ときめいて☆魔法学園


 耳鳴りがする中、声を絞り出す。
「……あなた、何で……」
 受話器の向こうからは、からかうような、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「アハハ、驚いた? アイツ、俺の家に携帯忘れてったんだよねー」
 うぉおい!! !! アンタ何ボケてんじゃーーい!!! 私の個人情報勝手に漏洩してんじゃねーかよ!!! てか、気付いて取りに行けよ!!(怒)
「……何か用?」
 不機嫌を露わにして、私は言った。別にコイツの前で作る意味も可愛い子ぶりっ子する必要も無い。私が可愛くあるのは、の前だけでいいし。(それも失敗してるけど)
 しばらくして、少しの笑い声と、溜め息のようなものが聞こえた。
「あれ、不機嫌。そっか、もしかしてアイツからの電話待ちだったんだ?」
 知ってんならわざわざ聞くな! と怒鳴りたくなるのを何とか止める。そもそも、何でコイツから電話なんて掛かって来るのか理解出来ない。ていうか、他人の携帯勝手に使うとか在り得ないし!!
「わざわざ電話なんて……一体何なの?」
 すると、電話の相手男子A(本名は知らない。ていうか覚えてない)の声のトーンが低くなる。
「アンタさぁ……アイツに隠してることあるだろ?」

――――!?

 一瞬、背筋に悪寒が走る。手に汗握る展開になってきた気がする……(勘違い)隠してること……?! それって…………そりゃあ隠してることなんて山ほどありすぎて、何かって言うのが難しいけど……でも、何でそんなことコイツに言われるわけ!?

「な、何のこと……?」
 冷や汗を感じながらも、あくまでとぼけてみせる。いや、まだ何をバレたのか分かってないんだから、とぼけるも何もないんだけど。喉がからからに渇いて、心臓が早鐘を打ち始めている……。まさか……まさか……ね。
「あれ? とぼけんの?」
 楽しそうに笑いながら、奴は次の言葉を吐いた。


「――――超オタクなくせに」


「ほわっちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?Σ(|||´■`|||;;Σ)!!!」

――――がっしゃーーーーーーーーーーーーン!!!! 
――――バッターーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!
――――ゴロゴロ……




 episode11 Enemy or...?



 私は自分の臓物を吐き出した。(つもり)
 ちなみに、上の効果音を順に説明すると、上から「携帯を投げつけてディスプレイが粉々に砕け散った音」、「あまりの衝撃に頭から床にダイブした音」、「屍が転がった音」だ……。
 屍と化した私の顔の横に、携帯の亡骸が横たわっている。そしてそこからは、まるで悪魔のような笑い声が響いていた。
「アハハハハ、すっげー音! そんなにショックだったんだ? アンタが今どうなってんのか、生で見れないのが残念」
「◎▲◇*※◆?☆?〜??」
 頭の中に落雷が落ちたような衝撃に、脳天がかち割られた気がしている私は、ただ横たわったまま奴の声を聞くしかない。声にならない声を上げたまま、ただ横たわる。ぐけけけけけけけ……。
「俺、知ってんだよね。ていうか、見ちゃった。アンタがよく、アレ系な店に出入りしてんの」
「ぬあっ!?」

――――み、見られてた!? ありえないありえないありえなーーーい!!!
 どうして何で!? ちゃんと周り確認して、細心の注意を払って入ってたのに!?(逆に不審者) そんなバカな!! なんて酷い! ありえないありえないありえませーーーん!!!(泣)

 言い訳出来ない状況だと知りつつも、とりあえずは否定する。もうそれしか出来なかった。
「し、し、知らない知らないっ……見間違えじゃないの!? ほら、私なんて何処にでもいる顔だし! たまたまそっくりさんがいただけじゃないの!? ね、絶対そうだよ! そうに違いない! 間違いない!! ぜーはーっ」
 でも、そんな私の(無駄な)努力も虚しく、奴は意地悪そうな声で言う。
「とぼけても無駄。俺、バイト先があっちなんだよね。たまたま大学からアンタがそっちに向かうの見て、そのまま方向一緒だなーって思ってたら……アンタがああいう店に入っていった時は目を疑ったね。見た目全然オタクに見えないし。あ、最近流行りの『綺麗系オタク』ってやつ?」
「ぐっ……わ、私……」
 焦りと混乱で、上手い言葉が出てこない。こんなに追い詰められたのは、生まれて初めてだ。というか、こんなにショックなこと、今までに一度も無い……。
「発売日にゲームも漫画も絶対買う女なのにな?」
「うぎゃあぁっ!?」
 そ、そんなことまで……。(ていうかコイツ、何でそんなことまで知ってんだよ)もはや、もう全てが手遅れで、私に打つ術は残されていない。男子Aは、私が今までひた隠ししてきた全てを知っている(らしい)。私がどう言い訳しても、どうにもならないところまで知っている……。このまま否定し続ける意味は無いだろう。結局は自分で墓穴を掘ってしまいそうな気もする。
「アイツ、これ知ったら引くんじゃね? いくら心の広いアイツでも、デートの誘いを断ってオタクの店に行くような女は許せねえだろ」
「んぐっ……!!」(ていうか、何でそれも知ってんだよ!?)

 でも、その言葉を聞いた瞬間。
 の笑顔が脳裏を掠め、私は自分でも驚く程に情けない声を上げていた。

「……お願い言わないで! には言わないで……!!」

 多分は、私がオタクだと知ったところで、すぐに「別れよう」とは言わないでいてくれるだろう。この前の一件(が寝込んだあれだ)で、改めての素晴らしさを実感した……。
 でも、それは絶対的じゃない。私だって、私が知らない彼の何かを知ってしまったとして、それがどんなことでも彼を好きでいられるかどうかなんて、自分でも分からない。

 だから怖い……。
 に嫌われて、捨てられたらなんて…………考えたくない。

――――に捨てられたら、私は確実にオタクの奈落へ堕ちる……!! もう戻れないに決まってる……!!(そこかよ!!!)

「別にいいよ」
「へ……」
 あっさりとした返答に、思わず間の抜けた声が出る。てっきり、何か見返りを求められるかと思っていただけに、拍子抜けした気分だ。
「たださ、自分隠して付き合うのってキツクねえの?」
「…………別に。のことが好きだから、平気だよ」

 嘘ではない。
 が好きなことは真実だし、彼に趣味を言えないことをキツク感じたことも無い……ハズだ。

 でも……男子Aの言葉に、一瞬だけ……ほんの一瞬だけ、心が揺れた。
 何故か嘘をついた後のような、何とも言えない気分になる。

「……ふーん。アイツのこと、そんなに好きなんだ?」
「好きだよ……って、どうしてそんなこと……あ“」

 言いかけて、ここ数日を思い出す。
 そうだった。コイツは
狙いだったんだ……!!(遅っ)あまりにショックすぎたせいで、すっかり忘れていた。
「そうだよね……男子A君は、が好きなんだもんね。私と君はライバルなんだよね」
「……その『男子A』って俺のことかよ……」
 はっ。ついうっかり、私の頭の中の呼称で読んでしまった(汗)
 慌てて本名を思い出そうとしても……知らない、ていうか覚えてない(二回目)
「ごめん、忘れた……(覚えてないの間違い)何君だっけ……?」
「マジかよ! ヒッデー女!」
 そう言った声に、怒りは含まれていなかった。むしろ、ちょっと楽しそうに聞こえるのは私の気のせいだろうか。何コイツ? もしかしてドМ
「俺は……いや、やっぱいいや。Aって呼んでていいよ」
 何なんだコイツ。Aってアルファベットじゃん。まあ本人がそれでいいって言うなら別にいいけど。(いいのかよ)
「じゃあ……A君ね。で、電話を掛けてきた理由は何なの? 私がオタクだって言いたくて掛けてきたの?」
「あ、認めた。もう否定しないんだ?」
 言われて、改めて胸が痛む。ていうか心が。でももう仕方ない。こうなりゃ開き直るしかない。
「……だって、何言ったってドツボにハマリそうだし。もういいよ。私はオタクかもしんない。別にいいでしょ。誰にも迷惑掛けてないし」
 そりゃあちょっと、現実世界で妄想に浸ることは多いけど!
 友達とか見て、
乙女ゲーのキャラに当てはめて妄想したりすることもあるけど!!
 ていうか、日々の生活の中で、
めちゃめちゃ選択肢出たりするけどね……!!!
「悪いなんて言ってないよ。俺はただ、アンタいっつもどっか無理してるように見えたから、逆に指摘してやった方が楽になるんじゃないかって思っただけ」

――――ドクンッ

 嫌な心音が響いた。
 無理してる……? 私が…………?

「無理なんて……してないよ。あれが私なの。普通の私」
「嘘だね」
「即答かよ!?」
 思わず突っ込むくらいに、奴は嘘だと言い切りやがった。
「ほら、そういう突っ込み出来るくせに、アイツの前だと絶対にしないのな。何で?」
「そんなの」

 
乙女だからに決まってんだろーが!!! バカかお前は!! お前は『ときメモ』やったことないのか!? 耽美夢想のマイネやったことないのか!?(相手は男性です)女は皆、ああいう表の顔と裏の顔を使い分けてんだよ!! 生まれながらに、もう一人の自分を演じてんの!!(言いすぎ)皆女優なんだよ!!!!!!! 
「……アンタ今、すっごいこと思っただろ。ていうか可愛い子ぶりっ子なんてやめれば?」
「なっ……」

 
可愛い子ぶりっ子の何が悪いんじゃボケーーーー!!!!(怒)コイツ一体何様!? 私がどれだけ努力して苦労して、の彼女っていうポジションを手に入れたのか、お前は知ってんのかよ!? あの鈍感無垢で時々冴えてるイケメンを、どうやって落としたのかなんて……乙女ゲーのどんなシチュエーションにも展開にも負けず劣らずな感じだったわよ!! 私の奮闘記をゲームにしたら、きっと素晴らしいわよ!! それくらいよ!!
 思わず怒鳴りそうになった時、ぼそっと奴が呟いた。
……多分アンタの無理に気付いてるよ」
「……え」
「アイツ、ボケボケっとしてるけど、結構人の気持ちに敏感だから。アンタの様子がおかしい時なんて、大好きなテニスにも全く身が入らないんだよ」
「……」
 が、人の気持ちに敏感なのは知ってる。私が落ち込んでる時は、一緒に落ち込んでる。嬉しい時は、彼までウキウキしてる。……多感なのだ、とても。
 でも、それをコイツに指摘されると腹が立つ。まるで、彼女なのに何も知らないって言われてるみたいだ。思わず、喧嘩腰に言い返した。
「そんなのっ……A君に言われなくても分かってるよ! 何なの? A君は一体、私をどうしたいわけ?!」
「別に? ただ、言ってみただけ」
「はぁ?! 何それ!?」
「あ、充電切れそうだ! じゃあ、また明日なー」
「あ、ちょっと!?」

――――ブツッ……

「切りやがった……てか、また明日とかありえねーっつの」
 私はそのまま、ごろんと仰向けになった。

 ……何なのよ、アイツ。
 いきなり電話してきて、オタクだって言ってきて。一体何がしたいわけ?
 やっぱりのことが好きだから、宣戦布告ってことなの? でも……それにしては、随分好意的な感じだった気もする。いや、色々むかついたけど。
 
 そんなことを考えていると、携帯のメロディーが鳴り響く。……の家電だ。
「……
 通話ボタンを押せば、いつも通りの声。
 私が好きな、恋人の声だ。
「もしもし、? ごめん、ちょっと遅くなった。携帯、アイツの家に忘れてきちゃって……今、平気?」
「……うん。電話、ありがとう」
「……? 何か、あった?」
「え?」
「何か、元気ないみたいだけど……」
 すぐに分かっちゃうんだから、の敏感さには恐れ入る。まあ、今はちょっと、隠し通せる元気が無かったっていうのもあるんだろうけど。

 ……それくらい、ショックなんだよ(汗)
 いくら強がったって、開き直ったって、やっぱり心の傷は相当深い。いや、マジで……。

「ねえ……あの、が送ってあげてる友達……あの子とは仲良しなの?」
「え? ああ、男子Aのこと?」
 ……どうしても、男子Aにしか聞こえない。もう私の頭が本名を受け付けなくなっているらしい。
「仲良いよ。アイツ、色々気が回るし、面白い良い奴だよ」
「そっか……、あの子のこと好き?」
「へ? 好きって……まあ、良い友達だとは思ってるけど……」
「そう……私は…………」

――――苦手だな……

 そう言おうとして、思いとどまる。
 本当に苦手なの? そんな思いが過ぎる。
 むしろ……アイツは私の…………って、私、何変なこと考えてんの!? アイツは敵! 私の恋路と人生を邪魔する憎い敵なの!! ていうかもう、既に邪魔されてるの!!

「……?」
「あ、ごめん。うん……
私も彼とは良い友達になれそうな気がするよ
 なーんて、乙女ゲーの常套文句を口走る。絶対に友達になんてなれるわけないし。ていうか、もう二度と話したくないしっ!
「…………」
?」
 急に黙った。しばらく待っていると、ぼそっと小さな声が聞こえた。
「…………あんまり、仲良くしないでほしいかな……」
「え…………」
「その……は俺の…だし……」
「っ……///////」

 これって……もしかして、いやもしかしなくても……

 
ヤ・キ・モ・チ!! ですよね!!?
 
キャーーーーーー!!!! ヤキモチイベント入りましたーーーーー!!!!(救えない)フラグ立ちました〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!(ありえない)

「もしかして……ヤキモチ?」
「っ……」
 受話器の向こうで、息を呑む音が聞こえた。
「……ヤキモチ妬いてくれるなんて、初めてだね。私はいつも……の近くにいる子たちに妬いてたのに」
「え?」
「そういう気持ち、いっつも味わってたってこと。すっごいムカついてたんだからね」
……もしかして、怒ってた?」
「うん。めちゃめちゃ。誰にでも優しいは、すごい好きだけど、でもすごい嫌い!」
「え!? ご、ごめん!! 俺、そんなこと全然考えてなかった……」
「私、いっつも我慢してきた。でもホントは――――あっ」
……」
「あ……あはは……どうしたんだろ、私……。ご、ごめん。何か、止まらない……」

 こんなこと言うの初めてで、自分でも少し混乱していた。
 はもっと困惑してるに違いない。
 ……それもこれも、全部Aの奴のせいだ! 私の仮面を剥がしたアイツが憎い!!
 どうしたものかと焦る私に、優しい声が響いた。

……ごめん。俺……今、何か嬉しい」
「へ……」
の本音が聞けて……嬉しいんだ」

 その言葉を聞いた時、アイツの言葉が蘇る。

――――……多分アンタの無理に気付いてるよ

「こんなこと言って、酷い奴だって思うかもしれないけど……本当はずっと、にヤキモチ妬いてほしかったのかもしれない。他の女の子と話しても、、何も言わないし……」
「そんなことっ……私だってホントは……」
 ホントはいつも言いたかったわよ!(ていうか
殺りたかった(相手の女を))
 さっきの子は誰?! 私以外の子と仲良くしないでよ!! そんな楽しそうに笑わないで!!
 そんな数々の言葉をいつも飲み込んできた。おかげで、
シャーペンはもう何本も折れたし(怒りでへし折った)言葉遣いも確実に悪くなった(心の中のね)。
……ホントに、
殺意を何度抱いたことか(本気)があの子たちに微笑んだ回数分、彼女たちは死にました(私の妄想内で)

「うん……ごめん……俺、自分ばっかりって思ってた」
「……」
「でも……そうじゃなかった。も同じだったんだって思ったら……すごい安心した」
「……バカ
「うん……バカだ」

 そう言って私たちはしばらく笑い合った。
 バカなんて言っちゃったけど……ホントは私の方がバカだ。良い彼女でいなくちゃって、必要以上に作りすぎてた。よく考えてみたら「素直な女」の方が全然可愛いじゃないか。乙女ゲーでもそれが鉄則じゃない! 何でそんなことにも気付けなかったんだろう。乙女ゲーフリークの名が廃るわ……(比較対象が間違っている)

「ねえ……ワガママな子は嫌い?」
「……ううん。のワガママなら歓迎」
「っ///////」
 この天然タラシ王子様め……。アンタ程の男、どこの世界(二次元の)探してもいないって。
「照れてるでしょ?」
「て、照れてない!! もう切るからね!」
「ははっ、は可愛いな」
「も〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
 結局は、私の方が色々振り回されてる。
 でも……あれ、もしかして……
「もしかして……私にヤキモチ妬かせたくて、わざと女の子たちと仲良くしてたりとか……?」
「え? 何言ってるの? ……俺はだけだよ」
――――ゾクゾクッ!!
 ……今、受話器の向こうで「くすっ」って聞こえたんですけど!!!(汗)ま、まさかやっぱりって……(滝汗)

 頭の中を“高城静”が過ぎる。
 ……もしかしなくても、って
「黒」属性?! 
 何々?! 突然豹変しちゃう系?! それとも、腹黒で笑顔で毒吐いたり、主人公に近付いてくる男を殺ったりしちゃう系!!?(ないだろ)

「……の本音も聞きたいよ?」
「俺はいつも本音しか言ってないよ?」

 ……この台詞が、白々しく聞こえてしまうのは私が歪んでるせい? それとも、時々垣間見る、の乙女ゲーもびっくりな甘甘な部分のせい? それともそれとも、今しがた気付いた、『実は、真っ黒キャラでした!? 時々豹変しちゃいます☆』なせいなの!?

、俺……明日からアイツ送るのやめるから。だから一緒に帰ろう?」
「え? 何で?」
「アイツよりの方が大事だから」
「そ、それは嬉しいけど……でも、ホントにいいの?」
 だって、アイツAはのこと好きなんだし……。もしかしたら、アイツがに私の秘密バラす可能性だってあるし。
「いいんだ。それにアイツ、イイ奴だけど……のこと、気に入ってるみたいだから」
 またしても私は、携帯を投げつけるところだった。
「えぇっ!? 何ソレ、絶対にありえないよ!! 私どっちかって言うと嫌われてるって!!」
 だってアイツと私は恋敵! 憎み合っても、好かれるなんてどう考えても無いよ!!
「そんなことない。アイツ、必要以上にのこと話に出してくるし、今日だってずっとのこと聞かれて…………、アイツのこと、好きになったりしないよね?」
「えぇっ!?」
 突然のの言葉に、私は声が裏返るほど驚いていた。好きになったりって……いやいや貴方、だから
私と彼は貴方を取り合うライバルなんですけど……!!(滝汗)
、ちょっと、何おかしなこと言ってるの? そんなの
地球が滅亡したってありえないって!(言い過ぎ) だって私とあの人はのことが――――」

 ――――好きなんだよ?
 そう言おうとした瞬間、スパッと言葉が切られた。
「もしもがアイツを好きになったら……俺、アイツを殺すかもしれない
「え……」
「だから、俺を人殺しにさせないで」
……?」
 あまりにもいつも通りの口調だったから、一瞬聞き間違えたのかと思った。でも、そうじゃなかった。

 よ、……豹変!?



 ヤバイ……
 超萌えるんですけど……!!(嘘ぉ―ん!?)――――いやいや、違う違う!駄目だろ、それは。人として、駄目だろ私!!

「ひ、人殺しなんてしちゃダメ! 私がアイツを好きになるなんて絶対に無いし!」
 思わずアイツと呼んでしまったけど、もうどうでもいい。どうにかして、この真っ黒豹変しちゃった王子様を白属性に戻さないと……!
「……ごめん。でも、最近少し不安なんだ。時々、がすごく遠く思えて……Aがを気に掛け出して、尚更心配になって……」

――――きゅーーーーーーーーーーんっ!!!!!!!!!!!

 な、何この会話! 超最高にキュンキュンするんですけど!!
 私今、究極の萌えシチュ体験してる!? 
ヒロイン以外はどうでもイイ! 皆死んどけ☆みたいなキャラが受話器の向こうに……!?
 最高すぎる!! 素敵過ぎる!! ヤバイ、萌え死ねる……!! ……興奮しすぎて眩暈がしてきた……!(死んどけ)
「ちょ、ちょっと待っててね……!! ファックスの前で待機!」
「え、ちょっと、――――」

 携帯を乱暴に切って、そのままベッドに投げ捨てる。
 私は急いでノートを破くと、そこにマジックで言葉を綴った。そのままの勢いで、ファックスを送る。

 しばらくして、ファックスが送信されてくる。それを見た私は、何だかとても幸せで、さっき起こった不幸な事件すらも遠い夢の中での出来事のように感じられた。


――――
 ごめん、恥ずかしくて電話じゃ無理だからFAXします><
私は、今も昔もずっとだけが好きだよ! 



 俺も、だけが好きだ。




 にやけ顔が治らず、興奮しすぎて眠れない私は、セーブ中だったときまほに意識を向けた。


 ええっと、確か午前中のイベントが終わったんだったよね。次は午後。

――――午後の予定を決めてください。

1. 公園
2. 図書館
3. 商店街
4. 自宅


 さっきは公園で野中Tに会ったってことは……公園はサブキャラとの出会いが起きる場所なのかな? うーん……とりあえず、学生っぽく図書館にしてみようかな。

――――図書館に決定しました。

 さてさて、次は誰に会うのかな〜。



 午後、私は図書館に向かった。
 午後の日差しが、柔らかく降り注ぐ。

 図書館の中は、休日ということもあってか中々の賑わいを見せている。世間一般的にもテスト前なのだろう。学生の姿が目に付く。
「論理系の勉強は、やっぱ本でするしかないよね……あぁ、憂鬱」
 ぼやきながらも、一通り必要だと思われる本を手に取っていく。気付けば、結構な量を抱えていた。
 そろそろ一旦、席に戻ろう。そう思って、後ろを振り返った私は鈍い衝撃を受けた。
「うわっ」
「わわっ……あ、げ、ちょ、うわわわわっ」
――――どさどさどさっ!!
 誰かにぶつかったらしい。抱えていた本が無惨にも崩れ落ちる。
「あちゃぁ……またやっちゃった。すみません、大丈夫で――――え!?」
「……またお前か、
 目の前にいたのは、杉原先輩だった。

――――し、晋也! やっぱり図書館はアイツが出没するのね……
 
 先輩は呆れたような溜め息をつきながら、私が落とした本を拾っている。
「す、すみませんっ」
 私も慌てて本を拾う。この光景、前にもどこかで……そう思いながら本を拾っていた手が、ふいに重なる。先輩の手と。
 思わず先輩の顔を見上げると、どうやら先輩も同じらしい。私たちはどちらからともなく目を逸らし、手を引っ込めた。

――――うわっ、すっごいベタだぁ(生温かい目)いつの時代の乙女ゲーよ、これ。

「せ、先輩もテスト勉強ですか?」
 気まずくなった空気を払拭しようと、私は言った。すると先輩は、心底疲れたように眉間に皺を寄せた。
「いや……実は今日……」
「あぁーーーっ! 何でちゃんがここにいんの!?」

――――え!? もしかしてこの声は薫ちゃん!?

 静かな図書館に響く声。その声に、先輩の皺が深くなる。
「……宮田、ここは図書館だぞ」
「だってだって、まさかこんなところでちゃんに会うなんて思わなかったんだよ!」
 興奮気味に捲し立てるのは、薫ちゃんだった。

――――やばいっ! 私も興奮ですっvvv

「薫ちゃん! 先輩と一緒だったの?」
「あれ? 
 振り返ると、そこには本を抱えた私の友人、優子がいる。
「優子……あっ」
「アハハ、どうもーちゃん」
 優子の後ろには、優子の彼氏さんで、薫ちゃんのお兄さん――――愁さんがいた。

――――なんじゃこの展開! 優子りんと彼氏まで登場かよ! どうなってんの!?




――――あ、スチル出た! しかも、皆で仲良くお勉強してる感じ! 愁と優子がいるスチルって、結構レアだよね!


 話を聞くと、どうやらまほアカがテスト前だと言うことで、OBの愁さんが直々に後輩の指導をしてくれることになったらしい。薫ちゃんの家の近くには図書館が無いらしく、少し先の私の家の近くにある図書館まで来たのだという。
「ほんっと、勝手に一人で決めちゃうんだから。私は別に、愁に勉強見てもらわなくたって、平気なのに」
「まあそう言うなよ優子。先輩のオレが、しっかり教えてやるからさ」
 そう言って笑う愁さんと対称に、優子は微妙な表情だ。
「兄貴ってばそんなこと言って、ホントは優子先輩と一緒にいたかっただけなんだろ!」
「なっ……」
 驚く優子に、愁さんも目を丸くした。
「なっ……そういうホントのこと言うなよなー、薫!」

――――あ、ホントのことなわけね……

「ちょ、ちょっと!//////」
 優子が慌てふためく。ぷっ……何だか見てて、本当に面白い二人だ。
「ふふっ……何だか面白い二人だね」
「そーなんだよ。この二人って、ホントいっつもこんな感じなんだよね。兄貴はいっつも優子先輩に鼻の下伸ばしっ放しだし」

 薫ちゃんは、頬杖を付きながらつまらなそうに二人を眺めている。その視線が、何だかいつもよりも冷たい気がして……私は思わず

1、薫ちゃんの肩を掴んだ
2、薫ちゃんに声を掛けた

――――選択肢! うーん……薫ちゃんはきっと、このお兄さんになんかコンプレックス持ってるんだよね。どうしよ。声を掛ける……じゃ、ちょっとインパクト弱い気がするし。ここは1でばしっとガシッと薫ちゃんの肩を掴んじゃいましょうv

薫ちゃんの肩を掴んだ。
ちゃん?」
「え、あ……ごめん。何でもないの」
 不思議そうな瞳を向ける薫ちゃん。私は何も言えなかった。
「? でも良かった。ちゃんがいてくれたら、このメンツで来てても楽しいもんねv」
「あはは、それなら良かった」
 ニコニコと笑う薫ちゃんは、いつもの薫ちゃんだった。さっきのは……私の勘違いだったのだろうか。少しだけ引っかかったが、いつの間にか忘れてしまった。

――――こら主人公! 忘れるなーーーっ(怒)これはもう、薫ちゃんルートの伏線だろーが! そんで後々で絡んでくんだよ! 重要なのっ!



 午後も半ばに差し掛かり、夕焼けが図書館を照らし始めた。
「そろそろ、帰るか」
 杉原先輩の呟きに、私と薫ちゃんは同時に顔を上げた。
 いつの間にか、人はまばらになっている。
「うわっ、もうこんな時間」
 薫ちゃんが時計を見て驚きの声を上げる。私もそれを見て、心底驚いた。
「フッ……二人とも、随分集中していたみたいだな」
「あれ、優子たちは……」
「二人なら、少し前に先に帰った。……お前たちがあまりにも必死に勉強しているから、声も掛けにくかったんだろう」
 いつの間にかいなくなった二人にも、全く気付かなかった。こんなに集中して勉強できたのなんて、久々だった。
「二人とも、集中力はずば抜けてるんだな。正直驚いたよ」
「いや、あはは……追い込まれないと頑張れないタイプで」
「だってしょーがないじゃん。ちゃんも頑張って勉強してるし、勉強しかやることなかったんだよ。あーあ、疲れた」
 そんな私たちに苦笑しながら、先輩は帰り支度を始める。私たちも後を追うように、本などを返し始めた。

――――なんだか、薫ちゃん、晋也の前だともう地を曝け出してる感じ? コイツはおそるるに足らないとでも思ったか?(酷)



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