリッ!!

「!?」

 オーナーは、何とその場で、自分の上着を破り捨ててしまったのだ!!
 ちょ、ちょっと!? ここには高城君もいるのに……!!!

 てか……あれ?
 何かが……おかしく……ない?

「お、オーナー! ここには、さんもいるんですから、向こうで着替えてくださいっ」
「何よ、こんな女どうでもいいわ。それより静、着替え」
「オーナー……」
「……」

 私は、オーナーの裸体に釘付けになっていた。
 いや別に、やらしい意味ではなく。
 だって……あれ……?

「……ちょっと、何人の体じろじろ見てんのよ」
「え!? あ、いえ、その……」

――胸が無いんですけど。

「ホントに癪に障るわね、アンタ」
「ご、ごめんさない……」

 今すぐに「男だったのかー!?」と叫びだしたくなる気持ちを、何とかとどめる。

「派手な女じゃなくて、派手なオカマの間違いだったーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 こうして私は、編入3日目にして、人生の波乱万丈全てを経験したような気分になったのである。



――第1章 終








――ぬおぉぉぉぉ!!!キタ、カマが来たー!!!!!!! でもアイツ、実はすんげぇ美形じゃね?? アイツも落とせるの!?
 うわぁ、マジ落としたい。。。
 てか一章が終わったし。これでまだ一章なん!? 一体何章まで続くんだよ!!!!
 あーもう疲れた。今日はこれでセーブしてお終い!!!! 








 あー……何だか無性に癒されたい気分だわ・・・
 そんなとき……

――ぴろりんろんぴろろーん、ぴろりんろんりんろん、りーろんろん♪

 携帯が鳴ってる?(ちなみに着メロはときはとき☆まほの主題歌)
「誰かなー……え、?」
 着信の相手は、だった。

「もしもし? 義? どうしたの?」
……いや、別に用事はないんだけど……」
「うん?」
「君の声が聞きたくて……」
「な、な、なっ……////」

 思わず携帯を握りつぶしそうになる。
 こ、このゲロ甘王子めぇ……。

「ははは、今携帯落としそうにならなかった?」
「えっ」
「ははは、図星?」
「〜〜〜っ///」

 こ、この男……私のこと、どこまで分かってるんだ!?
 も、もしかしたら乙女ゲーやってることも、バレ――

「今日さ、
電車の中で叫んでた子がいてさー」
「え…そ、そうなの?」

 あれ?
 このシチュエーション、どこかで……。

「うん。何でも
後輩に告白されたとか何とかで」
「――っ!?」

 私は、息を呑んだ。

「あはは、後はね、何か
友人が知らない人と車に乗るのを見て、タクシーで後を追ったっていう子の話も聞いたんだ」
「ひっ!?」

 思わず悲鳴が漏れた。
 な、な、な!?

「ん? 大丈夫、??」
「えっ……う、うん。何かすごいね、その話……」
「ね。しかもその子、
誘拐だと間違えて、その相手ぼっこぼこにしちゃったんだって。よくやるよなぁ」
「ほわっちゃぁぁーーーーーーっ」

 私は携帯を床に叩きつけた。

――「? おーい?」

 の言葉の一つ一つが、胸に突き刺さる。
 てか……何これ?
 一体どうなってるの……?

、ごめん! ちょっと急用が入っちゃったの! また明日ねっ」
「え、あ、うん。また明日な」
「お、お休み」
「うん。お休み」

――プッ、ツーツー……


「…………」






 もういいわ……。
 神様、本当に私が悪かったです。
 、明日はカフェに行こうね。。。
 もう絶対、ゲームを優先したりしないから。
 だからお願い……


――精神攻撃はヤメテーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!


 私は誓った。
 もう絶対にに嘘ついたりしないと。


 そして悟った。
 奴は、私の秘密を全て知っているのだと……。
 ……絶対に、別れないわ(遠い目
 私を一生守ってね……。。。



エピソード3に続く!?