エピソード:0
『まほアカへようこそ☆』



「……買っちゃった」
 私が今手にしているのは、パソコンの乙女ゲー。買うつもりは毛頭なかったのだが、気付いたらレジに並んでいた。
 そんなに私、心が病んでいるのかしら……(涙)

 タイトルは『ときめいて☆魔法学園!』。
 何ともまあ、痛々しいほどくどいタイトル。
 ときめいて……の辺りから、もうオタク万歳な感じが漂っている。
「はあ……でもまあ、最近乙女ゲーから離れてたし、ちょっと暇つぶしって感じにはなるかもね」
 私は溜め息をつきながら、家の玄関をくぐる。

 部屋に入り、すぐにパソコンを立ち上げる。
 手元には、お菓子とジュース。
 まあなんとも……モテナイ女の代名詞のような格好で、ゲームに臨む私。
 いやいや、私にだって彼氏の一人や二人いるんですよ。
 けど、やっぱり現実の男より、二次世界の男の方が断然かっこいいわけで……。
「彼氏いたって、関係ないっつーの」
 独り言を呟きながら、早速ディスクをセットした。



――君となら、どこまでも越えていけるよ。君がいれば何も怖くない……

「アニソンぽいなぁ」
 爽やかなラブソングと共に、OPアニメーションが始まった。
 


 登校中と思われる主人公に駆け寄る女友達。

 場面は変わって、教室で夕日を見ながら佇む黒髪青年。やべ、かっこいい。

 次には、山積みの本に囲まれて調べ物をしているメガネ君。あ、友達が好きそう。

 そして、バスケのシュートを決めてVサインをするオレンジ猫っ毛少年。やべぇ、まじ可愛い。

 それからは、校医らしき人物や、謎の人物たちが一コマずつ現れるお決まりのパターン。


――君となら、どこまでも越えていけるよ。君がいれば何も怖くない……
   微笑みの魔法を掛けるように……いつまでも、その笑顔で傍にいて……



 サビと共に、メンバー総出演。
 それぞれのキャラが、ワンカットずつ登場。

 ふむふむ、黒髪は水を使うのか。
 メガネは……風かな?
 あの可愛い子は炎ね!!
 主人公は何だ? 光……??


――私はいつでも君の傍にいるよ……


 最後は、笑顔で一人ずつのワンカットがあって、学校が映って終わり。
 典型的な乙女ゲーのOPだった。

「ふむふむ……中々期待できそうじゃない」
 これは、結構良いかもしれない。



――スタートを押すと、名前の入力画面が出てきた。
 えっと、私は何て名前にしよっかな。
 うーん……よし、にしよっと。

――あだ名を入力してください。
 え、あだ名なんて決めるの?
 うーん……無難にでいいや。

――主人公の属性を選択してください。
 属性かあ。
 えっと選べるのは……月か太陽? 何でこの二種類なの??
 あ、説明が出てきた。
 ……月は、陰。太陽は陽。月を選ぶと魔力が高くなって、太陽を選ぶと体力が高くなるのね。
 うーん……月の方が神秘的だし綺麗だから月にしよっと。

――ゲームスタート!!
 あ、始まったみたい。

 主人公の私……こっからは私で行くわ。
 ここは家かな?
 あ、ママが出てきた。
、気をつけて行ってらっしゃい」
「行ってきます」

 あ、ここは自動で進む場面みたいね。
 あ、私の独白になった。

 
私の名前は
 今日から憧れの「フィーナル国立魔法アカデミー」に通うことになった17歳。
 もう、本当に嬉しくて昨日はあんまり眠れなかった。
 ここに入るために、毎日5時間は勉強したんだから。
 去年果たせなかった夢が、今ようやく叶ったんだわ〜。うーん感動。
 さ、しょっぱなから遅刻したらみっともないし、急ぎますか!
 こうして私は、胸いっぱいに期待を膨らませ、アカデミーへと向かったのだった。



――へえ……この主人公はまあまあ嫌いじゃないな。
 ボケで天然ぶりっ子で、鈍感な主人公ってホントむかつくのよね。実際いたら皆から嫌われるっつーの。
 でもこの子は結構好きになれそうだわ。うんうん、出だしは好調ね。
 あとは、落とすキャラが面白ければいいなぁ。

 あ、場面が駅になった。

――電車に滑り込んだ私は、自分が注目を浴びているのに気付いた。
「あれって、まほアカの制服じゃん?」
「すっげー、この町からもまほアカ通ってる奴いんのかよ」
「いいなぁ、制服超可愛い」

 フフフ……でしょでしょ!? 私もこの制服着るために頑張ったんだから。
 にやけそうになる顔を何とか保ち、私は外を眺めた。
 あー、昨日までとは違った景色が見えるわ……。
 感動に浸っていた瞬間、電車はいきなりの急停止をした。
「わわっ」
 思わずよろけた私は、そのまま前の人に突っ込んでしまった。
「おっと」
――ぽすっ
 丁度いい具合にその人の胸があって、私はその人に抱きつくような形になってしまった。

――わ、めっちゃお決まりのパターンだな。

「わっ、ご、ごめんさない!!」

――スチルが出た……っ。
 や、やばい可愛い!!
 可愛すぎる……。お姉さん鼻血出ちゃうよ。

 
慌てて離れる私に、その青年は微笑んだ。
「大丈夫?」
「は、はい」
 恥ずかしくて顔を上げることができない私に、彼は言った。
「もしかして、まほアカ生?」
「え……あ、はい!」
 思わず顔を上げると、確かにこの人も同じ制服を着ている。
 でも……あれ? 確かこの校章の色って……。
「あ、やば。もしかして、オレより年上? それって二年生の校章だよね?」
 一年生は赤。二年生は青。三年生は緑の水晶を、校章として身に付けるのがまほアカの決まり。
 もうパンフレットを熟知して、なおかつネットでも調べつくしたから間違いない。
「貴方は赤……ってことは、一年生?」
 私が聞くと、彼はにっこり笑って言った。
「宮田薫、まほアカ一年だよ」
「そうなんだ。私、今日からアカデミーに通うことになったんだ」
「そうなの? どうりでいつもは見かけないと思ったよ」
 電車が止まり、アカデミーのある「シリア」駅に着いた。

「せっかくだし、学校まで一緒に行こうよ」
「え、いいの?」
「もっちろん。センパイみたいな可愛い子と一緒に登校できるなんて、役得役得☆」
「あはは……ありがと」
 こうして私は、宮田君に学校まで案内してもらうことになった。
「ねえねえ、センパイも名前教えてよ」
「あ、ごめん。と言います」
「ふーん、センパイかー。可愛い名前だね♪」
「……宮田君///」
 照れるから言うな、そういうこと。
「宮田君じゃなくて、下の名前で呼んでよ」
「えー……うーん……じゃあ薫ちゃんね」

――主人公イイ! 後輩をちゃん付け呼び、まじ萌!!

「ちゃん付け? ……ま、いっか。じゃあねセンパイ。また後でね」
「うん、ありがとう」


――薫、まじやばい。

 
薫ちゃんはそう言って、校庭のほうに駆けて行った。
 それにしても、薫ちゃんってホント可愛いなー。
 とりあえず、お友達一号が出来ちゃったよ。
 さて、私は職員室に行かなくちゃだ。



――やべえ、まじ薫にやられた!!! これはもう、薫を真っ先に落とすしかないわね!!!
 あ、職員室の場面だ。
 わ、先生もイケメン!!

さんだね? 今日から君の担任になる野中です。よろしく」
「よろしくお願いします」
「じゃあ早速一緒に教室に行こうか」
「はい」

――ちくしょー、この先生は落とせないの? あー脇役好きなのにぃ。いや、きっと落とせるハズ!!うん。
 あ、教室に入るみたいね。

「皆、静かに。今日からこのクラスの仲間入りをするさんだ」
です。どうぞ宜しくお願いします」
「ではは……高城の隣で。高城、学校のこととか教えてあげてくれ」
「はい、先生」


――高城? 誰??
 おっ、スチルが出た……!!
 あの黒髪の彼じゃん。奴は高城って言うのね(説明書読んでない)やべ、まじカッコイイし。

「あの……よろしく」
 私は隣の高城君と呼ばれた人に挨拶をした。彼は柔和な笑みを浮かべている。
「よろしく、さん。分からないことがあったら、何でも聞いてね」
「ありがとう」
 高城君の瞳は海の色をしていて、とても綺麗だった。
 やっぱりまほアカには色々な人がいるんだな。さっきの薫ちゃんも真っ赤な目をしていたし。
 私の住んでる町には、あんまり魔力持ちがいないから、そういった変わった目の色をしている人は少ない。
 フィーナルでは綺麗な色の瞳は、魔力持ちの証と言われている。
 そういう私は、薄紫の瞳を持っている。まあ、あまり普段は目立たないけれど暗闇では不思議な光を発している猫みたいな目。
 お母さんは、紫の目をしているけど、魔力なんてないって言ってたし……。
 
 テストの結果では、私は五大属性の中の「星」だった。
 星は炎・水・土・風の中心に位置する属性で、光と闇の魔法が使えると言われている。
 でも私が使えるのなんて、懐中電灯代わりがいいとこの「灯火(ともしび)」。
 あとは、流れ星を呼び出す「星詠み」。まともに使えるのなんてこの二つ程度だ。
 しかも、どれもあまり役に立たないような魔法だった。皆には、綺麗な魔法が使えて羨ましいなんていわれたけど……。

さん? HR終わったよ。大丈夫?」
「え、あはは……大丈夫」
「そう? じゃあ次は移動だから、一緒に行こう」
「うん」
 どうやら考え事をしていたら、HRは終わってしまったようだ。

――主人公って「星」の属性だったんだ。
 にしても、高城ってまじやべえカッコイイなぁオイ。
 薫ちゃんはめっさ可愛いけど、こいつはめっさカッコイイ。
 やべ、どっち落とすか迷うな……。
 まだ選択肢は出てないし、この分だととりあえず前キャラの紹介が序章って感じだね。

さんは得意魔法とかある?」
「と、得意魔法……?」
「うん。俺たちはね、自分の属性に基づいて、何か一つ得意な魔法を持つことになってるんだ」
「へえ、そうなんだ」
「属性ごとに、授業も違ったりするんだよ。次の授業は共通科目だけどね」
「高城君は、水の属性?」
「うん、正解。この目で分かったの?」
「蒼い、綺麗な目だね。透き通った海の色って感じ」
「ありがとう。さんは……薄紫か。何の属性だろ。今までに見たことない色だ」
「私はね、星なんだ。特に月の加護を受けてるみたい」
「ほ、星!?」
 高城君がさも驚いたかのような声を上げた。他の生徒も、何人かこっちを凝視している。
 な、何……??
さん、星なの??」
「すっごーい! 編入生だけのことあるねぇ」
「星の魔法見せてよー」
 ????
「え、一体どうなってるの?」
さん知らないの? 五大属性の中での「星」の位置付け」
「う、うん……全く」
 戸惑う私に、高城君は苦笑しながら説明してくれた。
「炎・水・風・土・星の五大属性は、土・風・水・炎・星という順番で、持って生まれる確立が低くなるんだ」
「星が一番低確率?」
「そう。その確立は1千万人に一人と言われているよ」
「そ、そうなの!?」
「このまほアカでも、星の属性を持つ人は学年で一人いるかいないかだよ」
「そーなんだ……」


――主人公驚いてるね。ふーん、主人公はこんな特殊な人種だったのか。
 しかし静。説明上手いな! カッコイイし頭いいし、もう最高じゃん。

「で、でも……私、そんなすごい魔法なんて使えないよ?」
「大丈夫。皆最初はそんなに魔法なんて使えないよ。授業受けているうちに、自然に出来るようになる。――氷結」

――あ、スチル出た!! 青い目が光ってますけど!!
 やべ、超カッコイイし。氷結ってそのままだけど、でも決まってるわ……。黒髪最高☆

――ぱらぱらっ
「わぁっ……」
 綺麗な氷の結晶がぱらぱらと降り注ぐ。
 それは見た目でも結晶と分かるほどの大きさで、とても幻想的な風景だった。

「すごーい!! 今の、高城君がやったの??」
「うん。僕は水に関することなら結構応用が利くから。今のは空気中の水分を凍らせて結晶化したんだ」
「へえ……」
 私はただただ頷くしかなかった。
 こうやって間近で他人の魔法を見る機会なんて、今まではほとんど皆無だった。
 これからは毎日こういう環境の中で生活できると思うと、胸が躍った。

「あ、急がないと授業に遅れる!」
「わわっ、大変」
「少し急ごう。さんの魔法は、今度ゆっくり見せて」
「うん!」
 鳴り響くチャイムの中、高城君と駆け出した。


――お昼休み
「ねーねーさん、一緒にお昼食べない?」
「あ、うん!」
 クラスメイトの女の子が、声を掛けてきてくれた。美人でスタイルのいい子だ。

――可愛い、この友達。

「私、三村優子。属性は水よ。よろしくね」
「うん、こちらこそよろしく」
「あ、優子って呼んで。私もって呼ぶから」
「うん!」
 二人で仲良くお昼を食べていると、突然首に何かが巻きついてきた。
「ぎゃっ」
 思わず色気のない声を上げる私。

――そうそう。こういうときに「きゃっ」とか言えるはずないしね。この主人公分かってるわ。
 てか、この展開だと多分……

センパーイ!! お昼一緒に食べよー☆」
「その声って……薫ちゃん!?」
「せーかい!」
 そう言って、私ににっこりと微笑んだのは朝出会った。宮田薫だった。
、この子と知り合いなの?」
「え、うん。朝たまたま会ってね、学校まで連れてきてもらったの」
「センパイ達、オレも一緒にお昼食べていい?」
「うん、いいよ」
「アンタもしかして、一年の宮田薫?」
「そうだよ。センパイは、三村優子センパイでしょ?」
「何で知ってるの?」
「だってセンパイ有名だもん。綺麗で頭良くって、スタイル抜群って」
「ふーん、興味ないわ」
「優子……(汗)」
 クールビューティ……優子にはこの言葉がぴったりと当てはまる感じだ。
 薫ちゃんはと言うと、特に気にした様子もなかった。
「噂通りだね、優子センパイ。告白してきた男は一刀両断。まさしく氷の美女って感じ」
「馴れ馴れしいわね、気安く優子センパイなんて呼ばないでよ」
「えーいいじゃん!」
「駄目」
「けち」
「うるさい」
「……」


――そうそう、主人公の友人はこうでないと。それで主人公ラブで、男に対してキツイのが一番よね。うんうん。
 つくづく分かってるね、このゲーム。

 
流石の薫ちゃんも、これ以上は何も言わなかった。
 私は、そんな二人の掛け合いを苦笑しながら見つめるしかなかった。
「そ、そういえば、薫ちゃんって炎の属性?」
「うん、そうだよ」
「アンタ、やっぱり炎だったのね。どうりで相性悪いと思ったわ」
 優子が嫌そうに言う。
 そっか、水と炎は対極にあるから、相性は悪いんだっけ。
「優子センパイ、そう邪険にしないでよ。センパイは何?」
「私は、星なんだ」
「星っ?? すっごー!」
 薫ちゃんが、目を輝かせた。
、何か星の魔法見せてよ」
「え……いや、でも……」
センパイの魔法見たい!! 見せてー!!」
 二人に強く言われ、私は渋々承諾する。
 でも、さっきの高城君の氷結のように、すごいものが出せるわけでもないし、はっきり言って微妙な魔法だ。
 変に期待されても、逆に困る……。
「じゃあ見せるけど、ホントのホントに全然すごくないんだからね?」
「はいはい」
「センパイ早くー」
「……」
 仕方ない、やるしかない。
 私は大きく息を吸い込んだ。
「流星の輝きよ……」
 詠唱時間が結構かかってしまうが、これくらいしか人様に見せられない。

――何気アニメーションだし! へえ、主人公もさまになってる。
 おっと、何やら主人公たちの頭上が夜空に変わっていってるわ……。
 
「ちょ、ちょっと……天井が夜空になってる?!」
「ひぇー、何かプラネタリウムにいるみたいだね」

「今ここに……我のもとに降り注げっ」

――おーっと! 夜空の星が一斉に輝きだしたけど??
 も、もしかして……

「――星詠み!」

――キュピーン、キュピーン!!
「わわっ……ちょ、!?」
「ほ、星が降ってくる!!」

 頭上に輝く満天の星が、一斉に零れ落ちる。
 光のシャワーのように。

「きゃー、当たる……って、アレ? この星、私たちの前で消えてく……」
「本当だ……すっげー、キレイ」

――主人公の星詠み、すっご!!

「……ふぅ」
 ふと気付くと、私たちの周りには人だかりが出来ていた。
「え、ええと……」
「すごい!! すごいねセンパイ! オレ感動したー!」
、アンタ天才よ!」
さんすごい!」
「キレイだったねぇ」

 皆から拍手喝采されて、私は戸惑ってしまった。
 これしか使えないのに、これじゃあまた変な期待されちゃうよ……。

「あ、あははは……私が使える唯一の魔法らしい魔法なんだ」
「そんな謙遜しちゃって、他の魔法も見せてよ」
「いや、ホントに出来ないの」
「またまたー!」
「いや、ホントに……」
「ほらほら、が食事出来ないでしょ。外野は散った散った」
 優子が助けてくれたので、とりあえず助かった。
「ありがと、優子」
「いいえ。でもホントキレイだったわよ」
「うん。センパイ、まじすごいよ!!」
「二人が喜んでくれたなら良かった」
 まだ興奮気味の二人を横目に、私は大きく溜め息をついた。
 これからどうしよう……。


――そろそろ選択肢出せよって感じ。てか飽きるよコレ。早く他キャラとの絡み見せろー!!

――放課後
「ねー、今日この後何か予定ある?」
「ううん、特にないけど」
「じゃあさ、ちょっと部活見学していかない?」
「うん。でも、何の部活?」
 ここで優子は、軽くウインクをした。
「――魔法陣研究部よ」


――お、もしかして、ついに新キャラ?
 部室に進んだみたいね。
 あ、あの灰色の髪のメガネ君は……

「失礼しまーす。杉原先輩、こんにちは」
「こんにちは、部活の見学をさせていただきたくて来ました」
「ん……?」
 本棚の影から出てきたのは、灰色の髪の男の人だった。
 校章の色から察するに、三年生だろう。
 メガネの下から覗く翡翠色の瞳は、とても綺麗だ。
「は、初めまして。と申します」
「部長、彼女今日うちのクラスに編入してきたんですよ」
「三村のクラスメイトか……。部長の杉原晋也だ」
 それだけ言うと、杉原先輩はまた本棚の向こうに消えてしまった。

――おいおい、メガネ。お前、無愛想にもほどがあるだろーが。てかいきなり消えるってどういうことよ? うぜー……

「部長! は、星の属性を持っているんです!」
 優子が呼びかけると、しばらくの沈黙のあと、杉原先輩が再び現れた。

――結局再来かよ。

「……それは本当か?」
「もちろんです。さっき、魔法も見せてもらいました」
「……そうか」
 そして、考え込む素振りを見せると、杉原先輩はそのまま私に向かって歩いてきた。
「えっ、あの……」
……と言ったな。君の魔法を是非見せてもらいたい」
「いや、あの」
「俺たちは魔法陣を研究しているんだが、星属性に関してまるで手付かずなんだ」
 優子が頷く。
「私の属性は水。部長は風。他の部員で、炎と土の人間はいるんだけど、星だけはいないのよ」
「魔法陣は、その属性を持っていなくても魔法を使うことが出来る一種の呪い(まじない)文様だ」
 杉原先輩は、近くにあった紙に魔法陣を描く。
「俺は三村の言ったとおり、風の属性だ。しかし、この魔法陣を使えば……――凍結」

――め、メガネが光った!! ぎゃははははっ!!!

――ぱきんっ
「!?」
 目の前に、突然氷の壁が現れた。
 厚さこそあまりないが、確かに氷がある。
「……このように、水の魔法を使うことが可能になる。他の属性も同様だ」
「すごい……」
「でも、星だけは魔法陣を作り出すことが出来ていない。他の属性も完璧とは言えないが、星はその理論すら分からないんだ」
「だからね、。アンタには是非協力してほしいのよ」
「えっ!?」
「俺からも頼む。協力してくれないか?」
「わ、私……その……」
 二人が揃って頭を下げてくるが、私は一体どうすればいいの??
 だって、星の属性があるって言ったって、実際問題日常生活に役立つ魔法なんて一つも使えないのよ?
 どんな協力が私に出来るっていうの?
「あー……う……」
 唸っているその時だった。誰かがドアを開けた。
「失礼します。副会長、クラスのアンケート用紙です……って、さんに三村?」
 入ってきたのは、高城君だった。


――静カッコイイ!! ナイスタイミングで現れたね。あーやっべ、メガネなんていらねー。

「高城か。そこに書類は置いといてくれ」
「はい。……さん、もう帰り?」


――あ、選択肢が出た!!
 
1、「まだ帰らない」
 2、「えっ……あ、うん」

 これはもち2を選択するわよ。ぽちっとな。

「えっ……あ、うん」
 つい言ってしまった。ここから早く出たい……そういう気持ちが出てしまった。
「そっか。じゃあさ、良かったら一緒に帰らない?」
「え!」
 高城君が、一緒に帰らないって言ってくれたの??


――帰る!! 帰りたい!!! 、帰りなさい!!! 静と一緒に帰るのよ!! せっかくそういうルートを選らんだのよ!!!

「ちょっと高城、は私と一緒に帰るの。横取りしないで」
「三村、でも君は部活だろ?」
「そうだけど……」
「じゃあ今日はさんと帰るのは諦めてくれないか」
「何でそうなるのよ」
「転入生を独り占めするのは駄目ってこと」
 そう言って、彼は悪戯っぽく微笑んだ。


――どきゅーんっ!! 静、お前やばいよその顔! ちょっと……いやまじでときめいたよ!?
 晋也は全く萌えない。むしろ笑える。

「高城君……」
「じゃあそういうことだから、さんは連れて帰るよ。また明日な、三村」
「あ、ちょっと高城!? を返せー!」
 私は高城君に連れられて、部室から出てきてしまった。
「あ、あの……」
さん、ごめんね無理矢理連れ出したりして」
「ううん、それは平気。でもどうして?」
「……たまたま最後の方の会話だけ聞いちゃって、さん、困ってたみたいだったから……余計なことしたかな?」
 そう言って、すまなそうな顔を向ける彼。私はかぶりを振った。
「全然。むしろ助かっちゃった。ありがとう」
「それなら良かった。三村ってさ、魔法陣のことになると人が変わったみたいに情熱的になるんだよ」
「うん、それは確かにそうかも……」
「副会長……あ、杉原先輩も、魔法学のエキスパートだし。とにかく魔法にかける情熱はすごいよ、あの人たちは」
「そうなんだ……」
「でも……無理に協力する必要はないと思うよ。何か、そうやって特別視されるのって嫌だよね」
「高城君……」
「俺は、さんも俺も、何ら変わりの無い魔法使い同士だって思うよ。確かに星属性は珍しいけど、でもそれだけだ」
 そして、軽く指を鳴らす。
 すると、目の前には美しい虹が架かっていた。
「綺麗……っ」
 もう一度指を鳴らすと、虹は消えていた。
「今のは、水蒸気を利用した簡易虹。これを応用して、蜃気楼なんかも作れるよ」
「すごーい!」
「でも、君のように星を降らしたりは出来ない。でも君は、僕のように虹は作れないだろう? それでいいんだよ」


――静、お前どうしてそんな台詞がぽんぽん出てくるんだい?
 カッコいいけど、何か決まりすぎてて空いた口がふさがらないよ。

「……」
「――泡沫」
 高城君が唱えると、今度はシャボン玉のような泡が漂い始めた。
 それは何と不思議な風景だった。
 まるで、海の中にいるような気分になる。
「高城君って、本当にすごいね……尊敬するよ」
「俺なんて、別に大したもんじゃないよ。でも、努力することは必要だし、せっかくまほアカに入ったんだし、能力を向上させたいのは事実」
「うん。私も、もっと頑張って色々な魔法使えるようになってみせるよ!」
「お互い頑張ろう」
「うん! もっと私に実力がついたら、優子たちのお手伝いが出来るかも」
「そうだな。そうしたら協力してあげるといいかもね」
 沈む夕日を見ながら、私は高城君と一緒に帰った。
 高城君って、本当に出来た人だなあと思う。。。



――自宅にて
 今日は高城君と仲良くなれたような気がする。

――お、好感度が漠然と分かるようになってるのね。

 
セーブする?

――するよ。静ルートだね、この記録は。

 
セーブしました。もう寝ますか?

――とりあえず、序章は終わったみたいね。はー、長かった。
 けどこれで、明日からはもちっと面白い展開が期待できそうだ。うひひ♪

 こうして私の「ときまほ」プレイ一日目は、幕を閉じた。


エピソード:1へ続く?