エピソード14 「また明日」

親愛なるみなさま!お・ひ・さ・し・ぶ・り♪(゚▽^*)ノ⌒☆
で〜すv











つか、何?
いきなり絵文字とか使わせやがって。
久しぶりどころの騒ぎじゃないんだけど。
気づけば軽く●年位経ってるんじゃないかって気がするんだけど、気のせいよね?


ねぇ?


ほんと、毎回毎回勘弁してほしいのよね。
もう一人の作者さんはちゃーんと書いてくれるってのに。アンタはまた懲りないわね。
言っとくけど私だって暇じゃないのよ?
こうやってる間にも、なんてゆうの?
女優としてのモチベーション?下がっちゃうワケ。ホント、さっきから土下座してるの見えるけど、


それで済むと思うなよ?


やだ、いっけな〜い☆
怒りのあまり、危うく読者の皆様にドエライ顔見せちゃうところだった!
流石にこれは引かれるわね。危ない危ない(テヘッ)。女の子はやっぱり、笑顔が一番!
作者にはこれから色々償ってもらうということで、ひとまずは私の可愛いトコ見てもらわなくっちゃ☆


というわけで皆さま、置いてけぼりにしちゃってごめんなさい。あらためて、主人公の です。
これからまた再開するみたいだから、応援よろしくね☆


さてさて、久々だし、私と私の周りのことをザックリと説明するわね。
私、はオシャレ大好き!お喋り大好き!ちょっとクセ毛が気になる普通の女の子ですっ☆
(あれ?これどっかで聞いたことあるな。まぁいいか。)
どこにでもいるし、何か特技があるって方でもない、本当に本当に普通の女の子。


嫌になるくらいね。


そんな私の一番の趣味。それは
乙女ゲーを愛すということ!!!
乙女ゲーってゆうのは、乙女ゲーム。つまり女性のための恋愛シュミレーションゲームのことね。
主人公が何人ものイケメン達と一緒に苦難を乗り越え、一つに結ばれていくっていう、女の子が大好物な要素がいっぱい入ったアレのこと。
昔はTVゲームがメインだったけど、最近はもうほとんどが携帯用ゲーム機やPCで出されてるわ。スマホのアプリとかでもあるみたい。

私はその乙女ゲーが大好き!とっても絵がきれいだし、声も今をトキめく豪華声優さんたちがい〜ぱい出て、聞きごたえがあるし。
昔から漫画や小説が大好きで、物語を読むのが大好きな私は見事にハマりました。・・・ええ・・・金欠になるくらいに(泣)
だって・・・!!
今や乙女ゲーム業界はすごいのよ?ゲームだけじゃなくて、CDやらDVDやら。
グッズもかなりの量があるし、イベントなんて行っちゃったら一度に万単位のお金が飛ぶの・・・。
あ、ちなみに私この間某ゲーム会社のライブイベントに行ったら、声優さんが曲を歌っている途中で見事に自分のサイリウムを前の席(通路挟んだ)に吹っ飛ばしました(笑)。見かねた隣の方がご自身のペンライトを貸してください事なきを得ましたが・・・。


ホント・・・いつでも生き恥さらしていく人だよ、私って・・・。
まあそれも今となってはいい思い出だけどね。
隣の席の方、あの時はありがとうございました。


さて、こんな(ダメな)私でも素敵な彼氏がいます。
名前は 
超格好良くて、優しくて、私の大好きな人。
たまにちょっと困るくらい甘えん坊な所があるけど、それもまた愛しくて。
もちろん私が腐女子ってことは内緒!
細心の注意を払ってるから、多分バレてないと思う。今どきオタクなんて普通!って思うんだけど、やっぱりちょっと恐い。
今まで強がって、「オタク?なにそれ」って顔してきたから今頃ひっくり返すのもどうかと思って。
いつかは言わなきゃいけないことなんて分かってる。でも、いつもいつも先送りにしちゃう自分がいる。


いつか言える日が来るのかな。
そのとき彼は、ありのままの私を受け入れてくれるかしら・・・。


そんな時に現れた、の友達と称する『A』。名前は・・・忘れた。もう『A』でいいよね。
ヤツはあろうことかを落とそうと私の邪魔をしてきた。しかもただでさえムカツクのに、あろうことか私よりも乙女度が高い!!
会話が
「・:*:・°★,。・:*」で囲まれたことなんて、私でさえ無かったわよ!あぁ、腹立たしい。何故はあんな奴と友達なのか。


通常なら、そんなやつは排除してしまうのが一番!・・・なんだけど・・・。
悔しいけど、私はアイツに強く何かを言うことはできない。

なぜなら、アイツは私が腐女子ということに、早々に気づいたから。
なんでバレたのか?それは私にもわからない。
そもそも私は“A”とほとんど接点が無かったはず。の彼女として紹介されたのも最近だった。
アイツは何故私がに隠していることに気づいたのだろうか。そして何故すぐそれをに言わないのだろうか。


何か企んでいるに違いない。
私はヤツから距離をおくことを誓った!!!

のに。


ちゃ〜ん!お待たせ!!」

・・・そう。
誓ったはずなのに・・・。

「お〜いっ!ちゃん?」
「・・・」
ちゃんってば!」
「・・・・・・」
「返事しないとこのままキスするけどいいかな?」
「なんでしょうか!?」
「えぇ〜。即答〜?」
「当たり前でしょうが!!(怒)」


そう、私は今日、噂の“A”と出かけることになっていた。
しかも二人きりで。

距離を置かなくちゃいけないってことは分かっていたはずなのに。つい、目先の誘惑に抗えなかった。

だって、
今日は乙女の祭典の日なのよ!

広告とか見て、でもなんとなく一人で行きたくなくって諦めていたところに“A”からの誘いがあったんだもの!(詳しくはepisod13を見てね☆)。
正直、“A”が何故このヲトメの祭典に行くなんて言い出したのか分からない。つかほぼ90%の確率で罠だとは思っているのよ。
それに、いくら一人だからって、実際行ってみれば自分と同じような人が沢山いるんだし、気にならないはずなのに・・・。

なのに私は・・・

「お〜い。さっきからどうしたの?」
気づくと“A”が私の顔を覗き込んでいた。
「え?ううん。なんでもない。つーか近い!!」
「ハハッ、残念。あとちょっとでキスできたのに。」
「なっ!?」
「ずっとぼーっとしてるんだもん。まあいいや。じゃあ、行こうか。―――あっと、その前に。」
「?何か?」
何を考えているんだコイツは、とそっぽを向いていると、視界が急に明るくなった。
「ちょっと何!?」
「何はこっちのセリフなんだけど?何?この大きな帽子と大きなサングラスと、大きなマスクは。」
「こっ、これは!」

“A”は私の今日の格好を上から下までじっくりと見て言う。
今日のファッションテーマは、「深層の令嬢」だ。誰にも私だと分からないように、考えて考えまくった結果だ。

「靴がペタンコなのは良いよ?混んでて、ヒールで他の人の足踏んじゃうより危なくないからね。大きなカバンも良いよ。カートだと邪魔だしね。でもこの帽子とサングラスとマスクは怪しすぎ!!」
「いっ、いいじゃない!だって・・・」
「だって何?」
「だって・・・他の人に見られたくないし」

そう言うと、“A”は盛大にため息をついた。

「いい?ここに来る人は皆、自分のことに精いっぱいで、他の人の事なんて見てないんだからね。そりゃあ、すーげぇ可愛い人とか、コスプレしてる人なんかは見られるだろうけど、一般の人なんてそんなに見られないんだよ。だから大丈夫だって。」
「でも・・・」
「わかった。じゃあこれ着けて。」
「?メガネ?」
「そう、俺の。伊達だから、大丈夫でしょ。」
「いやいや、でも」
ちゃんがそんな格好してたら、俺まで怪しい人に思われるじゃん。つーか、ただでさえ女子の中に入るのに、挙動不審の女の子と一緒なんて、目立って仕方ないよ。」
「・・・分かった。」

誘ってきたのは“A”だけど、結局付きあわせているのは私だもんね。そんなに文句も言えないか。
そうして私はしぶしぶ、“A”のメガネをかける。思ったよりも今日の私服に合っていて、ちょっとオシャレに見えるかも。

「うん、可愛い。つか・・・なんかイイ(・・)な。」
「何が?」
「彼シャツならぬ、彼メガネvv」
「は!?“彼”じゃねーし!つか、そんなこと言うなら掛けない!!(怒)」

私は素早くメガネを外すけど・・・

「いいの?変装道具一式、俺が預かってるけど。」
「〜〜〜!!!」
「クスクスッ、ほら、行こう。時間無くなっちゃうよ!」

そう言うと、“A”はスタスタと歩いて行ってしまう。
悔しいけれど、今はこれを借りるしかない。私は借りた伊達メガネを掛け、大きめのカバンを肩にかけ、小走りでヤツの後を追った。















「あ〜っ!疲れた!!」
「本当だよ!」

ひと通り買いものをし、疲れ切った私たちは外に出て、カフェで一息つくことにした。
最初から回るべきところは決めて回っていたが、その途中にも気になるブースを回ってみたり、企業のグッズを購入するための抽選会に参加したり、歩きに歩いて二人とも足がパンパンになっていた。

「いやぁ、ちゃん体力あるねぇ。」
「そんなことないわ。ちょっと慣れてるだけよ。女の子はね、買い物で一日中歩き回るなんていつものことなの。ちょっとやそっとで根を上げたりしないのよ。てゆか、“A”!あなたが疲れてるのは、一人でどこかへフラフラと行ってたからじゃなくて?折角別のブースに並んでもらおうと思ってたのに、頼もうと思ったらいなくなっちゃうんだもん。結局自分で全部回ることになっちゃったじゃない。」
「あ〜〜。・・・ごめんごめん。ちょっと用事があって。」
「え!?行きたい(ヲトメの)ブースあったの??」
「い、いや。そーゆんじゃなくて。」
「それじゃあ、普通に来ている人の中に用事でも?あれ?そーいえばさっき、名刺入れ持ってなかった?」

“A”がいなくなったので探していたら、誰かと親しげに話しながら、名刺入れに名刺らしきものをしまっているのを見つけたのだ。
あれ?そういえば、私に声を掛けられたとき、少し慌てていたような・・・。

「なんか可愛い娘と話してたわよね?鼻の下伸ばしちゃってwwもしかして〜?」
「伸ばしてないから!・・・えっと・・・そう、気に入った絵とかを見かけたら、名刺をもらうようにしてるんだよ。よくブースに『ご自由に』って置いてあるでしょ?後でネット検索したりして、次のイベントとかで出店してたら行ってみたりするんだ。そーゆうの、したことない?」
「あ、それはあるわね。気になった人のサイトを見て、次の時に本を買ってみたりしたことあるわ。昔それで、ある人のイラスト本を購入したことがあって、二年後くらいにその人がキャラクターデザインしたゲームが発売されたことがあったの。ビックリしたと同時に嬉しくもあったわね。私前からこの人知ってました〜みたいな。」
「そうそう、やっぱり大きなブースで販売してる人は上手いけど、普通のブースでやってる人の中にも面白いモノ作る人もいっぱいいるだろ?掘り出し物じゃないけど、そーゆうの見つけるの楽しいよな。」
「そうね、私は人が作ったものを見るのが好きだから、大手に限らず色んなブースを見るの。ビックリするくらい沢山のブースがあるのに、皆絵や話の進め方や商品の作り方も全然違うから、楽しくなるのよね。だから私、コミケにも行くけど、コミティアやデザインフェスタも好き。」
「あぁ、俺も。特にデザフェス面白いよな。最初行ったときビックリしたよ。絵とか小物を売っているだけだと思っていたら、生演奏あるし、枕に入れるヒノキとか井草とかだけを売ってたり、何メートルもある壁に絵を描いている人もいたな。」
「私、亀甲縛りを実演してるブース見た時びっくりしたよ・・・。」
「何それ!?凄いな!!」
「人だかりができてて、なんだろうと思ったら男の人がパンツ一枚で、赤い紐で縛られてた。それもアートかぁって思ったよ。」
「そうだね。色んな表現方法があるよね。でもさ、表現されているものも一つの『アート』かもしれないけど、それを見る人がいて初めて“作品”になるのかもしれないよね。」
「どーゆうこと?」
「たとえばゲーム。ただ、ゲーム会社が作ると言っても、すぐできるわけじゃない。スケジュールを管理する人、話を作る人、絵を描く人、システムを造る人、宣伝する人・・・本当に沢山の人たちが関わって、作り上げるよね。でもそれだとただの“商品”なんだ。」
「うん。」
「でもそれをプレイして、楽しんで、たとえば友達と話して、イベントに参加したり、そこでまた別の人と知り合って、普段とは違うコミュニティができる。そんな人達が沢山集まって一つの集合体になる。ただの“商品”は一つの“作品”になるんだ。そのブースの実演も、やっている本人たちだけだと・・・一種のプレイになるかもだけど、多くの人が見ることによって出演者と観客がいる“絵”になるんじゃないかな。」
「なるほど・・・。そーゆう考え方は好きかも。その出演者と観客を遠くから見ている私も、また作品の一部になるって考えると面白いかもね。・・・ちょっとアンタのこと、見直したかも。」
「おっと、惚れちゃった??」
「さて、バカは放っておいて、そろそろ帰りましょうかね。」
「だから冗談だって!!もう、つれないなぁ。」

ツカツカとレジに向かう私を、今度は“A”が慌てて追ってくる。
ちょっと褒めるとすぐこれだ。大体のことが好きなくせに、最近そのネタが続くのはなんで?
私じゃなくて、をからかえばいいことじゃない。

まさか・・・“A”の言葉に動揺する私を動画で隠し撮りして、に流すつもり?それで、


・:*:・°★,。・:* ・:*:・°★,。・:* ・:*:・°★,。・:* ・:*:・°★,。・:*
A 『アイツ、ちょっと俺が褒めたら、すぐ調子にのってたぜ(笑)』
『えっ?』
A 『あんなんじゃ、簡単に他の男と浮気するんじゃね―の?』
『そっ、そんな!そんなこと・・・!』
A 『―――あんなやつより、俺を選べよ。』
『・・・“A”?』
A 『俺はお前を傷つけたりしない。・・・ずっと・・・ずっとお前を、お前だけを見てたんだ・・・!』
『ちょっと待てよ、“A”。いきなり何言ってんだよ。』
A 『いきなりなんかじゃないさ。俺はもう、この気持ちをごまかすことはできない!』
『おい!』
A 『俺はお前がす―――
・:*:・°★,。・:* ・:*:・°★,。・:* ・:*:・°★,。・:* ・:*:・°★,。・:*



「もしもーし、そこの脳内がピンク色の人〜?さっきから涎が出てるよ〜?」

「はっ!」

慌てて口から出ている愛の液をハンカチで拭く。

「ちょっとさぁ、妄想するのは良いし、からかったのも謝るけど、現実の俺の話も聞いてくんない?」
「あぁ、はいはい。何?」
「うわぁ、扱い雑だなぁ。」
「すまねぇな(棒読み)」
「うっわぁ、腹立つ。」
「はいはい。それで?」
「ふぅ・・・まあいいか。さっきからね、空の雲行きが怪しいんだ。だから、少し早歩きで駅まで行かない?」

外を見ると、なるほど、空が今にも降り出しそうな色をしている。

「そうね。ちょっと降りそうだわ。本が濡れるのも嫌だし、早めに帰りましょう。」
私たちは急いで会計を済ませ、店を出る。すると


ピカッ、ゴロゴロゴロ・・・


「うわぁ、雷だ。この季節にしちゃ珍しいな。これは時間の問題かも。急ぐよ、ちゃん!」
「・・・」
「・・・?ちゃん?どうしたの?」
「ごめ・・・私・・・。」
「え?もしかして・・・?」
「うん、ダメなの・・・雷・・・。」
「えぇ!?」

そう、私は雷が大の苦手なのだ。
今日雨が降ることは知っていたけど、雷が鳴るなんて大誤算だわ。

「なんてゆうか、光った後、物凄い勢いで音が鳴る時あるでしょ。それがお腹に響く感じがとっても嫌なの。高い建物も電柱もある場所だから、自分に落ちるわけないって分かってても、たまにニュースとかで大怪我した人とかのことを聞くと・・・。」
「そうか。」
「ごめん、先に行ってて?少ししたら覚悟決めて行くから。」
「そんなことしてたら雨が振り出しちゃうよ。今日買ったもの、濡れちゃうかもよ?」
「服の下に隠すから大丈夫。」
「雨に当たったら風邪ひいちゃったり。寝込む羽目になったら、本読めないよね。」
「ベッドの中で読むから平気だもん。」
「『もん』って。・・・う〜ん、仕方ないな。じゃあ、はい。」
「?」

何故か“A”は私の方に手を差し出してきた。

「手、つなごう。」
「は?何で?」
「手、繋いだら怖くないだろ?」
「そんなわけないでしょ。仮にそうだとしても、あなたと手なんか繋ぐわけないわよ!」
「なんで?」
「なんでもよ!私にはっていう、パーフェクトな彼氏がいるのよ!良いから、先に帰って!」
「だからね、そのパーフェクトな彼氏の友達の俺は、その彼女を一人で置いていくことなんてできるわけないでしょ。ほら、荷物こっちに渡して。」
「良いって!」
!いい加減にしろよ!」
「えっ!?」
「ほら!」

そういうと、“A”はビックリした私の重い(本と私の思いが入っているため)鞄を強引に奪い、私の手を取って足早に歩き出した。
グイグイと手を引っ張られるため、私は慌てて小走りをする。

「ちょ、ちょっと!離して!」
「ねえ、。雷に当たらないおまじない、知ってる?」
「何、急に?」
「いいから。」
「・・・いいえ、知らないけど。」
「『くわばら、くわばら』って言ってみて。」
「『くわばら、くわばら』?」
「うん、それを三回繰り返すんだって。この間、電車に乗ってる時に広告で見たんだ。よく、問題とか出されてるでしょ。」
「ええ、よく液晶に豆知識として、簡単なQ&Aの形で流れているわね。」
「そうそう。俺が見たのは天気予報アプリのCM。

昔、菅原道真が流罪になった後、度々落雷があったんだって。でも菅原家所領の、京都にある“桑原”には落ちなかったから、この言い伝えができたらしいよ。、そうゆう話好きでしょ。」
「・・・悪い?」
「悪いなんて言ってないでしょ。むしろ、良い事なんじゃない?」
「はい?」


今日はなんだか“A”に翻弄され続けている気がする。

「こんな偏った好み、普通の人は敬遠しちゃうでしょ。みんな、こんなこと興味ないし、普通聞いたらドン引くわよ!」
「そう?好きなことは好きっていっちゃった方が楽じゃない?なんでもかんでもひた隠しにして、それで周りとコミュニケーション取ろうとする方が難しいよ。
何も興味がない人なんて全然魅力的じゃないしね。一緒に居てもつまらない。それなら、偏った好みでも、それに特化した知識を持ってる方が楽しくない?もしかしたら、自分の事をちゃんと理解してくれる人が、案外近くにいることに気づくかもしれないよ。」

そう言うと、何故か繋いでいる“A”の手の力が、少し強まった。

「・・・“A”?」
「・・・なーんてね!ほら、急いで急いで!今、ポツッときたよ!」

少し振り返り、ニコリと笑うと、“A”はまた前を見直して速度を速める。

「え、ええ!」

といっても、私はついていくのに必死になっている。それなのに

「ほら、おまじないは?」

と、ドSなことを言ってくる。

「『くわばら・・くわ・・・・ば・・・ら』」
「もういっちょ!」
「『くわ・・・・ばら、く・・・ハァ、ハァ、ちょっと、待って!早い!」
「はい、頑張って!」
「まっ・・・ハァ、ハァ」
「女の子は体力あるんでしょ!?」
「それとこれとは・・・」
「はいっ!ワンツ〜、ワンツ〜♪」
「アタック〜♪・・・って何言わすの!?」
「ハハハハハ!、古い!」
「っ、うるさい!!」
「アッハハハハハ!!」



私たちは全力疾走で走りぬき、気づくと駅に着いていた。
その途端、土砂降りの雨が降り出す。
二人同時に
「「ギリギリ、セーフ!」」
と言ったので、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。











帰る方向が違うため、ホームで別れる。
“A”の電車の方が先に着いたため、私が見送るかたちになった。

「そういえば、雷、大丈夫だった?」
「え・・・あれ?そういえば。」
「気にならなかった?おまじないが効いたかな。平気ならよかった。じゃあ、電車来たから、またね。」
「あ、うん。今日はありがとう。」
「いえいえ。結局あんまり一緒に回れなかったしね。次はちゃんと荷物持ちの役割果たすからね。」
「いや、次はもうないから!」
「またまた〜。楽しみにしてるね!バイバイ!」


プシュ〜


電車のドアが閉まり、ニコニコと笑っている“A”の顔がゆっくりと遠ざかっていく。


ったく、次なんてあるわけないでしょ。
今度こそ一人で行くし、いけなかったら通販で頼むわよ。


――まあ、今日だけは、正直ちょっと助かったかも。


あんなに雷が鳴るなんて思わなかったし。天気予報を見てこなかったのは失敗だったにしても、ここ最近の天気から見て予想なんてできなかった。なんで今日に限って・・・。







でも

でも、ヤツが言ったように、そういえば怖かったのは始めだけで、あとはずっと二人の言い合いに夢中になっていた気がする。
私、本当に雷は嫌いな筈なのに。
といるときだって、いつも怖くて固まってしまうのに。


あれは、本当に言われた通り、おまじないをしたせい・・・?


それとも―――



「いやいや、余計なことは考えない。」
そうそう、ヤツは天敵なのよ!考えるだけ無駄なの!
さ〜ってと、早く帰って『とき☆まほ』やんなきゃ!まだ時間はあるわ!ファイト!


そうして、私は意気揚々と岐路に着く。


そう、いつか、その日が来るまで―――


―――気づかない振りをしていなくちゃ―――






「ただいま〜」





家に着いてすぐ、私はいつも通りゲームを立ち上げる。
幸い、地元の駅でビニール傘を買うことができたため、私は濡れずに帰ってくることができた。
それでもペタンコ靴だったためか、足下が濡れて、少し寒かったためココアを用意して椅子に座る。

「さて、と。」


どうしようか。
前回の『とき☆まほ』は一つの話が一度終わったんだった。
薫ちゃんの、トゥルーエンドとは言えないけど、最後には年下彼氏としての本領を発揮した激萌えスチル付きのエンドでもうお姉さんは興奮して思わずツイートしたり、妄想シーン考えたり、「薫×主人公」のSSをインターネットで探したりと大急ぎになる大波乱が・・・・・・


はい、自重します。

それで、一度終わって野中ティーチャーのお色気ミックスの解説読んでちょっとすっきりしたんだけど・・・。










どうしようかなぁ。
すぐに初めからやり直すのも良いけど、ちょっと選択肢で見たかったところあるんだよねぇ。
う〜ん。。。
ちょっとやってみるかぁ。
もしかしたら、良いモノ見れるかもしれないね。

「よしっ」



チャララ〜





―――ロード。



『セーブ5をロードしますか?』



―――もちろんよ!






私は咄嗟に……



1、回復魔法を自分たちに向けて放つ



2、攻撃魔法を氷の壁に向けて放つ



―――そうそう。この間セーブした、静と薫ちゃんの対決シーン。私はこの後、薫ちゃん達に付いていくルートを選択肢しちゃったけど、静&オーナールートで行ったらどうなるかがずっと気になってたんだよね。最初からやり直しても、同じものが見れるかわからないし、とりあえず見ておこうってずっと考えてたんだ。え〜っと、スキップして。


「あ……」


1、楓先生たちと行く
2、オーナーたちと残る


―――2をせんたーく!


「先生、薫ちゃんを連れていったん引いてください!」
「お、おい!?」
「薫ちゃん、さっき吐血したんです!だから先生が付いていてあげてください。静もさっきおかしかったし、こっちは私が診ますから。」
「ったく、わかったよ!それじゃあ、頼んだぞ。―――輝け――――月光輪舞曲<ルナティック・ロンド>!」
「っ……!?」


路地に大勢の人たちが傾れ込んできた瞬間、目の前に光の洪水。
眩しくて、何も見えない。
私はぎゅっと目をつむって、気を失っている静にしがみついていることしかできなかった。



*



あの場所に残ったオーナー・静・私が店に戻ったのは、楓先生たちがいなくなってから30分程後だった。
路地裏ということが幸いして、静と薫ちゃんの顔を通りすがりの人たちに見られなかったようだ。
私たちは、自分たちも通りすがりだということ、当人たちは先ほどの不思議な光の後、忽然と消えてしまった。
自分たちは無関係であるという嘘を必死に警察の前で取り繕わなければならなかった。
もっとも、静は『光に当てられて』気を失っていたため、説明をするのはオーナーと私だけだったのだけれど。


、アンタ着替えなさい。」
「え?」
「え、じゃないの。車で送っていくから、自分の服に着替えなさいって言っているの。」
「でも、オーナー。お店は?」
「はぁ・・・あのねぇ、こんな状況で店開けれるわけないでしょ。静もまだ気を失ってるんだし。それに、近くで事件があったのよ。今日はお客様なんていらっしゃらないわよ。・・・トメ吉!」
「ハイ、オーナー。」
「私、今から着替えるから、表に車回して来て。静とこの小娘を家まで送るのよ。」
「Yes,sir.」
「やだ、トメ吉。こーゆう時は『かしこまりました、お嬢様』でしょ?」
「・・・『カシコマリマシタ、オジョウサマ』」
「オーナー、自分のSPにドン引きされてますけど大丈夫ですか?」
ちゃん?(ニコリ)」
「着替えてきま〜すv」


ダダダダダダッ

パタン


自分の服が置いてある更衣室に、慌てて入る。
はぁ、こーゆう時の逃げ足だけは自信あるのよね、私。こんな時にしか発揮できないのがまた悲しいけど。
ため息を一つつき、私はロッカーに手をかける。


カチャリ


着替えをするため、自分の制服に取り・・・手を止める。

「薫ちゃん達、うまく逃げられたかな・・・」

結局、私は薫ちゃんから離れ、静のところに留まった。
あんなに血を吐いた、そして自分を見失っていた薫ちゃんを放っておくのは心苦しかったけど、倒れている静の顔色を見たら、そうも言っていられなくなった。
その顔は血の気がなく、今にも消えそうなくらい青くなっていた。
私は力を使いすぎたからだと思い、楓先生の魔法が消えた直後から必死に回復の魔法をした。
そのためか、少しだけ血の気が戻りつつあったけれど、まだ彼は眠ったままだ。

「私は正しかったのかな・・・」

ただただ必死で、私は二人の間に入った。
あの戦闘を止めるために、私は静が作った氷の壁を壊した。

でも・・・
なんでだろう。


氷の壁を壊す際、静と目があった時の彼は



笑っていたように見えた。







あまりオーナーを待たせるのも、またややこしいことになると思った私は、急いで身支度を整え店の表に出た。
空を見ると、少し曇ってきているようだ。
これは、もしかしたら、もうすぐ雨が降り始めるかもしれない。

「あれ?トメ吉さん、オーナーはまだですか?」
既に待っていると思われたオーナーの姿はなく、車のドアの前で待ち構えているトメ吉さんだけが目に入った。

「ハイ、買イ物ニデカケテオリマス。車ノ中デオマチクダサイ。」
「いえ、それなら一緒に待ってますよ。ありがとうございます。」
「イエイエ、オーナーカラソノヨウニ仰セツカッテオリマスノデ。」
「いえいえいえ、若輩者の私がそんなことするわけには。」
「イエイエイエイエ、女性ハ体ヲ冷ヤシテハイケナイノデス。」
「いえいえいえ・・・」
「いーから早く乗れや(怒)」


バシッ!!


「いたっ!」
トメ吉さんと話していたら、いきなり背後から頭を叩かれた。
この声は


「い・・・ったい!オーナー、いきなり叩かないでください・・・よ・・・?」

平手で文句を言おうと、私は背後を振り返った。
けれど、そこにオーナーの姿はなく、代わりになぜか金髪のイケメンが立っていた。

「あ・・・の・・・どちら様ですか?」

短くてサラサラの髪、鼻筋の通った綺麗な小さい顔、しっかりとしてシワひとつないスーツ、
高そうな靴に、大手百貨店の紙袋を下げたスタイルのいいイケメンが、なぜか私の前に立っている。


何故?

いったいこの人は誰?
てゆうかさっき私の頭を叩いたのは、まさかこの人?・・・・なわけないか。私こんな人知らないもんね。
じゃあ何?まさか私に一目ぼれしたしちゃった系?なーんて・・・

「またくだらない妄想してるわね。アタシよ。」
「え!?まさか・・・オーナー!?」


―――オッ・・・オォォナァァキタ―――!!!!!ついに!!来た!!私はこれを待ちわびていた!!!メッチャ!メッチャかっこいいじゃない!!

   何このサラサラな金髪!ビシッてしたスーツ!!やばい超萌えるんですけど!!やっぱり美人さんって何着ても似合うんだよね〜vv



うそでしょ!?こんな格好いい人がオーナーなんて!

「アンタ、すぐ気が付きなさいよ。あんだけアタシと喋っておいて、なんで顔を忘れられるのよ。」
「だっ、だって!オーナーいつもと全然違うんですもん。化粧もしてないし。ってゆうか髪は!?髪の毛はどうしたんですか?」
「やぁね、あんなのウィッグに決まってるじゃない。いつもあんな髪の毛してらんないわよ。それに、服装によって髪の色変えたいしね。」
「あ、そういえば、たまに紫の髪してましたね。『おばーちゃんかっ!』てツッコみそうになった時ありましたけど。」
「なんだって・・・?」
「いえ!オ、オシャレだなぁ〜って。」
「ふぅ、まあいいわ。早く車に乗りなさい。家まで送ってあげる。でも先に静の家に行くから、アンタちょっと付き合いなさいな。」
「あ、はい!」
私は慌ててオーナーの車に乗り込む。後部座席に入ると、静はすでに乗っていた。
けれどまだ、眠ったまま起きない。
顔色は良いみたいだけど、まだ目を覚まさないようだった。
「静・・・。」
「大丈夫だ。さっきトメ吉に診させたが、特に問題はないそうだ。今は疲れて眠っている。若いから、回復するのも早いだろう。」
「そう・・・ですか。」
「まあ、心の方は、分からないけどな。ほら、出るぞ。シートベルトしとけ。」
「はい・・・」
ゆっくりと車が動き始め、外の景色が流れていく。


『心の方は分からないけど』


たしかにそう、体は若いから大丈夫・・・なのかもしれない。今の私もそうだけど、一日寝たらどんなに疲れていても、次の日は朝から動ける。
ちょっと眠いくらいで終わるはずよね。
でも、じゃあ心の疲れってどうしたら癒せるの?

眠ったら回復するの・・・?
明日の朝には、また笑顔で「おはよう」って言ってくれるの?

私の中に、黒い煙のような不安が、幾重にも重なって問いかけてくる。


『フン……アンタ見てると、イライラするんだよ。アイツにそっくりだ。力持て余してるくせに、それを悟らせないように振舞う。限界なんて感じたことないくせに、いつもそれ以上力を出さない』


静はあの時、どんな気持ちで薫ちゃんと向き合っていたんだろう。
私はこの学園に来て、まだ全然日が浅い。けど、それでもクラスメイトとして、バイト仲間として、静のことをそれなりに見てきたと思っている。
静はいつも優しくて、よく気が付いて、余裕があって・・・。
どんなときでも私たちに笑いかけてくれる。だから安心して、困ったときは彼に頼ることができた。
でもそんな彼が、薫ちゃんが言ったあの言葉に反応した。
あんなに追い詰められている静は見たことが無かった。


「静、あなたはいったい、何を抱えているの・・・?」


私は、オーナー達から聞こえないくらい小さな声で、そっとつぶやいた。







「チッ、降ってきやがったな。」

しばらく走ったところで、ふとオーナーがつぶやいた。
窓を見ると、スッ、スッと、少しずつ雨の筋が入っていく。

「本当ですね。今日降るって言ってましたっけ。」
毎朝テレビで天気予報はチェックしているけど、確か今日は降るなんて言ってなかった気がするんだけどな。車で送ってもらってよかった。
「いや、朝は言ってなかったと思うが。トメ吉、傘はあるか?」
「トランクニ常備シテマス。降リルトキニオ出シシマス。」
「頼むよ。ったく、ただでさえ気が滅入るっていうのに、これじゃあテンション下がるな。」
「オーナー、雨嫌いですか?」
「別に嫌いじゃないが。まあ、必要なものだしな。でも出かけるときに降られると面倒だろ。『好き』ではないかもな。お前は?」
「私?私は好きですよ。」
「なんで?女の方が嫌いそうな感じがするけどな。『湿気で髪がまとまんない〜』とかって良く言うだろ。」
「それオーナーもじゃないですか?」
「俺はそーゆう時はウィッグ取ればいい話だしな。」
「うわ、ずるい。まあ、私も髪がまとまんないのは嫌ですけどね。朝から髪の毛セットするのに時間かかったり、濡れて体が冷えたりするのは嫌ですよ。」
「それでも好きなのか?」
「はい。オーナー、雨が地面に落ちるところって、ちゃんと見たことありますか?」
「は?」

オーナーはいぶかしげに、私の方を見る。
「いきなりなんだ?」
「だから、雨の雫がこう・・・落ちて、跳ねて消えるところですよ。」
私は指を使って、ジェスチャーをしながら説明する。
「いや、そんなじっくりとは見たことないな。大体どんなふうになるのかはわかるが。」
「あれって、流れ星みたいに見えませんか?」
「流れ星?」
「そう、流れ星です。空から降ってきた雫が地面に跳ねて、消える。そーゆうところがそっくりだって思って。私、属性からか、小さい頃から星を見るのが大好きで、夜一人で外に出て長い時間夜空を見上げていることが多かったんですよ。でも雨の日には見えないでしょ?特に梅雨の時期なんてそんな日が続くことが多くって。だから昔は雨なんか大嫌いって言ってました。でも・・・」

すっと外に目を向けて続ける

「でも、ある時気づいたんです。足下に、こんな近いところに流れ星があるって。いくら夜空を見上げても、こんなに沢山見えることなんてそうそうない。 これじゃあ願い事し放題じゃない!!って。」
「フッ、なんだそりゃ」
「クスクスッ、ですよね。でもあの時は本当にいいことを思いついたものだって、自分を誇りに思ってました。自分はこんなに雨の日を楽しむことができるんだって。」
「確かに、それはいい考えかもしれないな。」
「でしょ?」
「お前にしちゃ、上出来だ。」
「褒められました。」
「参考にするよ。」
「えへへ。ちょっと恥ずかしいですけどね。」

思わず照れてしまう。こんな話、誰にもしたことなかったんだけどな。
普通はバカにされるのが落ちなのにね。まあ、オーナーになら良いか。


キュッ


「きゃ!?」

雨だからか、ブレーキが掛かった際に少し車体が揺れた。

「大丈夫か?」
「あ、はい・・・大丈夫です。」
「どうした?」
「い、いえ。」
「ああ・・・。」

揺れた拍子に、静が私の肩に寄り掛かる形になってしまった。

「ちょっと、貸しといてやれよ。」
「はい。」

重いとかじゃないから平気だけど、ちょっと恥ずかしいな。
この位置なら、もし静が起きても私の顔は見れないだろう。それに少しホッとする。
今の私にできることはこんなことしかないから。
少しでも力になれるなら、どんなことでもするわ。


「なんて顔してるんだよ。」
「え?」
「お前がそんなに追い詰められた顔することないだろ。」
「私、そんな顔してましたか?」
「この世の終わりみたいな顔してるぜ。」

意識してないうちに、私そんな顔してたのか。

「―――お前は笑ってろよ。」
「オーナー?」
「静が目を覚ました時、お前がそんな顔してたらコイツが気に病むだろ。だからお前は笑ってろ。いつもの調子に戻るまで、お前が笑って安心させてやれ。」

ひょっとして、励ましてくれてる?
まさかとは思ったけど、さっきからどうやっても表情を見ることができない。
恥ずかしがっているの?

・・・なんてゆうか、可愛い。


「フフッ、私が笑ってればいいんですか?」
「ああ、その能天気な顔見せてろよ」
「ちょっ!?ヒド!!」
「はははっ!」

前言撤回。
もう、やっぱりバカにされるのね。別に良いけど。・・・あれ?そういえば

「ところでオーナー?」
「なんだ?」
「何でさっきから『男言葉』なんですか?」
「あ?ああ、これから静の家に挨拶に行くのに、いつもの言葉づかいじゃまずいだろ。今のうちから直しておかないとボロが出そうだからな。」
「練習、ですか?」
「そうだよ。・・・何がおかしい?」

こらえきれず笑ってしまった私を見たオーナーの目が、キラリと光る。

「!いっ、いえ、ちょっと・・・・・・・・可愛いなと。」
「・・・は?可愛い?」
「すみません!でもなんか、オーナーっていつも完璧なイメージがあって。こうやって先に練習して慣らしておくとかって意外で。本当、ごめんなさい!」
「・・・まあ別にいいけど。俺だって人間なんだからな。先に準備くらいするさ。」
「えっ!?」
「なんだ?」
「オーナー・・・」
「どうした?」

思わずゴクリと喉を鳴らす。


「人間だったんですか?」


バシッ!!!



「もうすぐ着くわよ」
「あぃ・・・」

前の席から突然チョップが飛んできた。普通の人なら届かない距離だろうに・・・流石、オカマ。

「なんか言ったかしら?」
「ナンデモアリマセンヨ」

もう何も思うまい。
オーナーのおかげで、深く沈まなくて済んだ。
静に対して、少し肩を貸すことしかできないちっぽけな存在でしかない私。


でも

それでもいつかきっと

背中を預けてもらえるようになるから。

その時まで絶対に

絶対に


一人になんかならないで













「着キマシタ。傘ヲドウゾ。」

ガチャリと音がして、車のドアが開く。

「ありがとうございます、トメ吉さん」
「ドウイタシマシテ」
「ここが、静の家・・・。」

傘を受け取って車を降りると、そこにはうちの家の何倍あるのか見当もつかない立派なお屋敷が建っていた。
さすが静、育ちが良いんだろうなとは思っていたけど、まさか本物のお坊ちゃんだったとは・・・。

、なにしてる。早く来い。」
「あ、はい・・・!?えっ、ちょっオーナー!?」
「なんだ?」
「せ、静が!」

あまりの社会格差に呆然としていた私が、慌ててオーナーの方に向かおうすると、異様な光景が目に入ってきた。

なんと静がトメ吉さんに
お姫様だっこされている!!

「ちょっ、なんでそんな美味し・・・じゃなかった、おかしなことになってるんですか!?」
「フフフ・・・良いでしょ?」


ニヤリと笑うオーナーの目が光る。
ガチムチ系のトメ吉さんにお姫様だっこされているからか、静がとても華奢な女の子に見えるというマジックが起きている。とりあえず・・・


1. 写真を撮る
2. せめて担ぐ形に変えてもらう
3. 私もお姫様だっこしてほしいと申し出る


―――これ、どうしよう。どれもやりたいんだけど。静のお姫様だっこ姿なんて絶対可愛いし、思い出に残しておいた方がいいよね。
   でも俵のように担いでもらうのも・・・凛々しくてまた萌えるわ。トメ吉さんにお姫様だっこだってしてもらいたいし。
   う〜ん、でも静寝てるからな。担がれると力が入らないから、だらんとしちゃうし、これから本人の家に行くのに失礼だよね。
   お姫様だっこは、今やってもらうわけにも行かないし。よしっ




『パショッ』

私は今日の思い出に、この静の姿を写真に収めておくことにした。


・・・アンタ・・・おそろしい子!!」
「いや、不謹慎だってことは十分に分かってますよ、私だって。」
いくらなんでも倒れている状態なのに、写真を撮るだなんて普通だったら怒られて当たり前の行為だもの。

「でも、静の目が覚めて元気に学校に来れるようになったら、これ本人に見せて笑ってあげるんです。あんな無茶するからよって!」
・・・」

「まぁ、ちょっと自分の中でもこれは残しておきたいなって気持ちがあるのは嘘じゃないですけど。」
「アンタ、その一言余計よ。」
「へへっ、ほらオーナー!オネェ語に戻ってますよ!」
「おお、危ない危ない。行くぞ」
「はい!」

うう、緊張するけど、この写真をお守り代わりにして落ち着いて行こう!



―――おい



「こちらへどうぞ。」
「失礼します。」


私たちはいかにも高そうな置物が置いてある応接室に通された。

「おっ、オオオオオオオーナー、メッチャ緊張してきたんですけど!!」
「落ち着け、何も取って食われはしないさ。つーかなんでお前が緊張するんだ。」
「だって〜(汗)」

出されたティーカップを割らないかヒヤヒヤしながら、紅茶を一口飲む。流石、普段私が飲んでるティーバッグのそれとはわけが違うわ。
普段飲まない高級茶葉に感動をしているとき、ガチャっと音がしてドアから一人の男性が入ってきた。

「お待たせしました。息子が世話になったようで。」

うわぁ、貫録のある人だなぁ。いかにも大きな会社のお偉いさんって感じ。
自宅だからか、スーツよりはくつろいだ格好だけど、着ている服は高そうでシワひとつないものだった。心なしか、冷たい目をしているように感じてしまう。

「初めまして、東宮と申します。」
そういうと、オーナーはスッと名刺を静のお父さんに差し出した。
「あの、東宮グループの・・・?」
「はい、取締役 常務執行役員をさせていただいております。」

うそっ!東宮グループといえば、世界的にも超有名企業じゃない!俗にいう、「ゆりかごから墓場まで」ってゆう、本当に多岐に渡って事業展開している大会社だ。
そんなとこの常務執行役員だなんて!しかも苗字が東宮ってことは・・・。そうだよね、普通こんな年で成れるわけないし、そもそもこんな女装変態ブチ切れ男が何故!!

「!!」

急に寒気がしたので、思考を停止することにする。

―――キャーキャー!!オーナー外さな〜いvvやっぱり謎に満ちた大人の男ね。大手企業の役員なんて、いい年行ってもそうそうなれるものじゃないのに、それをこの若さで常務執行役員て!!なにこれ?財閥の御曹司的な!?  ぜったいなんか裏にアレコレがあるんだよ・・・!やばい、オーナールート超気になるvv

「静君には、弊社の事業の一環である飲食店で、放課後アルバイトをしてもらってます。この子はその同僚でクラスメイトの、さんです。」
「初めまして、と申します。静君にはいつもお世話になってます。」
うぅ、静のお父さんが凝視してくる。ちょっと怖い(汗)。

「本日はその仕事帰りに、事故に巻き込まれまして・・・。私の不注意で、誠に申し訳がありません。こちら、つまらないものですが・・・」

有名老舗和菓子店の箱が出される。そうか、さっきオーナーはこれを買いに行ってたのね。
こーゆうのを見ると、やっぱり大人なんだなぁって実感しちゃう。私ならこうは気が利かないもの。

「ご丁寧に。・・・しかし、アレがアルバイトをしているとは、恥ずかしながら初耳でした。」
「お父上には話されてなかったのですね。」
「ええ、週に何度か遅くなるようだということは使用人から聞いてましたが。家のことは家内に任せてありますので。」
「そうですか・・・。静君は一年ほど前から勤務しています。主に接客対応、いわゆるホール係ですね。会計業務や清掃等、一般の雑用もしてもらっていますが。未成年なのであまり遅い時間は入れないようにはしております。勤務態度は常にまじめで、遅刻はなし。無断欠勤もありません。」
「アレに接客が務まるとは思えませんが。」
「そんなことはありません。お客様への応対も丁寧で、彼目当てで来店される方もいらっしゃいますよ。本当に良く働いてくれるんで、うちは助かっています。ですから、今回のことは本当に何と言っていいか・・・」
「顔を上げてください。これは本人の不注意ですので、どうかお気になさらず。どうやら眠っているだけのようですし、大きな外傷もありません。かえってご迷惑をお掛けして。」
「とんでもないことです。」
「まったく、やっと役に立つようになったかと思えば、これか。やはり“あの子”だったらよかったのに・・・。」
「え?今のは――」

どうゆうこと?今、静のお父さんはなんて言ったの?オーナーがもう一度聞こうとしたその時

バタンッ

「お兄ちゃん!?」


女の子がすごい勢いで私たちがいる部屋に入ってきた。
何この娘!すっごく可愛いんですけど!

「こら、英里菜。お客さんに失礼じゃないか。」
「ごめんなさいっ!パパ。」
あれ?静のお父さんの目が、穏やかになった気が―――

「娘の英里菜です。初めまして。」
ハキハキと、女の子は答える。静の妹さんなんだ。少しだけ気が強そうな、でも明るくて好感を持たれそうな女の子だ。

「こんばんは、静君のアルバイト先上司の、東宮です。ほら、君も」
「あ、はい。こんばんは。初めまして、です。静君のクラスメイトでアルバイトの同僚をさせていただいてます。」
「お兄ちゃんの・・・?」

急に、妹さんが私を睨むように見るようになる。
えっ、私、何かした?


「あの、兄はアルバイトの帰りに事故にあったって聞きましたけど。さんも一緒だったんですか?」
「え?ええ」
「まさか、あなたを庇ったりしたんですか?」
「え?」
「英里菜。これは事故だったんだ。そうですよね、東宮さん。」
「はい、さんも危険な目に合わせてしまいました。」
「そう―――そうですか。」

彼女はフィッと私から視線を外し、尋ねる。

「それで、お兄ちゃんはどこに?」
「自室に運ばせた。眠っているだけだから心配はない。」
「見てくる。失礼します。」

硬い表情のまま、彼女は早歩きで部屋を出ていった。

「礼儀がなっていなくて申し訳ない。」
「いえ、お気になさらず。お兄さんが倒れたと聞かれて、動転されているのでしょう。」
「はぁ、あの子は少々、静に懐きすぎてまして。嫉妬を覚えるくらいですよ。」

そう言って見せる、静のお父さんの顔は本当に我が子に愛情が注ぐ父親の顔だった。
この差はいったい―――

「そうだ、東宮さん。医療方面に事業を展開されているなら、ぜひ―――」






「オツカレサマデシタ」

静のお父さんの営業トークが終わり、私たちは高城家をお暇し、私の家に向かって車で走り出した。

「あぁ、疲れた。マジであの最後の話キツイ!長い!!」
「・・・お疲れ様でした。オーナー・・・。でも・・・」
「あ?」
「なんで私、膝枕させられてるんですかね?」

静がいるときは前の席に座っていたのに、帰りは何故か後ろの席から乗ってきて。端っこに私を座らせたかと思うといきなり私の膝に頭を乗せてきた。

「いーじゃねーか、減るもんじゃなし。ちょっとくらい俺を癒せよ。」
「癒せって言ったって・・・。」
「あのオヤジ、御咎めなしにしてくれたのは良いが、なんだその後の営業トークは!静のことについて話に来てんのに、仕事の話なんかしやがって!おい、聞ーてんのか、!」
「はいはい。」
「おまけに『“あの子”だったらよかった』ってどーゆう意味だ!」
「えぇ・・・」

たしかに、あの一言は気になった。
なんか、本当は別の人がいたような言い方だったような。
静の過去に、いったい何があったのか。

「おい!」
「キャッ!?」

急に顔を引っ張られ、気が付くとオーナーの顔が目の前にある!

「ちょっ、オーナー!」
「今は俺と話してんだろうが。他の男のことなんて考えてんじゃねぇよ!」
「だって今、静の話をしてたんでしょう!」
「違う!今は俺頑張ったって話をしてんだ!」
「嘘ォッ!?」

折角オーナーの事見直したのに!

「台無し!台無しですよ!オーナー!」
「頑張ったのは事実だろうが!」
「そうですけどぉ・・・」
「ほら、頑張った俺にご褒美!」
「だって、トメ吉さんがいるし。」
「へぇ、誰もいなかったらいいの?」
「そうじゃないですけど!」
「てゆうか、他の人がいるとできないご褒美ってどんなのかなぁ?」

ニヤニヤと笑う顔がムカツク

「もう!オーナーのバカ!」

ベシッ!

「いてっ!?おい!」
「はいはい。」
「!?・・・なにこれ。・・・これだけ?」
「不満ですか?」

私はオーナーの頭を、ゆっくりと撫でる。

「いや・・・いいけど・・・。」
「オーナーの髪の毛、サラサラで気持ちいいですね。」
「当たり前だろ、俺を誰だと思ってるんだ。」
「悔しいけど、美容に関しては勝てないわ。」
「いいわよぉ。手取り足取り教えてア・ゲ・ルv」
「遠慮しておきます」
「つまんない子ね」
「フフッ・・・・今日、頑張りましたね。」
「ああ。」
「格好良かったですよ。もちろん、静の家の時だけじゃなくて。」
「うん」
「本当、頼りがいがありますね」
「そうだろそうだろ。」
「あれ?お顔が赤いですけど?」
「うるさい。続けろ」
「はいはい・・・」

からかわれた仕返しに、ちょっとだけ意地悪をしてみる。
案の定少しふてくされてしまったけど、ご褒美に文句がないならいいよね。

―――おいおい、普通のカップルじゃねぇか



サン、着キマシタ。」

オーナーの頭が気持ちよくて、ついつい撫で続けていたら、気づくともう私の家の前で車が止まっていた。
いつの間にか雨は上がって、雲が切れてきている。
「はい、ありがとうございました!じゃあオーナー、私はこれで・・・あ。」
見るとオーナーがぐっすりと眠ってしまっている。
「寝カセテオイテクダサイ。今日ハ疲レタンデショウ。」
「そうですね。また、バイトの時にお礼させていただきます。」
「ソウシテクダサイ。私ガ運ンデオキマスノデ。」
「それはお姫様だっこで?」
「モチロンデス」
「見たいわぁ」


普段の女装姿のオーナーなら綺麗だろうけど、今日はパリッとしたスーツ姿。異様になるに違いない(笑)
ぜひとも見たいけど、今日のところはかなわない。また今度見せてもらうことにしよう。
クスクスと笑いながら、私はそっとオーナーの頭を持ち上げ、体をずらす。
近くで見ると、本当にきれいな顔をしている。これで大会社の役員じゃ、女の人にモテて仕方ないだろうに。
ん?なんか胸のあたりがモヤッとするような・・・。
変なモノでも食べたっけ?


「オーナー。私は失礼しますね。今日はありがとうございました。」
「・・・ん〜。〜」

オーナーは目をつむったまま、手をひらひらしている。

「はい?」
「もう少し太った方が・・・太もも気持ちい・・・」
「うわ、もう本当、台無し。」

私はげんなりしてオーナーの頭を高いところから落とした。

「おやすみなさい。」

眠っているというより気を失っているオーナーを乗せて、トメ吉さんが運転する車が去っていく。

「・・・・・・」

今日は色んなことがありすぎて、心も体も疲れ切っている。

私にはこれから向き合っていかないといけないことが沢山ある。

それでも、この雲の切れ間から見える月のように、なにか打開策が見つかるかもしれない。

上手くいかなくても、もがいてもがいて、もがき続ければ。



「そうだ!なんとかなるさっ!」

何の根拠もないけれど

「うん、なんだかうまくいく気がしてきた!ただいま〜」


そう
続きはまた
明日




「ふぅ、今日のところは終了。」
私はゲームをセーブし、終了ボタンを押す。
結局続きが気になってこんな時間までゲームをしてしまった。

「早く寝ないと美容に悪い。」

私はゲームを片付けようと立ち上がる。
カシャンッ
「ん?」
音のした方を見ると
「やだ、いけない。忘れてた」
昼間“A”に借りた伊達メガネだった。どうやらそのまま借りっぱなしになっていたみたいだ。
「まあ仕方ない。とりあえずカバンの中に入れて、次会った時に渡せばいいよね。」
私は通学用のカバンに、メガネを入れる。割らないように、私の使っていないメガネケースに入れて。
「さて、お風呂お風呂〜♪」




パタンッ


―――誰もいない部屋に静寂が残る。

この時の私は知る由もない。
この日のことが、後々の私に、大きく関わっていくことを―――









エピソード15へ続く!!!


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